バロンズ:ニクソン・ショックから50年、ドルは基軸通貨の地位を維持できるか

安田 佐和子

バロンズ誌、今週のカバーは航空防衛大手ボーイングを取り上げる。同社は4~6月期の決算で予想外の黒字を計上し、投資家を喜ばせた。「737 MAX」とコロナ禍の影響が及ぶ以前の2019年以来となる黒字反転により、株価は上昇。さらにボーイングは175カ国がMAXの運航再開を許可し、2020年11月以降、130機以上を納入したと発表した。決算発表後のカンファレンス・コールで、アナリストは既に視点をリスク管理から正常化にシフトした質問を浴びせた。質問内容は利益率がコロナ以前の水準に回復する時期を始め、利益達成のためのコスト削減が同社に与える負のインパクト、航空機需要の実態、さらにバッテリーの不具合などを787型機に関わる問題、研究開発費の動向、エンジニア確保に向けた努力など。株価が戻り歩調にあるとはいえ、2019年3月の高値440.62ドルのほぼ半値にとどまるだけに、フェアな質問と言える。未だ株価が低空飛行を続けるなか、同社の今後の見通しについては、本誌をご参照下さい。

リチャード・ニクソン大統領 Wikipediaより

当サイトが定点観測する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週はニクソン・ショック50周年を受け、基軸通貨ドルに焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。

ニクソン大統領が金とドルの交換停止を決定してから50年、ドルの優位性は脅威に直面-50 Years After Nixon Ended the Gold Standard, Dollar’s Dominance Faces Threat.

50年前の日曜日、ニクソン大統領が大胆な経済政策を発表し、その中には金とドルの交換停止が含まれた。あれから、世界の金融システムは変動相場制へ移行していった。それでもなお、ドルは基軸通貨であり続け貿易や金融、価値保存の手段として使われている。ただし、今後の50年にわたり基軸通貨であり続けるかは別問題だろう。

ブレトン・ウッズ体制は当時、第2次世界大戦以降の米国の隆盛を反映していた。当時、通貨はドルを基軸とした固定相場制が採用され、金は1オンス35ドルで交換されていた。通貨の不安定な推移と1930年代のような競争的な切り下げを回避する目的で、導入されたシステムだったが、ブレトン・ウッズ体制はトリレンマを生み出した。各国は固定相場と自由な資本フロー、独立した財政と金融政策を維持できず、これら3つのうち2つを選ばざるを得なくなった。固定相場は通貨を通じた経済の調整弁で、インフレ上昇局面や貿易収支が赤字に陥った局面では引き締め政策をとる必要が生じた。ニクソン氏は1972年の再選を見据え、こうした制約を取り外したわけだ。

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チャート:ドル円の推移 (作成:My Big Apple NY)

1973年3月までには為替は変動相場制が敷かれ、現在に至る。その間、ドルは1970年代にエネルギー価格の高騰を受け世紀のインフレ局面に遭遇し、ドル安につながった。1976年に誕生したカーター政権では、米財務省が貿易赤字縮小を狙い、ドル安を支持したものだ。

1980年代には、ボルカー氏率いる米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ撲滅を狙った利上げの他、レーガン政権での成長戦略受け、金利が上昇しドル高が進んだ。ドル高は1985年のプラザ合意につながり、ドルの価値を下げ世界全体で財政拡大政策を促すことになる。ドル安が急速に進んだ影響で、1987年2月のルーブル合意でドル安に歯止めを掛けようとしたものの、同年10月にはブラック・マンデーが金融市場を直撃し、ドルは一段安を迎えた。そして1990年初めまで、ドルは1970年代の安値水準へ戻ってしまった。

ただし、1995年にドルは転換点を迎える。クリントン政権で財務長官に就任したルービン氏は「強いドルは国で益」と宣言、ドルはITバブルまで上昇することになる。しかし、2000年には再びドル安が優勢となり、金融危機でさらにドル安が進んだ。

未曽有の景気後退を経て鈍い経済回復のなか、2015~16年にドルは回復したが、貿易赤字是正を目指すトランプ政権下では、ムニューシン財務長官がドル安を容認する発言で世間を騒がせた。

