金正男についての誰も書かない素朴な疑問

殺害犯について様々な憶測が飛び交う(金正男氏のFacebook氏より:編集部)

クアラルンプールの事件については、金正恩の指令によるものというのが確率は高いのは当然だ、その可能性が極めて高いというだけで、現在のところは完全に立証されたわけではない。

殺人事件は、下手人とその背後にいる人物が特定され、動機についての自白があってはじめて真相、確定だ。

坂本龍馬の暗殺も、鳥羽伏見の戦いのあと、新撰組から真犯人と名指しされた見廻組の今井信郎が自白し(主犯の佐々木只三郎は戦死)、さらに、のちに佐々木只三郎の兄である会津藩重臣だった手代木傳右衛門が指示したことを認めたことで、松平容保ないしその弟の松平定敬の指示だったことが分かったのである。そして、さらにもう一人の下手人も自白した(それでも薩摩だフリーメーソンだとかいう人がいて困るが)

北朝鮮の仕業としても、誰かがなんらかの思惑でやったのかもしれないし、別の可能性だってないわけでない。

ただ、さまざまな人がいろんな分析をしているなかで、なにか変だという分析もあるので雑感を書いておく。

暗殺された最大の原因は、金正恩が無防備だったというか、暗殺を徹底して避けるより自由な生活を重視したことにある。

もしじっとなにもしない条件で中国で庇護を求めたり、韓国、アメリカあたり亡命すれば、少なくとも殺されはしなかった。ただ、自由に贅沢な生活はできなかっただろう。

マカオでじっとしていたら、中国も安全を確保しただろうが、あちこち飛び回れたら完全な完璧な安全確保は不可能だ。

だから、中国は怒っているだろうが、マカオで事件を起こされたわけでないから、それほど怒らねばならない立場ではないし、それで、政策を大転換しなくてはならないともいえない。(もちろん、政策変換のきっかけになることはあり得るが)

亡命者の生活はけっこう惨めだ。金正恩の母親の姉妹にしても、アメリカで洗濯屋をしてつつましやかに暮らしている。

金正男が自分で弟にとって代わる野心はなかったと思うし、そういうタイプでもないが、担ぎ出そうとする人たちとの接触に無防備だった。それは、普通、危険なことだ。

また、かつて、金正男と交流があった人たちが、いろいろ分析をしているが、金正男が殺された原因のひとつが、彼らが金正男との交流内容や発言を拡散したことだという点は忘れているのではないか。

そういう意味では、金正男は西側マスコミに対してお人好しで無防備だった。金正男は無意味で戦略的な配慮のないおしゃべりで自分の立場を弱め帰国できないようになったように見える。

金正男の密入国事件については、私は、当時から入国させたうえで、国内で接触を図り、裏ルートとして活用すべきだったという意見だ。公表などすべきでない。

フランスなど、金正恩の母親がたびたび治療のために訪れ、噂によればそこで死んだともいわれる。また、張成沢の娘が留学しそこで自殺しているが、公式には何も発表していないし、金正日の治療のために医師を派遣しているし、金正男の長男もフランスに留学して当局に保護されていた。

金正男を捕まえて拉致被害者の救出と交換とかやっても、偽造旅券での入国くらいで長期に拘留などできないし、逆に拉致被害者に危害が及んだ可能性すら高いと思う。

金正日の料理人だった“藤本健二”氏(仮名)が平壌市内で日本料理店を開店したとのこと(朝日新聞より)。結構なことだと思う。

ここでは、北朝鮮政策全般を論じる気はないが、一つ大事なことは、情報ルートは遮断してはダメだ。とくに在日の人たちは、潜在的には日朝の良い関係を実利の上でも望んでいるのだから、彼らの役割をアメとムチで引き出す発想はもっとあるべきと思う。

もちろん、私は北に対する融和策を主張しているのでない。アメとムチの使い分け、場合によっては果断さもいると思う。しかし、情報ルートの確保は少しの弊害があっても確保すべきだ思う。

誤解だらけの韓国史の真実 (イースト新書)
八幡和郎
イースト・プレス
2015-04-10

 

日本と世界がわかる 最強の日本史 (扶桑社新書)
八幡 和郎
扶桑社
2017-03-02