教育の空白地帯「生産者教育」

2019年01月19日 06:00

イイ仕事してますねぇ

これは、『開運!なんでも鑑定団』でお馴染み古美術鑑定家・中島誠之助の台詞だが、昨今の官民不問の相次ぐ不祥事には、決して「イイ仕事」とは言い難い非生産的な仕事ぶりを印象づけられる。

IMFの統計によれば、日本の2017年の1人当たりGDPは38,449USドルで世界25位。2000年に記録した世界2位を機に下降気味である。また、日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少しており、少子高齢化の状況下では、たとえ高プロ制度の対象者でなくとも、生産性の高い「イイ仕事」が望まれる。

ブルゾンちえみとDirty Work

そんななか、不正行為・汚職・不適切処理といった非生産的な仕事は後を絶たない。2017年にヒットしたお笑いタレント・ブルゾンちえみの「キャリアウーマン」のネタに使われた曲名は『Dirty Work』だが、正にいまの状況は「Dirty Work(ヒドイ仕事)」のオンパレードと言えよう。

日本はいま、生産性が一大テーマである。働き方の改革やガバナンス体制の改善といった大人向けの施策は勿論重要だが、教育関係者としては、子ども達を良き生産者(仕事人)に育てる教育が空白地帯であることを指摘しておきたい。

生産者教育のいま

学校教育において、消費者教育は充実している。消費者庁がライフステージ別に体系化しており、文部科学省は消費者教育推進事業を実施している。ただし、消費者教育の基本路線は詐欺などの被害に遭わないための「賢明な消費者」づくりであり、そうした守りの教育だけでは社会が望む利他的で社会貢献性の高い「善良な生産者」は育たない。

では、現状の生産者教育はどうなっているかといえば、対応する教科は「技術・家庭科」くらいである。たしかにモノやサービスを提供するためのスキルは重要である。だが、望ましい生産者の育成のためには、スキルだけでは物足りなさを感じる。

生産者としてのスタンス

頭の良いエリートが次々と「Dirty Work」に手を染めてしまうのは、頭では駄目なことだと分かっていても「そうせざるを得ない何か」の力学がはたらくからだろう。そうしたモラルハザードが起きづらい制度整備も必要だが、そもそも、そんなことには手を染めず「イイ仕事」に傾注できる人物を育てる方向付けも必要であろう。

たとえば「組織を私物化してしまえ」や「文書を書き換えてしまえ」といった発想が頭を過る局面に子ども達はなかなか遭遇しない。修羅場を経験し「イイ仕事」と「Dirty Work」の狭間で揺れ、「イイ仕事とは何か」に思いを馳せるのは生産者になってから。つまり、大人のタスクだった。しかし、それでは手遅れであることを、昨今の「Dirty Work」は物語っている。金融教育やキャリア教育などを総動員し、生産者としてのスキルだけでなくスタンスも醸成しておく必要があるだろう。

スキルもいいがスタンスも

スキルは後発的に装着可能だが、スタンスは後々矯正するのに多大なコストを要する。私が日々キャリア支援している大学生の就職活動で、このことは顕著にあらわれている。入社前は希望する条件がその会社に用意されているか否かに過度に神経を尖らせ、入社後は少しでも希望と違っていればブラック企業だと断定し早々に離職する。まるで商品の性能を吟味するかのように、一度きりの取引を行う消費者のスタンスのまま会社を品定めし、生産者の側に回っているように映る。

子どもは既に生産者

ひと昔前ならば、子ども達は消費者でしかなかったのかも知れない。しかし、学生起業家が珍しくなくなり、動画サイトで手軽に作品を世に出せるいま、子ども達は既に生産者の顔も持ち合わせている。守りの消費者教育だけでなく、攻めの生産者教育が急務なのである。

実例として、神奈川県のある県立高校では、アイドルグループを組織するなど子ども達にできるだけ生産者としての機会を設ける工夫を実践している。ただし、全ての学校がこうした取組を実践できる余力があるわけではない。

真似事から

新たにプログラムや組織を拵えることが難しい場合は、文化祭など子ども達が生産者として振る舞う既存のイベントを活用しても良いだろう。企業の真似事としてイベントチームにおけるビジョン・ミッション・バリューを策定するところから始めてみてはどうだろうか。学びの語源は「真似び」と言われるように、真似事から学ぶことや気づくことは多分にある。

いくら大人向けの制度を整備しても、良き生産者(仕事人)があちこちで育たなければ「イイ仕事」の多産には繋がらない。ただでさえ子が少ない少子化である。「イイ仕事」まで少ない「少仕化」に陥らぬよう、子ども達を良き生産者に導きたい。先生も保護者も、立派な一生産者なのだから。

高部 大問

高部 大問(たかべ だいもん) 多摩大学 事務職員
大学職員として、学生との共同企画を通じたキャリア支援を展開。本業の傍ら、学校講演、患者の会、新聞寄稿、起業家支援などの活動を行う。

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