バロンズ:米株高の熱気に反比例し、回復鈍い労働市場

バロンズ誌、今週のカバーは年末商戦を前に小売・服飾大手を取り上げる。服飾大手アバクロンビー・アンド・フィッチ(以下、アバクロ)の業績見通しは、コロナ禍で真っ暗のように見えた。セクシーな広告と香水で満たされた店内は当初、10代を引き付けたが、ショッピング・モールの人の出入りが減少した影響などもあって、2017年に株価は最安値をつけた。そこへコロナ禍が直撃、「小売の終末」が一段と広がった。しかし、経済正常化の過程でブランドの刷新もあって、アバクロは2000年代で最も力強い業績を叩き出している。5~7月の売上高は前年同期比24%増となり、コロナ直前からも3%増を記録した。店舗に顧客が戻り財布のひもを緩めるなか、株価は年初来で120%高を遂げている。このように、経済正常化に合わせ復活しているのはアバクロだけではない。ネットとの融合を強化し、百貨店メイシ―ズやノードストロムなどの株価も上昇。年末商戦への期待もあって、SPDR S&P小売りETF 投資信託(XRT)は2018年11月比で106%高を遂げる状況だ。詳細は、本誌をご覧下さい。

MBPROJEKT_Maciej_Bledowski/iStock

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、過去最高値で推移する米株市場と正反対な労働市場を取り上げる。抄訳は、以下の通り。

米株は過去最高値で推移するも、メインストリートは他人事―Stocks Hover Near Their Highs. Main Street Doesn’t Care.

米株市場の時価総額が11月11日までに年初来で9.7兆ドル増加したにも関わらず、トリクルダウンの効果が及んでいないのか、米11月ミシガン大消費者信頼感指数・速報値は10年ぶりの水準に落ち込んだ。その理由は、実質賃金が低下したためだろう。雇用は増加し賃金も上昇中だが、同時に物価も上向いている。米10月消費者物価指数は前月比、前年同月比そろって加速し、後者に至っては31年ぶりの高い伸びを記録していた。

政策当局者は、引き続く高インフレに対し強気だ。バイデン大統領は移民対策を含めた”より良い再建法案”1.85兆ドルに加え、上下院で通過した約1.2兆ドルのインフラ計画法案に対し、物価上昇を抑制すると訴える。FRB当局者は「インフレは一時的」との決め台詞を繰り返し強調し、コロナ関連によって生じた供給制約が解消すれば、元通りになると見込む。

しかし、一部の市場参加者からすれば、政策当局者こそインフレ加速を作り出した張本人だ。マクロ・インテリジェンス2パートナーズのジュリア・ブリッデン氏は、パンデミック下での金融と財政両面での財政政策が必要以上に緩和的だったと指摘する。その結果、2008~09年の金融危機以降、埋まらなかった需給ギャップが埋まったという。そうなれば、失業率は4.6%であるものの雇用の最大化が実現したことになる。

しかし、ゴールドマン・サックスのエコノミスト・チームによれば、コロナ禍から現時点まで早期引退を理由に55歳を中心として、約500万人が労働市場から退出した。GSのエコノミストは、労働市場から退出した約170万人の働き盛り世代(25~54歳)の大半が戻ってくると見込む。それでも、彼らは労働参加率がコロナ前のトレンド以下で推移すると予想、Fedは統治目標である”雇用の最大化”の定義を調整せざるを得ないだろう。

米9月雇用動態調査では、求人数が過去3番目の高水準だった一方で、離職率も統計開始以来で最高だった。中小企業団体である全米独立企業連盟(NFIB)は人手不足が最大の問題と指摘、賃上げを余儀なくされ、上昇幅は1984年以降で最大に及ぶ。

チャート:求人数は高止まり、離職者数は自発的離職者数が押し上げコロナ禍を除き最高水準

jolts-sep

(作成:My Big Apple NY)

前述のブリッデン氏は、FRBが”雇用の最大化”を達成する上での失業率の目安を、コロナ直前に3.5%まで低下しつつも、3.8%と見込む。水準達成は、そう遠くないようにみえる。しかし、ブリッデン氏によれば、足元の金融緩和的な状態は不適切であり、力強い労働市場を提供すると共にインフレも招いている。

FRBは、月1,200億ドルの資産買入を今月から150億ドルずつ減額する。それでも足元8.5兆ドルの保有資産は終了まで4,000億ドル増える見通しで、コロナ前の2020年2月から2倍増となる。その上、FF金利誘導目標は、未だに0~0.25%のままだ。

ブリッゲン氏によれば、これまで短期金利市場で金融環境は引き締まりをみせた。特に米2年債利回りは8月の0.2%付近から0.52%となり、イールドカーブのベリーと呼ばれる米5年債利回りも0.65%から1.23%へ上昇、FRBが2022年半ばまでの利上げ開始を織り込む。しかし、その他の指標、特に米10年債利回りやクレジット・スプレッド、株価は緩和的なままだ。

インフレ加速の抑制には、金融環境の引き締めが必要だ。しかし、市場、特に過去最高値付近で推移する米株市場にはまったく織り込まれていない。金融政策と財政政策が緩和的であることが影響しているのだろう。

――2022年の利上げが意識されながら米株高なのは、以前こちらで指摘させて頂いたようにFRBの金融政策が緩和的あり続けると判断されているためでしょう。

FOMC参加者の中立金利(緩和寄りでも引き締め寄りでもない金利水準)と位置付けられるFF金利長期見通しは、足元で2.5%です。

・足元のFF金利誘導目標レンジは0~0.25%。従って、25bp(bp=0.01%pt)ずつ利上げを行ったとして、利上げを9回実施すれば、中立金利の2.5%に到達する見通し。
・一方で、FOMC参加者の利上げ予想中央値は2022年→1回、2023年と2024年→3回ずつであるため、2024年までの利上げの合計7回=FF金利の上限は2.0%中立金利水準の2.5%以下となり、緩和的な政策が担保される公算が大きい

チャート:緩和的な金融政策、利上げ後も継続へ

ffffff

(作成:My Big Apple NY)

以上を踏まえると、理論上は少なくとも9回利上げを行っても引き締め寄りにならないというわけです。さらに供給制約が2022年内に解消されるとの楽観的な見方に立てば、米株高が続くという予想に傾くのでしょう。少なくとも、10月の下落局面で50日移動平均線を割り込んだ際に押し目を拾った個人投資家は、そう見込んでいるようです。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年11月13日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。