バロンズ:米債利回りの低下、景気減速の織り込みを示唆か

バロンズ誌、今週のカバーはミーム銘柄(企業の業績に関係なく、オンライン掲示板のレディットやツイッターなどのSNSなど情報共有により人気が高まり、短期間で急激に株価が乱高下する銘柄を指す)を取り上げる。ゲームストップやブラックベリー、さらには破産申請したブロックバスターなど、投資家に忘れられたような存在だった銘柄が息を吹き返した。これまで「愚かな投資家(dumb money)」とされた個人投資家がコロナ禍を経て株式市場に参入、一連の株価を押し上げており、足元はピーク時の2月を下回るとはいえ、大手証券会社の取引額はコロナ前の2~3倍に膨らんでいる。1日の平均売買代金はGAFAの一角であるアップルが95億ドル、アマゾンで103億ドルに対し、ミーム銘柄の代表格である映画館チェーン大手AMCエンターテイメント・ホールディングスは131億ドルに及ぶ。世論調査では、デイトレーダーの58%がコロナ禍が収束した後も取引を増やすと回答、減らすとの回答の12%を上回り、今後もミーム銘柄の隆盛が続きそうな勢いだ。ミーム銘柄の今後の見通しや詳細については、本誌をご覧下さい。

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当サイトが定点観測する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週は米債市場が示唆する米下半期の景気動向に焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。

米債の奇妙な推移、下半期の景気鈍化を示唆か―Bonds’ Odd Behavior May Presage Weaker Second-Half Economy.

米債市場は人々の心理を表して推移する傾向があり、足元では米債利回りは低下し投資家の注目を集めている。当初、コロナ後の経済活動の再開やワクチン普及、財政出動を背景とした景気回復期待から、米10年債利回りは2020年末の約2倍にあたる2%へ向かうと思われた。しかし、1~3月期に1.75%をつけた後、7月8日には1.25%と2月以来の水準へ低下している。一体、なぜ利回りは低下しているのだろうか。

経済は明らかに回復し、物価も上昇している。住宅バブル懸念がくすぶり半導体不足に伴う自動車生産の減産に見舞われるなか、エコノミストの4~6月期実質GDP成長率の予想平均は前期比年率9.6%増だ。株価は過去最高値付近で推移している。しかし、米債市場はこうしたメッセージを受け取っておらず、米10年債利回りは低下中だ。これは、下半期の成長加速より、現金給付を予定していないなど財政出動の減退などを背景とした成長鈍化を織り込んだ動きと考えられる。同時に、Fedが行う月1,200億ドルの資産買入を縮小する見通しも含まれていよう

利回りの低下し米債に資金が流入するなかで、米株は景気減速懸念から一時売りが優勢となった。しかし、米10年債利回りが1.25%から切り返すと買い戻され、ダウを始めS&P500やナスダックは最高値で取引を終えた。

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チャート;S&P500と米10年債利回り、米株安局面でFedはこれまで緩和政策を決定 (作成:My Big Apple NY)

来週、米株市場は米6月消費者物価指数(CPI)や同小売売上高など重要な経済指標を数多く予定し、14日には半期に一度行うパウエルFRB議長の議会証言を控える。米6月CPIでは、前月比0.5%と5月の0.6%を下回る見通しで、米6月小売売上高は自動車販売に押し下げられ前月比0.6%減と2ヵ月連続での減少が予想されている。自動車については半導体不足に伴う減産が影響しているが、中古車販売も減少に転じる見通しだ。

パウエル氏は、議会証言で労働市場を軸に景気の進展について質問されるに違いない。9日に公表された金融政策レポートでは、過去最多となった米5月求人数に対し6月失業率が上昇した問題が取り上げられ、こうしたミスマッチに対し金融政策での対応は、景気を過熱させ物価上昇リスクに直面するような政策を展開する以外に、限定的にならざるを得ないとしている。

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チャート:求人数、採用者数、離職者数の推移 (作成:My Big Apple NY)

市場参加者にしてみれば、パウエル氏に資産買入による米債市場や米株市場、住宅市場への影響についての見解を聞きたいところだろう。住宅市場に関して言えば過熱を受け、Fed高官の何人かは既に住宅ローン担保証券の買い入れ(月400億ドル)規模を縮小すべきと主張している。ただ、多くのFedウォッチャーは、住宅ローン担保証券だけでなく米国債を含め、来年までテーパリングを予想していない

Fed以外に注目すべきは中国人民銀行の政策で、銀行預金準備率50bp引き下げ た長期流動性を約1兆元(約1,540億ドル)拡大させ、景気回復を下支えする方針だ。

マイケル・ハートネット氏率いるバンク・オブ・アメリカのストラテジー・チームは、中国の高利回り債のスプレッドが過去6週間で拡大中と指摘したが、これは中国のテクノロジー株の下落と同時発生している。人民銀行の緩和策は、こうした信用市場の緊張を緩和する狙いがあったのだろう。米中いずれも、中央銀行の金融政策が金融市場のカギを握っていることに違いはない。

――デルタ株の大流行に加え、一連の弱い材料もあって年内のテーパリング観測は後退中。今週に予定するパウエルFRB議長の議会証言が注目されますが、パウエル氏と言えば6月FOMC後にテーパリング議論開始に着手したと発言し株安になった途端、6月22日にインフレ加速だけで性急な利上げを行わず、労働市場へ配慮する姿勢を示したことが思い出されます。直近は米株高局面にあるとはいえ、夏場の薄商いの際に市場が変動しやすいだけに、混乱の種を蒔くリスクは低い。金融政策レポートでも、労働市場の回復がまだら模様であると強調しており、議会証言でも同様の見解を述べることでしょう。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年7月11日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。