バロンズ:住宅市場の過熱、Fedの早期テーパリング開始要因に?

バロンズ誌、今週のカバーは通信大手AT&Tを掲げる。同社は前週、傘下のメディア大手ワーナーメディアを分割し、同業ディスカバリーとの合併により新会社として設立すると発表した。新会社設立は、AT&Tにとって重要な経営戦略の変更であり、通信大手として主導権を奪回を狙ったものだ。投資家にとっては、AT&Tのファンダメンタルズより寛大な配当が問題となる。AT’&Tの株価はワーナーメディアの分割並びにディスカバリーとの統合を発表してから3日間で10%も急落した。これは、減配発表によるものだ。わずか2ヵ月前、投資家会合で、同社取締役は配当の水準につき確約する姿勢を打ち出していた。ウォール街のアナリストは大抵、買収や合併を支持する傾向にあるが、今回については猛批判している。AT&Tは年間の配当額を150億ドルから80億ドルへ減額する見通しである上、AT&Tは3年前に合意した1,060億ドル相当のタイムワーナー買収を巻き戻す方針だ。これにより、債務を減らすことが可能になる。投資家はいま、少ない配当をに堪え5Gなど通信網の投資を進める同社の株を保有し続けるべきか、悩んでいるに違いない。バロンズ誌はAT&T株の保有を推奨するが、その理由については本誌をご参照下さい。

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当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週は住宅市場とFedの金融政策を取り上げる。抄訳は、以下の通り。

Fedは住宅バブルとその崩壊を未然に防ぐため早々に政策変更も、その時どうなるのか―The Fed Might Start to Act Sooner to Head Off Housing Boom and Bust. What Could Happen.

4月27~28日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨を要約すると、コメディアンのジョーン・リバーズのキメ台詞「ちょっと話せる?(can we talk?)」の一言につきる。FOMC議事要旨で、一部の参加者が経済指標の好転を受けテーパリング開始の協議を進めたことが分かったためだ。

マエストロと呼ばれたFRB議長、グリーンスパン氏は回りくどい表現で知られるが、パウエルFRB議長は率直な物言いで知られる。そのパウエル氏は、2020年7月時点で利上げについて「考えることすら考えていない」と発言。物価が2%超で推移しても、ゼロ金利政策だけでなく大規模な資産買入策を維持する方針を打ち出した。

Fedウォッチャーは、4月FOMC議事要旨でテーパリング開始について協議を開始する可能性を示したことに驚きを隠せなかった。なぜなら、彼らはFedによる資産買入縮小のサイン点灯を8月末に開催を予定するカンザスシティ地区連銀主催のジャクソンホール会合まで待つと想定していたためだ。また、実際の資産買入縮小も、2022年初めまで行われないとも判断していた(筆者注:4月FOMC開催直前のFedサーベイをご参照)

しかし、コロナ禍によるパンデミックを受けて急変した2020年3月に注入した超緩和策をめぐり、Fedが目的を果たしたと宣言してもおかしくない。20年3月以降、S&P500は85%高を遂げ、投資適格の米社債と米国債のスプレッドも過去最低の水準まで縮小している。つまり、社債というリスク資産から得るリターンは限りなく小さくなった。住宅ローン担保証券(MBS)についても同様で、Fedが毎月400億ドル購入しているため、米国債とのスプレッドはわずか20bp程度に縮まった。住宅の買い手にとっては、米30年債利回りと30年物固定住宅金利が3%程度まで低下したことを意味し、住宅市場の過熱につながっている。

ボストン地区連銀のローゼングレン総裁は、住宅市場につき「私個人の見解として、恐らく住宅市場に支援は必要ない」と言及した。JPモルガン・チェースのエコノミスト、アレックス・ローバー氏はこれを受け「金融安定上のFedの関心事は、住宅市場の過熱ではないか」と指摘する。

ボストン地区連銀総裁は、Fedウォッチャーの間で今後の方向性を示すリーダーとして位置付けられるだけに、同総裁の発言には注意すべきだ。パンデミック以前、ローゼングレン氏は商業不動産の価格上昇を懸念していた。仮にFOMC参加者の間で同総裁の見方が支持されれば、Fedは足元の買い入れ規模を維持しつつ、MBSの買入を減らし米国債に注力しうる。あるいは、米国債の買い入れ規模を縮小する前に、MBSをテーパリングしかねない。ただ、JPモルガンの基本シナリオは、米国債とMBSの買入縮小を同時に行うというものだ。

