ウォール街のエコノミスト、中国成長見通しを下方修正―米国への影響は?

中国不動産開発大手恒大集団の他、電力不足を受け、ウォール街は中国の成長見通しを下方修正しています。遅ればながら、直近の動向をまとめました。

JANIFEST/iStock

中国の電力不足

・中国は発電資源の約6割を占める石炭不足を背景に、電力不足に直面している。5月頃から既に広東省で電力不足による供給調整を理由に操業停止を余儀なくされていたが、9月にはさらに対象地域が広がり、9月26日付けの環球時報によれば黒龍江省、吉林省、遼寧省の3省で電力供給を割り当て制へ移行、9月27日付けの同紙論説でも計画停電の必要性を説く。9月28日からは北京市や上海市に広がるなど、足元では中国全土の7~8割(電力消費量ベース)に対象が及び、日常生活や交通網、工場の操業に支障をきたす状況

・中国電力不足の背景は、①2030年までにCO2排出量を減少に反転させる目標達成に向けた中国政府の取り組み、②政府の取り組みに加え、鉱山の安全性強化に伴い生産大幅減少を通じた石炭不足(9割は国内炭)、③豪との関係悪化による同国からの石炭輸入禁止、並びにインドネシア豪雨による石炭生産障害、④国内での暖房を含めた需要増――が挙げられる。

・iPhone部品メーカーの台湾のペガトロンが中国政府の政策を受けた減産を報告するほか、フォックスコンの関連会社Eson Precision Engineering(乙盛精密工業股份有限公司)、台湾のユニマイクロン・テクノロジーも減産を強いられている。また、10社以上の台湾半導体関連メーカーは、台湾証券取引所に江蘇崑山市に集まる工場の一時閉鎖を通告。独インフィニオンや米NXPセミコンダクターだけでなく、米フォードや米テスラ、独VWにも波及するなど、状況は悪化の一途をたどる。

・中国の電力不足を受け、ゴールドマン・サックスは2021年の中国成長見通しを下方修正。7~9月期は5.1%増→4.8%増、10~12月期4.1%増→3.2%増とした。また、2021年では8.2%増→7.8%増へ引き下げ。電力不足によるサプライチェーン問題につき、「世界は過小評価している可能性がある」と警告を発する。

ノムラは、7~9月期の中国成長見通しを5.1%増→4.7%増、10~12月期の中国成長見通しを4.4%増→3.0%増へ引き下げた。結果、2021年を8.2%増→7.7%増へ、2022年の中国成長見通しを5.1%増→4.8%増へそれぞれ下方修正2023年の成長見通しは4.7%増と小幅回復にとどまると想定するだけに、中国経済は「下方リスクに傾いている」と警戒感を示した。

・格付け会社も同様で、S&Pは2021年の中国成長見通しを8.3%増→8.0%増へ、合わせてアジア太平洋地域も7.5%増→6.7%増へ引き下げたフィッチも中国の成長見通しを8.4%増→8.1%増へ下方修正。電力不足に伴う減産問題だけでなく、不動産開発大手恒大集団のデフォルト問題を通じ中国GDPの約25%を占める不動産セクターが同国経済を下押しするリスクが高まるなか、ウォール街のエコノミストは中国経済を軒並み下方修正しつつある。

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チャート:中国の実質GDP成長率と2022年までの見通し(作成:My Big Apple NY)

―米国への影響

・サプライチェーン問題から派生した、インフレ高止まりが継続するリスクが浮上。ペンシルベニア大ウォートン校の教授で、証券投資の大家として知られるジェレミー・シーゲル教授はCNBCのインタビューで「インフレはFRBが予想する以上に大きな問題となる」と予想。11月2~3日開催のFOMCで決定する見通しのテーパリングのペースを早めるなど、タカ派寄りの政策を展開する可能性を上げ、それが米株市場のリスクになると警告した。

・ただし、現時点でスタグフレーションのリスクは比較的小さい。米債務上限問題や歳出案が妥結しても、インフレ高止まりによる実質所得の低下が個人消費を押し下げ米成長を鈍化させるだろう。しかし米債利回りがインフレ高止まりでも景気減速懸念から低位安定すれば、緩和的な資金調達環境が維持され、リセッションといった最悪のリスクは回避されるのではないか

