バロンズ:インフラ計画への期待の陰で、物価と雇用への課題残る

バロンズ誌、今週のカバーは同誌が選ぶトップ最高経営責任者(CEO)30名を挙げる。2020年のコロナ禍において、原油先物は一時マイナスに沈み、経済活動は停止に見舞われ、CEOは難しい判断を強いられてきた。未曽有の危機のなかで、どの企業のCEOが自社を正しく導いてきたのか。詳細は本誌をご覧下さい。

Easyturn/iStock

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週はインフラ計画と労働市場などに焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。

インフラ計画でバイデン政権と超党派が合意、それでもインフレと雇用の問題は残存―Infrastructure Finally Gets Its Week. But Inflation and Jobs Haven’t Gone Away.

ワシントンD.C.では前週、バイデン政権と超党派が合意に達した。何で合意したかと言えば、筆者は2016年にバロンズ誌のカバーで交渉が極めて困難と指摘した、橋梁や道路、交通システムなどインフラ計画(米国雇用計画)についてである。ただし、民主党がわずかなリードしか確保していない状況下、育児・医療支援策(米国家族計画)と一括で可決できるかが問題だ。

バイデン政権は、8年間で1.2兆億ドル規模のインフラ計画をめぐり、超党派の上院議員と24日に合意したとの声明をリリースした。合意内容には輸送システムや電力網、ブロードバンドなどを対象とした5,590億ドルの新規歳出が盛り込まれた。増税を含まず。財源は内国歳入庁(IRS)による徴税強化や、コロナ関連での経済支援策での未使用分(各州から返還される失業保険向け資金を含む)、戦略石油備蓄の一部原油売却によって賄う。

一方で、プログレッシブ寄りの議員が進め、バイデン大統領が「人のインフラ投資」と呼ぶ育児・医療支援策(米国家族計画)は、上院で民主党議員50人全員が支持が必要な財政調整措置を活用する方針だ。民主党のペロシ下院議長とシューマー上院院内総務はインフラ計画と育児・医療支援策合わせて7月に採決する方針を表明したが(共和党のマコーネル上院院内総務は2つの案を切り離すよう求め)、7月と言えば債務上限停止の期限切れを迎える

S&P500やナスダックが過去最高値を更新したように、大規模な資金流入が期待される。同時に、米債市場は恐らく、過去を例をみても政府による歳出拡大の動きにはそれほど反応しないだろう。何より米債市場は、マクロ指標や米連邦公開市場委員会(FOMC)の政策に注目し続けるはずだ。地区連銀総裁からは早期の利上げを支持する声が聞かれたものの、米連邦準備制度理事会(FRB)を率いるパウエル議長や、FOMCで副議長を務め地区連銀総裁としては他地区連銀総裁と違って恒久的投票メンバーを務めるNY地区連銀のウィリアムズ総裁は、性急に超緩和策を解除しない姿勢を打ち出した。

6月FOMCでは、インフレが2%という目標値を上回るなかで、資産買入の縮小の議論開始に着手した。とはいえ、FOMCの真のターゲットは物価というより、労働市場のようにみえる。BCAリサーチのストラテジスト、ジョナサン・レバージ氏は「多くの投資家がFedの金融政策をめぐり物価がドライバーになると予想する一方で、利上げ開始のタイミングや利上げの頻度は、Fedの統治目標である”雇用の最大化”への進展次第だ」と語る。

7月2日発表の米6月雇用統計では、労働市場の進展が注目される。しかし、パンデミックの影響が労働市場に影響を及ぼし続け、就労者数がコロナ前の水準を回復するまで約800万人必要な陰で、求人数は約930万人に及ぶ。この乖離した2つの数字は、コロナ禍での職場復帰のためらいのほか、託児所不足、寛大な失業保険給付の上乗せなどが影響したとみられる。労働参加率は働き盛りの世代で一部改善しするものの、55歳以上は急低下した後も低水準を続ける状況だ。

lp_may

チャート:労働参加率の推移、5月に55歳以上は38.4%、25~54歳は81.3%と、共に20年2月の40.3%、82.9%以下(作成:My Big Apple NY)

米6月雇用統計は、正常化への回帰を評価する上で手掛かりを与えてくれるだろう。しかし、統計上の歪にも注意が必要だ。J.P.モルガン・チェースのエコノミスト、ダニエル・シルバー氏は季節調整が教育が押し上げられ、非農業部門就労者数(NFP)が前月比80万人増と、市場予想の70万人増を超えていく可能性がある。皮肉なことに、教師の間で引退が進んでいるだけに、統計は現実と相反する結果を表しかねない。

――米6月雇用統計では、NFPの上振れや賃金上昇率の加速でインフレ警戒が再燃し米株高に冷や水となるリスクがある一方で、労働参加率もポイントになりえます。連邦政府による失業保険給付の上乗せ措置をめぐり、全米で少なくとも25州が前倒しで終了を決定しました。連邦政府の支援は州の失業保険と合わせ、時給換算で17ドル、最低賃金で民主党が求める15ドルを超えるわけですが、この措置が終了する過程でも労働参加率の改善が鈍ければ、失業率の低下が労働市場の回復を必ずしも表すわけではありません。FRBの金融政策にも、影響することでしょう。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年6月28日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。