バロンズ:2人の地区連銀総裁の投資、FRB当局者への規制強化の引き金に

バロンズ誌、今週のカバーは通貨戦争を取り上げる。1世紀以上続いたドルの優位性は、困難に直面している。暗号資産と”ステーブルコイン(コインデスクによれば、価格を安定させるためにその価値が法定通貨やゴールドなど、別の資産クラスにペッグされている暗号資産)”の隆盛は通貨という概念を再考させ、誰が規制し、国家が管理しないのならば何の意味を与えるのかという議論を招いている。ドルそのものが、ビットコインその他のトークンに対抗し、瞬時に世界に送金できるデジタル通貨への変貌を遂げるべく、全面的な見直しに直面しかねない状況だ。暗号資産の時価総額は2.1兆ドルと、年初来で2倍に跳ね上がったビットコインだけで9,000億ドルに及び、エルサルバドルに至っては法定通貨として採用、世界を震撼させた。もちろん、暗号資産その他のトークンは未だ米国のマネーサプライ19.4兆ドルあるいは世界の貿易額の半分にも至っていない。しかし、ブロックチェーン技術によるドルへの挑戦を撥ねつけるのは簡単でではない。今後の暗号資産の見通しについては、本誌をご笑覧下さい。

ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)同氏Twitterより

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週はFed当局者による株式取引と今後の規制強化に注目する。詳細は、以下の通り。

2人の当局者の動きが疑念を集めるなか、Fedは取引規制を変える必要あり―The Fed Needs to Change Its Trading Rules After Two Officials’ Moves Raise Eyebrows.

「倫理的な行動とは、たとえ間違った行為が合法であったとしても、誰も見ていないところで正しいことを為すことだ」―とは、哲学者であり環境主義者であるアルド・レオポルド氏の言葉であり、金融政策の実行は金融市場が大きな影響が及ぶだけに、 株式取引を行ていた2人の地区連銀総裁を思い出させる。

ダラス地区連銀のロバート・カプラン総裁と、ボストン地区連銀のエリック・ローゼングレン総裁が過去1年間にわたり株式取引を行っていたという報道を受け、両氏は保有株全てを売却すると共に、今後はインデックスファンドあるいは現金で保有すると発表した。株式取引はそれぞれの地区連銀の倫理規定に反していないものの、外見上、利益相反に受け止められるリスクを回避するためだという。しかし、仮に彼らの行動が正しければ、レオポルド氏の言葉を借りれば、続けない理由はない。同時に、Fedが金融当局者の投資に関する規則を見直すこともなかっただろう。

ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)は度々Fedを始め金融機関を批判してきた急先鋒の一人だが、12地区連銀の総裁を呼び、総裁による株式取引の禁止するよう規制変更を求めた

地区連銀は準民間の機関であり、地域の銀行が保有し民間部門から選ばれた取締役によって管理されている。一方で、FRB理事は米大統領が指名し、上院が承認する。Fed当局者は、投資と取引につき情報開示の義務を負う。ダラス地区連銀のカプラン総裁やボストン地区連銀のローゼングレン総裁のケースが注目を集めた理由は、2020年3月のパンデミック対応の大胆な金融政策が影響した。当時、FF金利誘導目標を再びゼロへ引き下げただけでなく、大規模資産買入を再開し、さらには上場投資信託(ETF)や社債の購入に踏み切った。

Eric S. Rosengren Formal Portrait

画像:ボストン地区連銀のローゼングレン総裁と、ダラス地区連銀のカプラン総裁。共に、早期のテーパリングの必要性を主張。(出所:ボストン地区連銀並びにダラス地区連銀)

そして、2人の地区連銀総裁の投資対象には、Fedが購入した対象が含まれていた。ボストン地区連銀のローゼングレン総裁は、Fedが買入を再開した住宅ローン証券が含まれる不動産投資信託(REIT)を保有していた。住宅ローン担保関連REITと言えば金利の動きに敏感なだけでなく、金利水準や変動にさらされやすいデリバティブのヘッジとして使われてきた。

ダラス地区連銀のカプラン総裁は、金利上昇局面で安定的に推移する傾向があり、ディフェンシブ銘柄として扱われる投資適格級の変動利付債で構成されるiシェアーズ・フローティングレート・ボンドETF (FLOT)に100万ドル相当を投資していた。また、クローズ型投資信託であるBlackRock Floating Rate Income Trust (BGT)やBlackRock Floating Rate Income Strategies fund (FRA)にも、それぞれ100万ドル超の投資を行ってきた。

Fed当局者にとって、個別株を取り引きできなくなったとしても犠牲を払うことにはならない。ETFに投資すれば、あらゆるセクターへの投資が可能だ。ただし、銀行株の保有を禁止する規制は、金融関連のETFへ対象を広げるべきだろう。

また、Fedが社債のような中央銀行の政策に影響されやすい金利に敏感な商品への投資は、利益相反の観点から回避されるべきだろう。では、住宅建設株はどうか>あるいは、為替変動に影響されうる外債はどうか?それぞれ、議論の余地があるだろう。

かつて、Fed当局者は不適切性の疑念を芽を刈り取るべく、投資対象を徹底していた。例えば、1998年において当時FRB議長だったグリーンスパン氏は、投資対象を現金に等しい米財務省短期証券(Tビル)に概ね絞っていた。Fedの広報担当によれば、利益相反の問題を招かぬよう自身で決断によるものだという。

Tビルはほとんど金利が付かないが、Tビルの保有は求められているわけではない。バランスの取れた株式と債券のファンドであれば、利益相反を回避できるだろう。

――早期のテーパリングの論陣を張る2人が、REITにアクティブに投資していたとして問題になっています。規則に反していないとはいえ、 開示文書によれば、ボストン地区連銀のローゼングレン総裁は不動産投資信託(REIT)に4本に投資し、売買も数回行っていました。ゴールドマン・サックス出身のカプラン・ダラス地区総裁は前述のETFやクローズ型投資信託に加えアップルやフェイスブックなどパンデミック下でも好調な業績を維持したIT関連に加え、経済再開で恩恵を受けるとされたシェブロンなどエネルギー関連に投資していました。彼らの投資はそれぞれの地区連銀に情報開示し、承認を得た上で行われたとはいえ、REITなど金利上昇のヘッジとされるような銘柄へのエクスポージャーが大きいとあっては、ウォーレン議員などが中心となって民主党が規制のメスを入れないはずがありません。

その一方で、あくまでも邪推ですが、早期のテーパリングを主張していた2人の投資への問題点を指摘することで、ハト派にとっては増えつつあるタカ派の勢いを削ぐという利点があったと考えられます。バイデン政権に近いハト派のブレイナードFRB理事を始め、9月FOMC前のこの報道は渡りに船だったのではないでしょうか。

21~22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)を控え、敢えて金融政策に触れなかったのは、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙の報道の通り、9月の合意形成を行い、11月2~3日開催のFOMCで行動するとの判断だったのでしょうか。それでも、9月FOMCでは経済見通しとドットチャートが公表されます。6月に経済見通しなどが公表された時、2022年に利上げを見込む参加者は18人中、3月の4人→6月に7人、2023年の利上げを予想する参加者も3月の7人→6月に14人に増加した多数派に転じ、大いに話題となりました。デルタ株感染拡大を受けても、インフラ計画などの成立期待からタカ派的な見解が引き続き優勢となるのか。FOMCの決断が米株市場の調整地合いを強め、金利上昇を促すのか。まもなくその答えが明らかになります。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年9月19日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。