新型コロナウィルス:忘れられた「感染症の公式」と突きつけられたダイバシティ

2020年04月19日 06:00

新型コロナウィルスの猛威、全国に緊急事態宣言が出されることになりました。都市部を中心に人の流れを抑制していますが、一向に収まる気配がありません。

私たちの命が脅かされ、暮らしが制限される日々がいつまで続くのか…先行きが見通しにくい状況が続いています。一向に収束する気配がない中で、政府の施策の是非がさまざまに議論されています。

私のような見識の狭い科学者の端くれは政策について考える術は持ちません。ただ、科学が積み重ねてきた知見とデータから物事を考えることはできます。そこで、今は忘れられている「感染症の公式」を通して事態の収束に向けた施策を考えてみました。

写真AC

忘れられた「感染症の公式」

新型コロナウィルスの脅威が言われ始めたとき、専門家からも比較的楽観的なコメントが出ていました。このようなコメントは今では忘れ去られていますが、そのコメントの根拠になっていたある公式を確認したいと思います。その公式を言葉にすると…

「感染症の毒性と感染力はトレードオフ(反比例)である(e.g.,高倉,2009)」

と表せます。この公式をここでは仮に「感染症の公式」と呼びましょう。

感染症の公式を少し説明しましょう。感染症の原因となるウィルスや細菌は宿主がいなければ生存できない生物です。毒性が強ければ宿主を殺してしまい、自分も死にます。次の宿主にもたどり着けません。つまり、感染力は著しく弱くなります。

毒性が弱ければ宿主は生存します。宿主の活動によって、次の宿主にもたどり着けます。仲間や子孫を増やせるので感染力が高いと言われる状態になります。

「感染症の公式」は若い人の間では崩壊してはいない

新型コロナウィルスの毒性は特に基礎疾患のない若い人に対しては低いことが知られています。

たとえばメガクラスターと言われている米原子力空母セオドア・ルーズベルト号では、約4800人の乗員のうち585人が感染し73%が無症状、すなわち健康被害がないと伝えれらています(2020年4月14日)。また、NewYorkで出産した女性を対象にした調査では感染者の88%が無症状でした(2020年4月16日)。

New York National Guard/flickr

従軍する、または出産する体力がある人達ですから、それなりに若くて健康な人達における貴重なデータと言えるでしょう。調査後に発症する可能性もあるので、このデータは途中経過のようなものです。ですが、感染しても健康被害のない方が多いことは示唆されています。

症状ではなく死亡率という面でも考えてみましょう。たとえば、日本の厚生労働省が4月13日に公表したデータがあります。これによると、日本では感染しても30代以下で死亡した人はいません。

もちろん、死亡していなくても症状に苦しんでいる人もいます。過度に楽観視してはいけません。しかし、これらのデータを見る限り、感染症の公式は少なくとも若い人の間では活きているようです。

私たちは免疫力の格差が大きい集団を生きている?

ただし、高齢者を含めると話は別です。同じく厚生労働省の発表では、感染すると70代では5.7%、80代で9.57%、90代以上では9.17%の方が亡くなっています。

感染しても症状がない方についても、高齢者が多く含まれていたダイヤモンド・プリンセス号(搭乗者の58%以上が60歳以上)が残した貴重なデータでは17.9%でした。若い方中心のデータとは大きく違うことがわかります。

これらのデータの背景には犠牲になった方々がいますので、亡くなった方々のご冥福を祈らずに入られません。しかし、残された私たちはここから学ばなければなりません。

感染症の公式の是非は私にはわかりませんが、少なくとも免疫力が比較的近い層の中では有効に機能する印象を持ちました。一方で、免疫力に差が大きい集団の中では、有効に機能しにくいのかもしれません。

免疫力ダイバシティの時代

免疫力は年代によって異なります。全般的な免疫力は一般的には加齢によって低下します。しかし、必ずしも高齢者が不利なだけではありません。高齢者が若い時に流行した病の免疫を持っていて若年者は持っていない場合もあれば、今は廃止された予防接種のおかげで高齢者だけが持っている免疫など、高齢者が有利な面もあります。

つまり、若年者と高齢者の間には、免疫力のダイバシティ(多様性)があるのです。また別の新種のウィルスや細菌が流行した時に、今度は「若い層が危ない」という場合もありえます。

感染症と人類の戦いは、多くの人が免疫を持ち、抗ウィルス薬のような有効な薬物を獲得すれば、ほぼ人類の勝利とされています。その時が来るまで、病への耐性が弱い人達は守られるべきです。このことを目指した施策をぜひ導入して欲しいと思います。

新型コロナウィルスは私たちにさまざまな変化をもたらすと言われていますが、私たちが今、免疫力ダイバシティの時代を生きていることを突きつけられた出来事になるのかもしれません。この時代における生き方をご一緒に考えましょう。

杉山崇

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杉山 崇
神奈川大学人間科学部教授

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