バロンズ:スタグフレーション懸念が高まるも、米株は最高値更新

バロンズ誌、今週のカバーはビットコインのETF先物を取り上げる。株式投資家は仮想通貨のいとこに嫉妬心を燃やしているのかもしれない。仮想通貨で最大のビットコインは前週、6万7,000ドルを超え過去最高値を更新。9月30日から50%も急伸し、強気派は10万ドル突破も近いと噂する。しかし、数週間前にビットコインは低迷していたものだ。米国や中国での規制強化という脅威に加え、採掘者による膨大な電気使用量を受けた批判も、売り材料となった。こうした仮想通貨関係者が言う「脅威、不確実性、疑念=FUD」は少なくとも一旦は立ち消え、ビットコインETF先物「プロシェアーズ・ビットコイン・ストラテジーETF(BITO)」が10月19日に上場し、わずか2日間で取引額は11億ドルに及んだ。さらにナスダックでは22日にヴァルキリー・ビットコイン・ストラテジー(BTF)が上場、その他のビットコイン先物ETFはヴァンエックやアドバイザーシェアーズ、アーク21シェアーズから続々から登場する予定だ。バンク・オブ・アメリカの仮想通貨ストラテジー・ヘッドのアルケシュ・シャー氏は「時価総額が2兆ドル、利用者2億人というデジタル資産は、無視するには大き過ぎる」と語るが、果たして今後もモメンタムを維持できるのか。気になる詳細は、本誌をご覧下さい。

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当サイトが定点観測する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週はスタグフレーション懸念の中でも過去最高値を更新する米株相場、並びに過去と現在の相違点を探る。抄訳は、以下の通り。

再びスタグフレーションに陥るのか、エコノミストが指摘する1970年代との相違点とは―Is Stagflation Coming Back? Economist Sees Parallels With the 1970s—and Big Differences.

BCAリサーチのマーティン・バーンズ首席エコノミストは、50年近くもウォール街に勤め、そのうち34年間はBCAに在籍し、今月末に引退を迎える予定だ。その彼が子供や孫が住むスコットランドに引っ越す前、バロンズ誌は足元の投資環境について聞いた。バーンズ氏は、BCAの本拠地であるカナダを出発する前に電話で、我々にこう語った―「2007~09年の金融危機以降、市場に参加した人は誰でも、現金をそれほど保有せず投資をすることが最善であると学んだが、多くの若い投資家には長期的な視点が欠けている」と。

バーンズ氏は自身のキャリアを通じ、1973年の第1次石油危機から2020年の新型コロナウイルス・パンデミックまで、数々の危機に直面した。同氏は、過去の類似点を導き出すことを戒め、1920年代のスペイン風邪とコロナ禍のアナロジーの場合も「過去と現在を比較して5~6個の類似点があったとしても、27個もの違いがある」と指摘する。

スタグフレーションを考えるにしても、1970年代と現代とでは大いに異なる。当時、インフレは企業と労働市場に組み込まれていた。政策当局者は長引くリスクへの警戒が足りず、債券投資家はどれほどインフレが進むのかを間違えて試算したため、インフレ率より格段に低い金利を受け入れていたものだ。結果、実質リターンはマイナスとなり大幅な値下がりに直面、金利は投資的格級のトップクラスでも10%台半ばまで急騰した。

果たして、現代においてデジャビュを体験するのだろうか?名目金利から期待インフレ率を引いた実質金利即ち米10年物インフレ連動債の利回りは0.96%のマイナス、米10年債利回りは1.68%、今後10年間の期待インフレは2.64%と、米9月消費者物価指数が前年同月比5.3%の割に楽観的だ。このように、米10年債利回りは当時のごとく、Fed当局者が繰り返し説明する通りインフレが一過性と信じているかのようだ。

チャート:米10年物インフレ連動債利回り、CPI(前年比)と裏腹にマイナス圏をキープ

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(作成:My Big Apple NY)