そして今年、現在の財務長官であるイエレン氏は、競争力確保為のドル安に反対の意を表明する。

過去半世紀にわたり、ドルは英語が世界の公用語たる役割を果たすように基軸通貨であり続け、批評家によれば「途方もない特権」を得ているという。確かに、米国は貿易赤字と財政赤字のファイナンスする上で有利だ。ただ、ドルの供給量が増え過剰になれば、著名なエコノミスト、ロバート・トリフィン氏が指摘するように、ドルの信認は低下し世界の基軸通貨たる立場でいられなくなるだろう

マクロメイブンズのステファニー・ポンボイ氏は、転換点が近いと指摘する。Fedの金融政策は、一時的以上のインフレ加速につながる財政赤字を補填してきた。同時にインフレ加速は、ディストレス債や、物価上昇に合わせ借入を増やした消費者に圧力を加えうる。

Fedの金融政策における別の問題として、株式バブルが崩壊すれば、現在価値で6兆ドルもの積み立て不足を抱える公的と民間の年金の状況が悪化しかねない。資産買入によってウォール街を救済してきた以上、政府はメインストリートの救済を拒否できるだろうか?

既に、世界外貨準備通貨のドル比率は2000年の70%台から、60%割れまで低下している。

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チャート:外貨準備、ドルをはじめ各通貨の比率 (作成:My Big Apple NY)

とはいえ、ドルの代替通貨は見つかっていない。ユーロは市場でシェアをあ高めたが、欧州債務危機が発生したように短所は明白だ。円はマイナープレイヤーであり続け。ポンドはとっくの昔に準備通貨としての地位を失っている。

人民元は、中国経済が世界第2位の規模に成長するに合わせ存在感を増しているが、金融システムにリスクが控え、シャドー・バンキング部門に不安を抱える。また、中国政府自体、足元のIT企業や教育関連事業への規制強化で示されるように、為替を始め金融システムへの全面的に支配する状況だ。

では、どの通貨がドルに取って代わるのだろうか?一部では、金本位制という抑制から解放され無尽蔵に発行される各国通貨ではなく、仮想通貨が挙げられている。ビットコインは4月につけた最高値から30%下落したとはいえ、年初来で50%上昇した。その半面、ボラティリティの高さから安全に交換できず、投機的な資産として問題視されている。

ステーブルコインのテザーはドルに連動しているが、透明性に欠ける。一方で、中国人民銀行をはじめ、中央銀行のデジタル通貨(CBDC)が試験運用され始めた。

Fedもでデジタル通貨を研究し、パウエルFRB議長が再任されない場合、次期議長で最右翼とみなされるブレイナードFRB理事は、デジタル通貨の実現は急務と警告を鳴らした

アスペン・インスティテュート・エコノミック・ストラテジー・グループにて、ブレイナード氏は「ドルは国際決済で支配的な地位を有し、他主要国でもデジタル通貨を持ち、CBDCを提供しているにも関わらず、米国にはデジタル通貨がないという状況は、私には理解できないし、持続可能な未来だとは思えない」と発言したものだ。

良かれ悪しかれ、半世紀前に世界は金からマネーを引き離した。ドフトエフスキーの名言を借りるならば、金が存在しないなら、全てが許されるのだろう。ドルは、支配的な地位を維持し債務を半永久的に拡大し続けるのか?それは、限度を突破するまで分からないのではないか。

――ドルの地位が低下する背景で、外貨準備の通貨シェアは大きく変化しています。2016年以降、国際通貨基金(IMF)の統計に個別で紹介されるようになってから、人民元はわずか5年でシェアは20年末までに2.3%へ上昇、加遂にドルを抜き5位に浮上しました。その陰で、実は日本も大健闘。円は6.0%と、2000年以来の水準まで回復しています。インド太平洋を中国の対抗軸として展開し、一帯一路に代わって途上国を支援できるならば、通貨での人民元の台頭を抑えられるのか、その役割が試されることでしょう。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年8月15日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。