バロンズ:米国、中国の台頭で”途方もない特権”の座から転落か

バロンズ誌、創刊100周年記念号で次の100年に向けた投資を考える。1921年5月、クラレンス・バロン氏がバロンズ誌を発行した時、今のような世界は想像できなかった。なぜなら、テレビの誕生はそれから6年後であり、コンピュータやスマートフォン、そしてインターネット、さらにダウ34,000台というのは当時、想像もできなかった。今、100年先を予想するのも突飛なことだろう。そこで、バロンズ誌は3人の専門家、ブリッジウォーター・アソシエーツのカレン・カルニオル-タンブール共同サステナビリティ最高投資責任者、ベイリー・ギフォードで米国株及び長期グローバル・グロース・ファンズのヘッドを務めるトム・スレーター氏、そしてヤフーの共同創業者であり、AMEクラウド・ベンチャーズの創業パートナーであるジェリー・ヤン氏に話を聞いた。3人によれば、20世紀はテクノロジーの世紀だったが、21世紀はバイオロジーの世紀になるという。それは自動車にも及び、例えば自動運転はまず医療サービス供給部門が先駆けとなって普及が進むと予想する。詳細は、本誌をご覧下さい。

WD Stuart/iStock

当サイトが定点観測する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週はバロンズ創刊100周年にあたり、過去50年間の様々な危機に陥った市場の動向を振り返る。抄訳は、以下の通り。

バロンズ創刊100年、危機に陥りやすい市場がいかに過去50年間を形成したかを考える―Barron’s Turns 100. How Crisis-Prone Markets Shaped the Past 50 Years.

今週号で、バロンズ誌は創刊100周年を迎えた。同時に、筆者がニューヨーク・タイムズ紙の記者として雇われ、金融業界で執筆活動を開始してから、51年に及ぶ。採用された当時、まさか自分自身が経済と金融市場という歴史の証人になるとは、露ほども思わなかった。

理由の一つは、米経済を変えたテクノロジーの影響だ。かつては記者とタイプライターがひしめいていたが、今は印刷業務を除き、記者と編集者のコンピュータ間で事が済んでしまう。

筆者が採用されてまもなく、ペン・セントラル・レイルロードが破産申請を行い、それは企業の相次ぐ倒産の前触れだった。筆者が1980年代にダウ・ジョーンズに移った当時、金利は20%でピークを打つことになる。金融引き締めがメキシコや米国内の銀行の債務危機を招いた。同時に、インフレ高騰を抑制し、強気相場の幕開けにつながったものだ。

強気相場は1987年10月19日、ブラックマンデーで一旦中断する。当時、ダウは1日で22%も暴落した。その直前の週末にあたる10月16日、ベーカー財務長官(当時)は、景気回復や米株相場にとって冷や水となる金利上昇より、ドル安を容認する発言を行った。世界的な利上げ協調路線にひびが入ったとの見方とドル安不安が高まったことが、世紀の急落劇の背景にある。

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チャート:日米中、GDPの比較 作成:My Big Apple NY

市場の変動において長期的に重要な役割を果たしたのが金融政策当局者の対応で、特に米連邦準備制度理事会(FRB)がそれにあたる。アラン・グリーンスパン氏がFRB議長に就任し、利下げを通じ金融システムに流動性を注入し始めたが、金融市場は当時、Fedが臨機応変に利下げに転じるなど予想していなかった。例えば、1994年に開始した利上げがメキシコ債務危機やカリフォルニア州オレンジ郡の財政破綻を受けて、すぐに利下げに転じた。1998年のロシア財政危機やLTCM危機でも、”グリーンスパン・プット”が作動し、市場を支えたものである。

バロンズ誌が2000年3月に半期に一度の分析で警告した通りITバブルが崩壊した時には、Fedは当時過去最低となる1%までの利下げに踏み切った。それが米景気と米株相場の回復を支えたと同時に、21世紀最初の住宅バブルと金融危機をもたらすことになる。

マクロメイブンズのステファニー・ポンポイ氏はこの間、住宅バブルと金融システムについて警鐘を鳴らしてきた一人だ。彼女の警告が正しかったのは周知の通りで2008年9月に金融危機を迎え、銀行や自動車メーカーなど”大き過ぎて潰せない”企業に対し、政府が救済してまわったものだ。

そして2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、米政策当局者が何兆ドルもの資金を投じた対応策を講じたに関わらず、米経済は世界恐慌以来、最悪の景気後退に陥っている。

