世界の趨勢は水道の再公営化だというデマ

八幡 和郎

12月6日に改正水道法が衆院本会議で可決され成立したことで、水道事業の民間委託が促進されることになる。

これを受けて、「命にかかわる水は公営であるべきだ。まして外資なんてとんでもない」「水道料金が倍になる!「海外では再公営化の流れにあるのに逆行」とかヒステリックに騒ぐ人がいる。

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そして、お笑いは、共産党を始めとする左翼とネトウヨなど国粋主義者が共闘している。

しかし、こんな議論は、滅茶苦茶であることが詳細を検討するまでもなく分かる。

水が命にかかわるとかいうが、それなら医療、薬品、食品などなんでもそうではないか。私立病院や診療所、民間製薬会社、農業、食品産業などみんなかつての共産主義国のように公営化しなくてはならない。

「外国企業は怖い」なんてなんの理由もない。フランス企業が運営したら、水に毒をいれるとか心配するなら水道局の職員にテロを企む反日分子でもいないか心配したほうがよい。水道局にはフランス人よりは相対的に心配に値する外国籍の職員だっているのではないか。

民営化して料金が高くなることがあるのは、公営にしておくと、値上げが政治的理由で難しいというだけのことで、それを税金で補填するか、それとも、将来への投資を怠ってしのぐかという傾向があるというだけのことだ。

海外では再公営化の流れがあるというのなら、あらたに民営化された数と再公営化された数を比較しての話でなければならないが、そういう数字は見たことない。それに、一時的に民営化して問題が解決したので、再公営化したとしても、それは民営化の失敗でない。私はたとえば、鉄道でも郵政などでも、将来の再国営化という選択肢はあってよいと思うし、水道も同じことだ。

私は、水道に限らずあらゆる役所の仕事も公営事業も、アプリオリに公営、民営のどちらであらねばならないということはないと思う。相対的にどちらかに向いたことが多いという傾向があるだけだ。実際、どっちが向いているかは、まったくケースバイケースだ。国鉄でも国労があんなにストばかりしたり、合理化を邪魔しなければ民営化しなくてもよかったかもしれない。また、民間で引き受け手になれる企業があるかどうかもいろいろだ。

ただ、地方公共団体の仕事のような場合には、選択肢が広い方がいいというのは当然のことだ。今回の改正は、別に民営化を義務づけるものでないわけで、地方自治体ごとに広い選択から選べることになったのだから、結構なことではないか。

水道については、通産省の工業用水道の運営や水処理産業の育成など水問題全般を所管する工業用水課の課長補佐を1980年代にやっていたのだが、そのころから、技術水準でかなわないものだから、日本のメーカーや水道局の職員など水道マフィアが屁理屈つけ嘘八百つけて世界一と定評があったフランスの水道産業の参入を妨害していた。

日本の水道関係者の技術や経営がそんな立派なら海外で引く手あまたのはずだが、そんなことはない。フランスの水道産業は、世界的に信頼をそのころから得ている。

日本の水道が素晴らしいなどと、いうのは、伝説だ。海外の水道の水は飲めないなどというのもだいたい伝説で、たとえば、フランスでも半世紀以上の前のことだ。その改善を支えたのが優れた水産業の発展だった。

むしろ、日本の水道水のほうが問題が多く、浄水器を取り付けたり、ミネラルウォーターをつけざるを得ないのではないか。
パリの水道の話などは、私も5年間、パリ市民だったからあまりにも馬鹿げた議論に呆れるばかりだが、また、回を改めて論じたい。