とはいえ、住宅販売向け在庫がひっ迫する状況で、住宅需要を抑えるにあたって正当化しづらい事情もある。新規の住宅建設件数は資材や労働の不足を受けて減少中だ。しかも、住宅保有者が新たな引っ越し先を見つけづらい状況で売り惜しみしているため、中古住宅の在庫も低水準にある。

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チャート:住宅在庫、中古は過去最低から徐々に回復も低水準(作成:My Big Apple NY)

Fedによる資産買入規模の変更を通じ、こうした問題は悪化しかねない。ただ、住宅市場が支援を必要とするよりも、銀行に影響が及びうる。銀行はMBSの大口の買い手であり続け、ネッド・デービス・リサーチによれば、年間の購入額は5,320億ドル、月間では440億ドルとFedの資産買入規模を上回るほどだ。コロナ禍で銀行預金に資金が流入する一方、貸出の伸び率はそれほどでもなく、結果としてうず高く積み上がるキャッシュを金利収入が見込まれるMBSに投じてきた。来年にかけ、MBSの利回りは米国債に対し20~30bp拡大する見通しだ。仮にFedが元本の再投資も終了すれば、追加で20bp拡大するだろう。

販売用の住宅在庫のひっ迫は、住宅関連株にも表れている。ヤルデニ・リサーチによれば、iシェアーズ米国住宅建設ETF 投資信託(ITB)は5月10日から19日かけ9.1%下落し、S&P500の1.6%安と比べ下げ幅が大きい。ITBの弱いリターンの背景は、木材や銅など資材価格の高騰にある。資材価格の高騰は住宅価格を押し上げ、低金利でも値ごろ感を後退させてきた。実際、ミシガン大学消費者信頼感指数の住宅購入意欲は、1971年5月以来の水準へ落ち込んだ(注:筆者の調査では1983年以来の低水準)

消費者物価指数(CPI)の算出を踏まえ住宅関連コストの上昇の重要性を否定する者がいる一方、家賃収入を望む買い手にとっては問題が浮上している。住宅価格が上昇する半面、CPIにおける家賃が伸び悩んでいるためだ。ビアンコ・リサーチによれば、バイデン政権下で成立した立ち退き猶予が影響しており、一部の借り手は一切家賃を支払わないことで結果的に平均の家賃を押し下げているという。

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チャート:CPIとコアCPI vs 家賃の前年比推移(作成:My Big Apple NY)

CPIは回顧的な数字である上、何より立ち退き猶予はまもなく期限切れを迎える(筆者注:米国疾病予防管理センターは3月末に同措置が期限切れを迎える前の3月24日、6月末までの延長を決定)。エバーコアISIは、今後、家賃が上振れすると予想、しかも「一時的というより構造的に上昇する」可能性を指摘する。こうした見方は、驚きではない。足元で多くの世帯が住宅購入を目指し郊外へ殺到するなか、価格上昇などを受け実際に買えない状況が続くためだ。

資材価格の高騰で生産活動が減速するなか市場に調整が入り始め、木材価格は最高値から25%下落した。同様に、アルミやコーン、原油なども右肩上がりから一服しつつある。

しかし、コアCPI(食品とエネルギーを除く)の約3分の1を占めるのは、帰属家賃である。家賃は足元で抑えられているが、今後上昇に向かいインフレを押し上げよう。そうなれば、Fedが資産買入の縮小に転じるだけでなく、そのペースも加速しかねない。結果的に、ゼロ金利政策の解除も早めよう。

4月FOMC議事要旨公表後、ナットウエスト・マーケッツによれば、市場がみるFedの利上げ開始はこれまでの2023年4~6月期から1~3月期に前倒しされた。Fedはそのもっと前段階から、コミュニケーションを取るべく市場に語り掛けるだろう。

――FOMC議事要旨でテーパリングに関する協議開始を主張したメンバーは、足元の発言を振り返ると」緩和縮小を早めに検討すべき」と語るダラス地区連銀のカプラン総裁や、フィラデルフィア地区連銀のハーカー総裁と考えられます。しかし、議事要旨では”一部(a number of)”と表記されていたので、少なくとも2~3人ではないとみられ、カンザスシティ地区連銀のジョージ総裁などタカ派の地区連銀総裁のほか、5月5日に年後半にテーパリングが可能な地合いになると言及したボストン地区連銀のローゼングレン総裁が入っていないとも言い切れず。この2人は、2019年の予防的利下げに踏み切った当時、据え置き票を投じていました。いずれのメンバーも今年のFOMC投票メンバーではないとはいえ、今後のFOMC参加者の発言がテーパリング開始時期の占う上で重要であることに間違いありません。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年5月23日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。