バロンズ:米9月雇用統計、就労者数が大幅鈍化した理由

バロンズ誌、今週のカバーは米政府による金融規制強化を取り上げる。これまで投資家は、「Fedと争うな(Don’t fight the Fed)」との格言通り、米連邦準備制度理会(FRB)に戦いを挑むことはなかった。一方で、米政府に対しては、債務上限問題や3.5兆ドルの歳出案をめぐる膠着を無視する場面があったように、投資家は必ずしもその動きに逐一反応していたわけではない。しかし、こうした流れは終わりを告げようとしている。パンデミック対応に始まり、経済の減速、インフラ整備、気候変動、富の不均衡などといった問題は、FRBではなく米政府による財政政策での対応が必要だ。特に、3.5兆ドルの歳出案ををめぐっては、米経済の方向性を決定づけるだけに、注目が集まる。モルガン・スタンレーのマイケル・ゼザス氏によれば、10年間で1.9兆~2.9兆ドルの規模に収斂される見通しだが、財政赤字は5年間で5,500億~9,900億ドル拡大する見通し。同時に、気候変動対策でエネルギー銘柄、医療保険拡大や薬価引き下げをめぐりヘルスケア銘柄に影響を与えるとみられ、ウォール街は大きな政府に耳を傾ける必要性がこれまでになく高まっている。ウォール街が注目するバイデン政権下の政策と投資への影響に関する分析の詳細は、本誌をご覧下さい。

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当サイトが定点観測する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週はやはり米9月雇用統計に焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。

米9月雇用統計は散々な結果、詳細は複雑な労働市場の実態を浮き彫りに―The Jobs Report Was Ugly. But the Details Tell a More Complicated Story.

米国人は投資に明け暮れ、職探しをしなくなってしまったのだろうか?

足元で急増する投資アプリを使えば、利用者は通常取引と時間外取引で投資できる。こうした投資アプリとは一線を画し、新興企業の24エクスチェンジは、仮想通貨のような利用者に24時間投資できる環境を与えるべく、米証券取引委員会(SEC)に取引所設立の申請を提出した。ただ、結論が出るのは2022年となるだろう。

それはともかく、米9月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)の大幅鈍化が、投資に没頭する米国人が増加したためと結論付けるのは時期尚早だろう。いずれにしても、米9月雇用統計の結果はヘッドラインほど労働市場の回復が急減速を示すものではなく、11月2~3日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)でテーパリングを決定する公算が大きい。というのも、米9月雇用統計の詳細をみると、過去2ヵ月分が大幅に上方修正され、NFPが鈍化した理由も、過去3ヵ月、夏休みの間に季節調整済みで教育サービスは民間だけで約150万人も増加していた。

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チャート:教育部門の就労者数、季節調整を理由に6~8月に急増(作成:My Big Apple NY)

米9月雇用統計では、失業率が前月から急低下した。また、週当たり労働時間も延び、平均時給も前年同月比で加速した。労働人口は18.3万人減少し、労働参加率の低下を促した。

何が雇用を抑えたのだろうか?ブリーン・キャピタルのジョン・ライディング氏とコンラッド・デクエアドロス氏によれば、米国独立連盟で企業の6割が求人に見合った応募者を見つけられないと回答していたという。

コロナ禍において、米国人は明らかに職探しに慎重となっている。対照的に、カナダでの就労者数は9月にコロナ以前のピークを回復した。ローゼンバーグ・リサーチのデビッド・ローゼンバーグ氏によれば、カナダ政府による政府職員や輸送関連従業員などのワクチン接種義務化を受け、該当するカナダ人の約9割が最低1回ワクチンを接種し、ワクチン接種を完了した割合は82%に及ぶ。

翻って米国では、新規感染者数が減少しているにも関わらず、コロナを理由に約160万人が過去4週間において職探しをしていなかった。また、託児所不足や通勤の問題を理由に職探しをしていない潜在労働者は、コロナ前の水準を上回るという。

新型コロナウイルス感染拡大により経済活動が停止した20年3月に開始したFedの資産買入は、年間1.44兆ドルの流動性を経済に与えてきた。しかし、今となってはそう言えない。米株相場は過去最高値まで数%の距離にあり、住宅価格は前年比で20%近く急伸した。過剰流動性はトレーダーに利益をもたらしたが、そろそろ巻き戻しが必要だろう。

――最新の雇用動態調査によれば、7月の有効求人倍率(求人数+採用者数/失業者数)は2.02倍とコロナ禍で初めて2倍を超えました。しかし、20年2月の2.27倍はもちろん2019年の平均値である2.17倍も下回ります。

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チャート:有効求人倍率は、コロナ前の2019~20年2月の水準以下(作成:My Big Apple NY)

バイデン政権は1.9兆ドルの追加経済対策に続き、約1.2兆ドルのインフラ計画に加え、3.5兆ドルの歳出案の成立を目指し、財政支出の規模は最低でも約5兆ドルとGDP比の約2割に及ぶ見通し。感染者数の減少と合わせ、雇用の回復が期待されます。その半面、気掛かりなのは増税案とテーパリングの影響です。財政を吹かせば資産価格が高騰し庶民の生活を圧迫するだけに、テーパリングは必要なのでしょう。また、日本と違って海外の米国債保有率が約3割を占めるだけに、財政赤字の無防備な拡大は回避したいところで、増税も致し方なし。とはいえ、足元で中国の電力不足を背景とした景気減速を抱え、米国でもGDPの約7割を担う個人消費の源泉である雇用が伸び悩むなかでは、増税とテーパリングは少なくとも米株市場の重石となりそうです。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年10月10日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。