好意的解釈の原則とは、相手の主張に賛同できない場合でも、相手に対して好意的な態度をとることで、自分の立場を括弧に入れて、相手の立場から、相手の主張を理解することである。要は、好意的解釈の原則は、主張の対立を廃して、対話を成立させる原則なのである。
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主張の対立においては、対立が解消する可能性はなく、交渉による両者間の妥協、あるいは双方の譲歩によって、合意を形成するほかない。これに対して、対話は合意を目指すものではなく、合意を目指す交渉の前段階として、重要な役割を演じるものである。つまり、交渉においては、双方が自分の利益の最大化を目指すので、共通利益の最大化が実現するとは限らないのだが、交渉前の対話において、双方が相手の単独利益の最大化という思考実験を行うことにより、双方にとって全く新たなところに、共通利益を最大化する可能性が開けるのである。
質疑、論戦、交渉、雑談においては、既に双方の知っていることが語られていて、仮に、一方の知らないことが語られても、それは他方の知っていることだから、そこには、双方ともに知らないこと、即ち、双方にとって真に新しいものの発見はない。しかし、対話においては、必ず、対話者の双方にとって、何か新しいものが発見されるのである。逆に、質疑、論戦、交渉、雑談において、何か新しいものの発見があれば、それは、実は、対話だったわけだ。
では、なぜ、対話においては、新たなものが発見されるのか。それは、対話が科学的発見と同じ構造をもつからであり、逆に、科学的発見とは、自然との対話にほかならないからである。つまり、科学的発見においては、研究者は、仮説に基づいた問いを自然に発し、自然が仮説を否定する証拠を返せば、新たな仮説をたてて問い続け、最終的に自然が仮説を受け入れたとき、仮説は検証されて、検証された仮説が新たな科学的事実になるわけだが、仮説と、それに対する自然の反応の連続は、研究者と自然との対話とみなせるわけである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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