分裂する左派、まとまる右派

アメリカの2020年大統領選を控え、約5か月後に迫る予備選に向けてこれからメディアも忙しくなるでしょう。そんな中、数日前にはスターバックスの元CEO、ハワードシュルツ氏が大統領選に独立系候補としての出馬することを断念すると発表しました。

さて、右派である共和党はトランプ大統領がそのまま突っ走る公算が高いのですが、左派である民主党は既に7名取りやめたのにまだ20名も大統領選に出馬表明している候補者が残っています。下馬評で圧倒的存在感を示すはずだったジョーバイデン元副大統領が全体の中に埋もれがちで現時点で絶対的候補がいないのはなぜなのでしょうか?

アメリカの左派の動きを見ながら日本も含めて左派が分裂しやすいその傾向を探ります。

民主党左派の代表格サンダースと中道派のバイデン(公式FBより:編集部)

今回、アメリカ民主党の候補者は正直、「老若男女」という表現が一番しっくりくるかもしれません。サンダース氏は78歳、バイデン氏は76歳、一方37歳と38歳の候補者もいます。主義主張もバラバラ、民主や人権という名が必ずしも一体化していない現実を見せつけているようです。

もう一つ感じるのはヒラリークリントン氏への否定でしょうか?「ヒラリー、お願いだから邪魔しないでくれ」というのが民主党の中にある声であります。その背景の理由の一つは民主党や女性の間で話題になっている「#MeToo(私も!)」にあります。ハッシュタグが盛り上がっていた最中、あるインタビューでヒラリーが旦那のビル クリントン氏の過去の過ちをかばったことで多くの女性の失望を買ったというものです。個人的には妻が旦那をかばうのは自然であり、それを一方的に非難する社会は自分の狭い主張を強行に推し進める我の強さを感じます。

候補者のタイプも白人から非白人系まで様々。同性愛主義者、社会主義者、メキシコ系、アフリカ系、台湾系二世までいます。このような形は移民の権利と存在感をより尊重するカナダの国民性に似てきているともいえます。かつてアメリカは移民国家であるにも関わらず、移住したら「アメリカン」という強いステートメントがありました。これを「メルトポット文化」と捉えることもでき、どこから来ても移民した瞬間、人格はアメリカ人に変貌することを強みとしていました。

ところがカナダは「モザイク文化」と称され、モザイクの一つひとつの窓枠にそれぞれの移民の立場や地位があり、他のモザイクの民族がそれを尊重するところに最大の相違があります。これは学術的にもそのように研究されています。その結果、カナダは一般にはまとまりがない国ともされており、人と人のつながりがアメリカに比べて薄いのであります。(それゆえ、カナダは世界でもっとも友人を作りにくい国のひとつという研究もあります。)

そのアメリカの左派、民主党が目指すのはカナダ型のモザイク社会だとすれば大統領候補を絞り込むことは難しいでしょう。なぜなら一点突破の主張も多く、妥協することは意味をなさないことになるからです。

左派がなぜ分裂するか、といえば個人個人の不満を社会を通じて改善するにもその検討対象は無数にあるためどこに的を絞り込んだらよいのかわからないところにあるからではないでしょうか?

例えば日本でも原発反対、NHK受信料支払いたくない、安倍首相嫌い、沖縄は虐げられている、生活が苦しい、女性の社会進出は十分ではない、子育てにやさしくない…など掲げていけばいくらでもあります。もちろん、これらは左派だけの問題ではありませんが、左派に多い傾向があるとすれば、全部合わせても最大公約数が少ないところに難しさがあるのです。

かつての左派とは非常に切り口が簡単明瞭でありました。労働者や非雇用者が労働の改善を求めるところに集約されていました。今、組合、ストライキ、賃上げ交渉で盛り上がる時代ではありません。左派だった方々の多くの生活はそれなりに向上し、それらの人々は次のレベルの要求に向かっているのですが、そこに個性が生まれた、ということなのだと理解しています。

いみじくも大統領選の立候補から辞退したハワード シュルツ氏が「最近(民主党が)過度に左派に傾きつつある」と意見しているのは主義主張が過激で深度が増した、という意味合いだと思います。「絶対に譲れない」という強い信念とそれを支える集団がSNSなどを通じて強くボイスアウトすることで民主という名のもと、様々な異種を社会に醸成し、時として妥協を許さないことがおこりつつあるのかもしれません。

同じことは日本の野党にも言えるわけでいつまでも意見が統一されないのはそれぞれのグループや党が協調できない立場に自分を追い込んでしまったからではないでしょうか?韓国だってそうでしょう。

こう見ると案外、社会の分断とは案外、左派から生まれやすいのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年9月12日の記事より転載させていただきました。