ポンボイ氏いわく、米政策当局は危機に直面する度に”迎え酒”のような対応を進めてきた。何兆ドルもの景気刺激策を展開し、Fedにマネタイズさせてきたというわけだ。足元、Fedが米国債や住宅ローン担保証券を取得しているのが、まさにそれに相当する。Fedが大量に米国債を購入できるのは、ひとえにドルが基軸通貨であり準備通貨としての価値によるものだろう。ジスカールデスタン仏財務相(当時)がかつて、この状態を「途方もない特権(exorbitant privilege)」と表現していたものだ。そのドルは、ブレトン・ウッズ体制崩壊後も基軸通貨であり続けている。

ポンボイ氏は、基軸通貨としての存在を謳歌してきたドルの優位性について、中国が人民元高を容認したことで、揺らぎ始めたと指摘する。トランプ前大統領は中国が人民元を不当に下落させたと主張したが、実際はその逆だ。実際、ドルの脅威は強く安定的な人民元だろう。自国の生産量を超える消費を行う米国の「途方もない特権」を脅かすに違いない。

中国の人民元高の容認は、金融システムの構造変化を象徴するものと捉えられよう。世界の各国中央銀行が準備通貨をドル以外に振り向けるのは新しいニュースではないが、明らかに米国の優位性を損ねるサインである。

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チャート:基軸通貨としての存在が脅かされつつあるドル(注:ドルとユーロは左軸、その他は右軸) 作成:My Big Apple NY

ポンボイ氏によれば、米国内の経済支援策は一時的な効果をもたらした程度だという。その陰で、ガソリン価格や食料品価格、リフォーム関連小売の価格が上昇中だ。同時に、ポンボイ氏は暗号資産のファンではないものの、ドルからの死シフトが進行中であるとも指摘する。ただ、暗号資産の上昇はFedの超緩和政策が生み出した過剰流動性の賜物と言える。

バロンズ誌の100年は、米国が英国を抜き超大国に躍り出た世紀だったとも言える。2つの世界大戦が英国の富を減退させ、植民地主義を崩壊させた。米国も中国の挑戦を受け英国のような運命をたどるのだろうか。西側は軍事大国だったソ連率いる東側に勝利したが、ロシアを始め旧ソ連諸国は一次産品で現在の軍事大国である中国に依存している。

米国は危機に直面する度にドルを印刷し、債務を拡大させてきた。米国債が世界一の資産として位置付けられていたからこそ可能で、その前提には米国の経済的かつ地政学的な力強さがある。

ダウやS&P500はバロンズ誌創刊100周年にあたり過去最高値を更新し、ナスダックも過去最高値まであと3%に過ぎない。米国株の上昇は、予想以下に終わった米4月雇用統計を受け、Fedが月1,200億ドルの資産買入を長期化させ、2023年までゼロ金利政策を維持するとの見方が強まったことで、支えられた。イエレン財務長官が景気過熱局面で利上げが必要と発言し、超緩和策が前倒しで行われるとの懸念を払拭させた。

バイデン大統領は、米4月雇用統計の結果につき、失業保険支給額の300ドル上乗せした追加経済対策の影響ではないと否定した。しかし、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのリサーチによれば、企業が失業保険支給額を上回るには、最低3万2,000ドル支払う必要があるという。その他、雇用が回復しない背景としては託児所不足、コロナ禍で進む引退者の増加などが挙げられよう。

追加経済対策に盛り込まれた現金給付、個人投資家の取引をそれほど加速させなかった。JPモルガン・チェースによれば。2020年12月をピークとして、個人投資家の取引は減少傾向にあり、3月から4月に掛けては急減したという(筆者注:経済活動の再開に伴い、株式取引を行う個人投資家が減少した可能性あり)。個別株の急騰も、3月以降にそれほどみられなくなったが、復活するか否かはロビンフッダー次第だろう。

--ドルの信頼性が揺らぐ一方で、米国の人口は先進国で唯一増加傾向をたどる見通しです。逆に中国は今後、高齢化社会が深刻化するだけに、成長力を維持できるか不透明。だからこそ、中国は海洋進出に注力し、13億人以上の人口を支えるべく覇権主義を強化しているのでしょう。バイデン政権の対応とみると、日本と台湾、そしてインド太平洋を軸に対中政策を展開しているように見えます。ただ、本領発揮するのは、6月以降となる見通し。バイデン大統領は2月10日、安全保障を軸に対中国戦略の見直しを行うよう国防総省に新たな創設した作業部会に命じ、作業部会は4ヵ月以内、すなわちまもなくオースティン国防長官に提出する予定です。インド太平洋調整官のキャンベル氏は5月6日、台湾政策の明確化に「大きなマイナス面がある」と発言した話題を呼びましたが、作業部会がどのような判断を下すのか、内容が待たれます。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年5月10日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください