バロンズ:Fedは正常化に向かいつつ、米長期債利回りは低下の謎

バロンズ誌、今週のカバーに住宅関連銘柄を掲げる。住宅市場は活況で、住宅建設大手センチュリー・コミュニティーズを例にみてみよう。ワシントン州シアトルから96㎞離れた郊外のターンウォーターで同社が建設した物件のうち、140軒以上が50万ドルの水準近くで売却された。まるで住宅市場はピークに近づいているようにみえるが、ウォール街の強気派は住宅市場ブームがあと10年は続くと見込む。ミレニアル世代が世帯を持ち郊外などに住宅を構える需要が強まる上、足元は住宅不足の問題を抱えるためだ。エバーコアISIのアナリスト、スティーブン・キム氏は供給不足により、住宅市場は向こう10年間にわたり成長を続けると強気だ。気になる住宅市場の展望と詳細は、本誌をご覧下さい。

JANIFEST/iStock

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週はターボ・テーパリング(資産買入の縮小加速)と利上げへ向かう米連邦準備制度理事会(FRB)に反し、資金流入し続ける米債相場の謎に迫る。抄訳は、以下の通り。

Fedは新たな謎に直面、金融政策のリードに米債利回りが続かない理由―The Fed Faces Another Conundrum: The Bond Market Isn’t Following Its Lead

パウエルFRB議長は、インフレ高止まりが一時的でないと認めることで、ボルカー元FRB議長に近づこうとしているのだろうか?あるいは、Fedが金融政策の正常化を進める過程にも関わらず米債利回りが低下するように、グリーンスパン元FRB議長を悩ませた謎に直面するのだろうか?

バイデン大統領の再指名を受けFRB議長として続投する見通しのパウエル氏は、議会証言でインフレ高止まりが「一時的という表現を取り下げる可能性」について言及すると共に、12月14~15日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)でテーパリング加速を協議すると述べた

11月FOMCでは、米国債と住宅ローン担保証券(MBS)合わせて毎月150億ドルの減額を決定。資産買入終了までに4,200億ドル積み増し、保有資産は8.6兆ドルとなる見通しだ。資産買入終了後は、利上げという引き締め策に打って出ることだろう。 そもそも、2020年月に開始した資産買入の幕引きは遅きに失した感があり、議会証言で質問した議員は、パウエル氏に物価上昇こそ有権者にとって最大の懸念材料であることを知らしめたものだ。

ドイツ銀行のマクロ・ストラテジスト、アラン・ラスキン氏は、現在のFRBの政策がいかに不適切か、活発な成長と物価上昇が高まる経済下でいかに不適切か、成長率と米10年債利回りとの記録的なギャップを見れば分かると指摘する。従来、名目成長率と米10年債利回りは比例し、高成長時に利回りは上昇するものだ。

しかし、足元の名目GDP成長率は前年同期比10%近いプラスでありインフレ率はFedの目標値2%を超えて推移する一方、米10年債利回りは1.5%以下だ。第二次世界大戦以降、こうした状況は見たことがない。

チャート:名目GDP成長率(前年比)が高い割に、米10年債利回りは低水準を維持

gdp10y

(作成:My Big Apple NY)

成長加速は2020年3月を始め、3回にわたる景気刺激策の賜物である。さらに、Fedは2020年以降、資産買入を通じ発行増となった米国債を3兆ドル取得、保有資産は2倍以上に膨らみ、同時に米債利回りの低下を促した。しかし、テーパリングが開始し加速を協議されようとしながら米債利回りは低水準にある。米2年債利回りは0.622%と年初来で最高に当たる0.641%に接近し、2022年に複数回の利上げを織り込みながら、米30年債利回りは1.756%と1月初め以来の水準に低下した。

米2年債利回りの上昇と米30年債利回りの低下は、イールドカーブのフラット化を招き、利回り格差は83bp(0.83%ポイント)と、1月初め以来の水準まで縮小、9月末に124bpだったことがまるで遠い昔のようだ。米10年債利回りと米30年債利回りの格差はわずか32bpと、2019年1月以来の水準に縮小している。イールドカーブのフラットニングは、低インフレか低成長、あるいは両方のサインであることは言うまでもない

ラスキン氏によれば、米長期債の利回り低下は、FRBが市場に流動性を提供しなくなったとしても、市場のプレーヤーがその分を補うという考えを示しているという。しかし、米長期債利回りは、特に株式市場にとって、金融環境を決定する主要な要因だ。ラスキン氏は、米長期債利回りが上昇しなければFedはインフレ抑制のため一段の利上げを迫られると予想する。

J.P.モルガン・チェースの米債ストラテジスト、ジェイ・ベイリー氏とジェイソン・ハンター氏によれば、金融政策は非常に緩和的だ。実質のFF金利はマイナス4%にあり、利上げによりイールドカーブがフラット化し米2-10年債利回り格差が12bpへ縮小した2018年後半の1%と大違いだ。

FF金利先物は、2022年6月の利上げ開始に加え、9月と12月と合わせ3回の利上げを織り込む。そうなれば、FF金利誘導目標は0.75~1.0%となるが、仮に物価がFedの目標値である2%へ回帰したとしても、依然として実質金利はマイナスのままだ。

チャート:実質のFF金利マイナス、S&P500の上昇を支える

s&p_realff

(作成:My Big Apple NY)

米株市場への利上げの影響をみてみよう。エバーコアISIによれば、FF金利がピークを付けた後、米株市場が天井を打つまで1年掛かるという。2004~06年の利上げサイクルで、S&P500は2006年6月にピークをつけた後、2007年で頭打ちした。2015~18年の利上げサイクルで9回利上げした後、S&P500は2018年にピークをつけた(筆者注:当時の米株高をS&P500でみると、利上げが終了した2018年12月以前の同年8月にピークアウト)。

まるで伝統的な中央銀行のように、パウエル氏は物価の上昇が定着する前に抑制しなければならないと発言する一方、Fedの政策は超異常な緩和状態から単なる高度な緩和状態へと変化するだけと想定される。このことは、今のところ物価上昇率を大幅に下回る利回りを受け入れる債券投資家に謎を突きつけると同時に、株式の高いバリュエーションを支える要因を提供している。

――米長期債利回りが低下する背景は、①堅調な米経済を受け米債発行高が減少する見通し、②米債発行高が減少も緩和的な金融環境は続き米債など金融資産への流入継続、③インフレ抑制へ向けた利上げによる景気減速懸念――などが考えられます。

個人的には、個人消費が今後も力強さを維持するか疑問で、貯蓄率の低下実質賃金の下落がボディブローのように効いてくると考えるためです。裁量消費余地が縮小する過程で、現金給付といった打ち出の小づちも期待できず、子育て世帯への税額控除も時限措置となる見通しで、個人が財布の紐をゆるめ続けるでしょうか。1.75兆ドルの気候変動対策・社会保障支援策の押し上げ効果についても、追加経済支援策程は見込めようがありません。

もちろん、インフレ鈍化や自動車の在庫不足などによるペントアップ需要が今後期待されることも事実。ただ、こうした需要が一巡すれば、米経済は正常化と共にサマーズ氏が主張した”長期停滞(secular stagnation)”に戻るような気がするのは、筆者だけでしょうか。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年12月5日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。