当時との違いがあるとすれば、FF金利誘導目標をゼロ近辺に引き下げ、米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を大量に買い入れていることだ。バーンズ氏に言わせれば、こうした政策により米債利回りは低水準で推移し、低リスク資産の不足を招いている。サマーズ元財務長官は、人口動態や膨大な債務によって低成長・低インフレ・低金利を余儀なくされる「長期停滞(secular stagnation)」を主張したが、バーンズ氏が同情を寄せるように、その言葉は足元忘却の彼方へ沈んでしまった。

とはいえ、人工的に過剰流動性が作られる状況では、住宅から株式まで資産バブルが発生しかねない。結果的に、資産配分の偏りに繋がり、個人投資家はごく一部の優良投資先に群がりがちだ。

さらに、バーンズ氏によれば労働市場においても時計の振り子は売り手市場に傾きつつある。ディスインフレ環境下にあった過去40年間は、生産性の向上やグローバリゼーションにより利益率を急激に高めた。しかし現代では、労働市場はひっ迫し利益率は低下圧力にさらされている

では、投資家はどうすればいいのだろうか?マクロ環境は依然として株式市場に有利に働き、配当も平均で米債利回りを上回る水準にある。株式は金利上昇に耐性も示すが、バーンズ氏は「足元の割高感を踏まえれば、長期的に6~9%のリターンを達成するのは難しい」と見込む。同時に、株式のリスク・プレミアムが債券に対し2~3%というのは、余りにも小さいとバーンズ氏は注意を促す。

ただし短期的にみて、50日移動平均などテクニカル分析に基づけば株式市場はポジティブと捉えられるという。バーンズ氏は、向こう6ヵ月間に10%の上昇を見込むが、20%以上の調整を迎える時期を予想するのは困難だと語った。

バーンズ氏に言わせれば、過去10年ほどしか市場に参加していない人々にとっては、現金を保有せず投資を行うことが正しいと何度も証明されてきた。バーンズは、経済史家チャールズ・キンドルバーガーの「友人が金持ちになるのを見ることほど、自分の健康や判断を妨げるものはない」という名言を挙げる。恐らく、誰かがスマートフォンのアプリをタップして行う取引で利益を上げて紙吹雪を降らせるのを見るのは、その倍の苛立ちを感じることだろう。

強気相場において、現金を維持て取引するのはプロの投資家にとって命取りとなりうる。しかし、バーンズ氏は「100ドルを失う失望感は、100ドルを得る時の幸福感より大きい」という通説を取り上げつつ、「長い間投資を行ってきた人々が理解しているように悪いことは起こるもので、だからこそ年寄りは保守的になりがちだ」と語る。

確かに、パイロットには大胆な者も年寄りも存在するが、大胆で年寄りのパイロットはいない。これは。投資においても言えることだろう。

――今回の名物コラム、奥歯に物が挟まったかのような表現で溢れていましたが、足元の株高に警鐘を鳴らす意図があったと考えられます。確かに、足元の決算発表ではデルタ航空が燃料費の高騰による利益圧迫を指摘し、P&Gが商品価格の高騰と配送料などコスト負担を報告し、インテルが市場予想を下回る決算を発表したほか収益悪化を予想した割に、ダウやS&P500は前週、過去最高値を更新してきました。また、バロンズ誌のビッグマネー調査で報じられたように、向こう1年間で10%の調整を見込む声が約8割も存在したというのに、好材料に反応しお構いなしの状況です。

この理由について、モルガン・スタンレーのマイク・ウィルソン米国株担当首席ストラテジストは「個人投資家の存在」を挙げます。筆者もこちらなどで指摘してきましたが、押し目買い意欲の根強さから機関投資家も追随して買い手に回らざるを得ないようです。このままサンタ・ラリーに突入するのか。その前にテーパリングの発表や、バイデン政権肝煎りの3.5兆ドルの歳出案における着地点など、12月3日に切れる債務上限問題とつなぎ予算と考えるべき障害が立ちはだかる点をお忘れなく。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年10月24日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。