米企業でワクチン義務化が進行中、アメリカ人は何を思う

米8月雇用統計では、黒人の雇用回復が鈍い状況が浮き彫りとなりました。バイデン大統領は、結果を受けて「力強い雇用増を達成できなかった理由は、デルタ株の影響ということに疑いの余地がない」と発言、ワクチン未接種がパンデミックを悪化させているとして、ワクチン接種の必要性を強調しました。

バイデン大統領 ホワイトハウスHPより

バイデン氏の発言通り、労働参加率の伸び悩みはデルタ株の感染拡大と考えられます。全米の新型コロナウイルス感染者動向は9月3日時点で約15万人と、7ヵ月ぶりの高水準近くで推移。入院患者数は8月28日週に1,165人とこちらも2月後半以来のレベルへ増加しました。一方で、ワクチン接種率は足元で上昇、全人口での完全接種率は53.0%へじわりと上昇しています。

しかし、人種別での接種動向をみると黒人は8月16日時点で40%と引き続き最低とでした。

v-r

チャート:黒人の接種率は引き続き低調(作成:My Big Apple NY)

接種率が低水準でも米8月雇用統計で黒人の労働参加率が上昇したのは、失業保険給付上乗せ措置の9月6日撤廃を見越した労働市場の復帰があるのでしょう。また、黒人全体でみるとワクチン接種に必ずしも慎重というわけではありません。

デルタ株の感染拡大を背景に、ゴールドマン・サックスやウォルマートなど、従業員にワクチン義務化を導入する企業が増加しつつあります。バロンズ誌によれば、8月半ばまでにダウ平均構成銘柄の27%が義務化を決定していました。こうした動きに対し、米国人の意見はというと、「職場でのワクチン義務化に賛成」との回答は50%に対し、「どちらでもない」は23%、「職場でのワクチン義務化に反対」は26%でした。

v-poll

チャート:職場でのワクチン義務化に米国人の賛成は半数ながら、反対と様子見を合わせると拮抗(作成:My Big Apple NY)

人種別をみると、「職場でのワクチン義務化に賛成」との回答が最も多かったのは黒人とヒスパニック系で53%となり、白人の44%を大きく上回りました。対面サービスを提供する職業に従事する割合が高いためです。職場でのマスク着用についても、白人の支持が42%に対し、黒人は最も高く73%、ヒスパニック系は59%でした。それでも、黒人の間でワクチン接種率が低いのは、対面サービスの業務に従事する労働者が多く、時間的制約から接種できない事情が伺えます。

なお、興味深いことにこの世論調査結果の報道をみると、調査元のAPを始めCBSNBCなど、リモートワーク中の従業員の59%が「ワクチン義務化に支持」と回答したことを大々的に報じる傾向がありました。バイデン政権のワクチン接種推進を後方支援しているかのようです。

ところで、米8月雇用統計での学歴別の労働参加率は、中卒以下で低下が目立ち、大卒以上も前月を小幅ながら下回りました。この結果、実はワクチン接種への姿勢と整合的なんですよね。

カーネギー・メロン大学とピッツバーグ大学が1月6日から5月31日に約500万人を対象に実施した世論調査によれば、学歴別でワクチン接種に消極姿勢が真っ二つに分かれました。「ワクチン接種にためらいを感じる」との回答は大学卒や修士号取得者で低水準だった半面、高卒以下だけでなく博士号取得者で高い割合を占めていたのです。

v_e

チャート:博士号取得者は5月時点で23.8%、高卒以下が20.8%に対し、大卒(学士)と修士号取得者は低水準となり、U字型を形成(作成:My Big Apple NY)

また、地域別では民主党地盤が並ぶ北東部が12.6%、太平洋部が12.1%と低い一方で、共和党地盤の南部は19.2%と高く、続いてラストベルを擁する中西部(18.1%)、山岳部(17.9%)となっています。地域別での数字の通り、共和党支持者の間では19.2%と、民主党支持者の14.4%を上回りました。

人種別で、最もワクチンをためらうのは白人で15.6%、次いでヒスパニック系が13.4%、黒人が13.0%、アジア系が3.2%となります。黒人の間でためらう回答者がそれほど多くない割に接種率が低いのは、接種する時間的余裕を確保できないなど物理的に理由があるのかもしれません。

年齢別では、若い世代でワクチン接種にためらいがみられます。働き盛りの男性の労働参加率で、白人の25~34歳が低下していましたが、ワクチン未接種の割合の高さが職場復帰先送りに繋がった可能性を示唆します。

v_age

チャート:年齢別、75歳以上を除き若い世代ほどワクチン接種に消極的(作成:My Big Apple NY)

なお、トランプ支持者がワクチン接種に否定的との定説通り、2020年の米大統領選でトランプ氏が優勢だった郡でワクチン接種に消極的な回答が目立ちました。

v_t

チャート:トランプ氏に投票した郡でみたワクチン接種姿勢(作成:My Big Apple NY)

バイデン氏が必死でワクチン接種を訴えても、政治的信条や身体上の都合、その他の理由で接種を手控える米国人も一定程度存在するというわけです。自由の国、米国の有権者がバイデン政権のワクチンを始めとしたコロナ対応をどう判断するのか。答えは、中間選挙が行われる22年11月8日以降に判明することでしょう。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年9月6日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。