バロンズ:米通商政策で、企業信頼感とドルが支払うコスト

2018年07月16日 11:30

今週のカバーは、半期に一度行う金融市場の重鎮9名によるラウンドテーブルを掲げる。冒頭から「イケイケ市場(go go market)は終焉を迎え、スローな市場(go-slow market)に入った」と指摘、モメンタム銘柄、低ボラティリティ、低い金利水準がお好みなら2017年に戻るべき——と辛口だ。しかし、これはラウンドテーブルに参加した専門家の間で共通する見方だという。確かに足元で経済は良好で仕事探しは難しくない。とはいえ、金利上昇、米連邦政府の債務拡大、米国とその貿易相手国との通商問題は、企業業績を押し下げかねず、米株相場の上昇余地を狭めうる。では、どの銘柄に投資すれば荒波をくぐり抜けられるのか。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート。今週はトランプ政権の通商政策が与える企業信頼感への影響を取り上げる。抄訳は、以下の通り。

7月は、関税の一斉射撃をはじめ大きなニュースがヘッドラインを飾った。7月6日にトランプ政権が301条を根拠とした500億ドルの関税措置の第1弾として340億ドル相当の中国製品への追加関税を発動した結果、中国政府が報復措置に動いた。これに反応し、トランプ政権は10日、2,000億ドルの中国製品に10%の追加関税を賦課するとし、対象品のリストを公表。一転して、その週末には米露首脳会談に先駆け、モラー特別検察官が12人のロシア軍の情報当局者を起訴した。

これだけのニュースが飛び出すなか、ダウは25,000ドル台を回復し週足で2.3%高と続伸した。ナスダックも1.8%高、S&P500も1.5%高で週を終え、1月26日につけた最高値にあと2.5%に迫る。ウォールストリートでの熱狂は、メインストリートで蔓延しつつある関税への緊張と対照的だ。米7月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値は、ビジネス見通しで大幅な低下がみられた。

TSロンバードのスティーブン・ブリッツ首席米国担当エコノミストは、「もし関税と通商をめぐる混乱が企業の業績見通し信頼感を低下させれば、利鞘の拡大が示すほど賃上げを促さないだろう」と予想する。例えばBMWは、人気のスポーツSUV”X3”の生産をサウスカロライナ州スパータンバーグで独占的に行っていたところ、中国での生産開始を決定した。

貿易戦争は、税制改革を通じた経済的恩恵を打ち消し、中間選挙で共和党が両院で多数派を維持する可能性を低下させかねない。こんな警告を放ったのは、トランプ政権で10日間という短期間ながら広報部長を担当したアンソニー・スカラムーチ氏だ。英フィナンシャル・タイムズ紙に寄稿した同氏はまた、トランプ氏が「順応性のある企業家」で、目的のためなら手段を変更する余地があるとも指摘。その上で、「持続的な反映への明確な道筋」を提供できると主張した。

米株を支える信頼感は、UBSでNY証券取引所のフロア責任者を長く務めるアート・ケイシン氏が指摘するように、追加関税措置への懸念で米株相場が下落したとしても、成長鈍化を見据えたFedが利上げを手控え米株相場を支えると考えられるためだろう。

パウエルFRB議長は17日、旧ハンフリー・ホーキンス証言を行う。証言前の13日に公表された金融政策レポートにサプライズはみられず、2020年までゆるやかな利上げを継続する構えを示した。FF先物市場は、9月にFF金利を1.75〜2.0%へ引き上げると予想、12月については、引き続き拮抗している。パウエルFRB議長がインタビューで「経済は非常に良い状況にある」と発言したほか、失業率が4%を回復したことに触れ、人々が労働市場に戻ってきているとも評価しており、Fedが利上げ方向をたどっていることは間違いない。

人々は、経済に与える政策の影響を知りたいに違いない。税制改革がアクセルを踏む半面、関税はブレーキを掛ける。財政刺激は需要を押し上げるが、通商政策は供給を抑制する。不確実性は、信頼感を損ねる。米株市場は、貿易戦争回避を見込んで上昇してきた。もしそれが間違っていたなら、即座に投資家は売りで反応しうる。企業幹部は、予算、設備投資、雇用に向け思い切ってハンドルを切るようなことはできないだろう。

現状で、少なくともNFIB中小企業楽観度指数は高水準を維持。

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(作成:My Big Apple NY)

トランプ政権の追加関税措置は、米国ナンバーワンのブランド、ドルにどのような影響を与えるのだろうか。米国の貿易赤字の大幅な削減は、世界でのドル供給を減らすドルの供給の縮小は、金融市場に引き締め効果を与え、債務危機を引き起こしかねない。そう指摘するのは、中国にあるJキャピタル・リサーチを率いるアン・スティーブンソン—ヤン氏だ。米国が「ユニーク且つパワフルな役割」を担うための負担を背負わないということは、同氏によれば「輸入に反映される巨大な需要を抑え、ドルを輸出することを回避するもの」となる。そのドルは、世界で基準通貨として機能してきた。

中国はというと、信用拡大を通じた成長路線からデレバレッジに向かったところで、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙が報じたように、成長を支援するため債務抑制策から転換しつつある。最終的には、人民元の切り下げという切り札を使ってもおかしくない。人民元の下落は、中国製品に賦課された関税措置だけでなく、中国による報復措置を軽減する可能性がある。

仮に米中間の対立が深化すれば、米国の貿易赤字だけでなく世界の貿易も縮小するだろう。その代償としてドルの海外流通量も縮小し、米国資産への需要も低下しかねない。中国が基軸通貨に取って代わる日は、まだまだ遠い。「米国第一」の政策を追求することで、ドルが支払う代償は決して小さくないだろう。


6月の失業率が4.0%へ上昇したものの、労働参加率の改善が背景にあり労働市場は追加関税措置への懸念が燻るなかでも、米経済にグッドニュースを運びます。その半面、建設資材のコスト上昇が著しい建設で雇用が鈍化していました。関税措置の影響が最も顕著となっている建設以外に、雇用の伸び鈍化が広がるリスクシナリオに注意したいところです。

(カバー写真:LeoLondon/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年7月15日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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