・また、Fedも中間選挙を控え、シーゲル教授が指摘するようなタカ派寄りの政策を打ち出す公算は小さいと見込む。特に、FRB副議長の2名が10月~22年1月に退任するなか、ハト派寄りでバイデン政権と近いブレイナードFRB理事がFRB副議長に就任するシナリオが濃厚。少なくともクオールズFRB副議長はタカ派寄りだったたことを踏まえると、ブレイナード理事のFRB副議長就任は、JPモルガンが指摘したように同指導部がハト派寄りへシフトする可能性を示唆する。

・なお、バロンズ誌によれば、ウォルマートやコストコなど小売大手はクリスマス商戦向け商品を6月頃に手配済みで、品不足による年末商戦売上高の落ち込みは現時点で限定的だという。

中国恒大集団の直近動向

・恒大集団の株式売買が4日、不動産管理部門の恒大物業と共に上場先の香港市場で停止。香港取引所への4日午前の届け出では、理由は説明されず。

・ブルームバーグによれば、恒大集団が保証しているジャンボ・フォーチュン・エンタープライゼズが発行したドル建て債、2.6億ドルの償還期限が3日となる。ただし週末だったため実際には本日が償還日となり、元本を償還できなければ、コベナンツとして猶予期間が設けられていないため、デフォルトとなり得る。なお、技術的ミスなどで償還できない場合は、5日間の猶予が与えられるもよう(主な利払いのスケジュールは日経新聞が報道)

・取引停止から間もなく、香港上場の不動産会社ホプソン・デベロップメント・ホールディングス(合生創展集団)が不動産管理部門である恒大物業の株式51%を取得する計画と、環球時報を通じロイターが報道

・ゴールドマン・サックスは、恒大集団が帳簿外に公式債務の1.9兆元(約33兆円)の50%を超える隠し債務を抱えている疑惑を指摘、GSは簿外債務を1兆元(約17兆円)と試算する。なお、GSは恒大集団の問題だけでなく、地方政府傘下の公共事業向け資金調達事業体”融資平台(LGFV)”に注目。LGFVの隠れ債務を含めた総債務額は53兆元(約6.4兆ドル)と、中国GDPの約52%を占めるという。

・一方で、フィナンシャル・タイムズ紙は、ディストレスト債投資家が恒大集団の社債を取得し始めていると報道。米マラソン・アセット・マネジメントのブルース・リチャーズ会長兼最高経営責任者(CEO)は9月29日、ブルームバーグに対し、最近になって恒大集団の社債を購入したことを明らかに、このような手頃な価格なら「買い続ける」と表明。その他、FT紙は複数の関係筋の話として、米ファンドのサバ・キャピタル・マネジメント、レッドウッド・キャピタル・マネジメント、シルバー・ポイント・キャピタル、コントラリアン・キャピタル・マネジメントも買い手になっていると報じた。

――中国の電力不足は物価を押し上げ、特に新興国を中心に中央銀行が引き締め寄りの政策へシフトせざるを得ず、世界景気回復ペースに冷や水を浴びせかねません。当然、米国にも中国の電力不足は飛び火する見通しで、エネルギー不足に伴いバンク・オブ・アメリカはWTI原油先物が今冬に100ドルを突破するリスクを点灯。米国も食費や家賃、そしてガソリンや光熱費などエネルギーといった生活関連の物価高止まりが続けば、中間選挙に影響を及ぼすこと必至です。

何より、気候変動対策を掲げるプログレッシブへの支持が低下するリスクに注意したい。足元で、リベラル寄りを除き気候変動対策の関心は高まっているとは言い難く、8月に実施したギャラップの調査で、経済対策を除く最大の関心事として気候変動対策を挙げた回答者は3%程度でした。そこへきて環境に配慮したエネルギー政策シフトで電力不足が生じれば、無党派層を中心に民主党から離れてしまってもおかしくありません。逆に言えば、3.5兆ドルの歳出案で気候変動対策の一部が削除されても、無党派層の影響は限定的と考えられ、寧ろ早々の歳出案の成立とデフォルト回避が望ましいように見えます。

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チャート:ギャラップ、経済政策を除く米国人の関心事(作成:My Big Apple NY)

恒大集団については、日本の住宅バブル崩壊というネバーエンディングストーリーのような様相を呈してきました。映画ではファルコンが登場しましたが、現実ではハゲタカが現れそうな雲行き。それでも、最悪の危機を回避するならば、中国政府としては御の字なのか。恒大集団の問題をめぐっては中国資本市場の急拡大もあって、米欧の金融機関の進出と合わせて動向を見守っていきたいところです。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年10月4日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。