集団免疫って何?

2020年08月10日 16:01

最近、新型コロナの感染者が増える一方、死者はあまり増えないので、日本はこのまま集団免疫をめざせとか、指定感染症の指定をやめたほうがいいという声が聞こえてきます。

集団免疫のしくみはむずかしいのですが、簡単にいうと感染が広がって、集団の中で免疫をもつ人が増えると、感染しにくくなるのです。

たとえば100人の集団で1人がまわりの2人にうつす病気だと、その2人が2人ずつうつすと4人、さらに8人…とネズミ算で感染が増えていきますが、50人が感染すると、それ以上は増えません。ある人が2人にうつしても、そのうち1人は免疫をもっているからです。

このように感染がゼロになるのではなく、1人が1人にうつす状態が集団免疫です。これが成り立つと、感染は収束します。図のように免疫をもった人が「防護壁」になって感染していない人を守り、ウイルスが減っていくからです。

酪農学園大学ホームページより

政府が風邪をなくす必要はない

問題は収束するまでに何が起こるかです。たとえばエボラ出血熱のように致死率(感染した人の死ぬ割合)が50%以上の感染症を放置すると危険なので、エボラウイルスは国内から根絶する必要がありますが、コロナはそういう「死の病」ではありません。

日本では新型コロナウイルスの感染者4万7000人のうち死者は1000人で、致死率は約2%。これはインフルエンザの0.1%より悪性ですが、潜在的な感染者は検査で陽性になった人の10倍以上いるので、最終的には1%以下と推定されています。

新型コロナウイルスはすでに国内に大量に入っているので、今からゼロにすることもできません。政府の役割は感染をなくすことではないのです。新型コロナはたかだか2週間でなおる風邪なので、大部分の人は感染しても命に別状はありません。

困るのは、感染爆発が起こって病院のスタッフや機材が足りなくなることです。次の図でいうと患者数(縦軸)のピークが点線の医療資源(Health care system capacity)を超える高い山になると、コロナで肺炎を起こしても人工呼吸器が使えなくなり、助かる命が助からなくなります。

Joscha Bachのブログより

新型コロナの場合、初期には基本再生産数が2.5といわれました。これが全世界で同じだとすると、人口の60%が感染するまで止まりません。その計算もちょっとむずかしいのですが、分母が日本人全員の1億2600万人だと、その60%が感染すると約7500万人です。

その1%が重症(肺炎)になると75万人で、これに対して人工呼吸器は2万台程度なので、大部分の重症患者が人工呼吸を受けられない事態も考えられます。このように多くの死者が予想されることから、WHO(世界保健機構)も日本政府も集団免疫戦略はとらないと明言してきました。

指定感染症の指定を解除して「インフル並み」の扱いに

ところが日本の重症患者は、ピークだった4月末でも累計300人。人工呼吸器もICU(集中治療室)も大幅に余っています。上の図でいうと、日本は一貫して点線よりはるかに低い山だったのです。これから感染が増える可能性はありますが、重症患者が2万人以上に激増することは考えられない。

感染爆発は、初期のダイヤモンド・プリンセス以外は起こりませんでした。これは日本の医療がしっかりしていたためでしょう。今後政府がやるべきなのは、ゆるやかに感染を増やして感染を収束させることです。

その目安が集団免疫ですが、これは目的ではありません。そこで感染が止まる保証もありませんが、それ以下で永遠に封じ込めることはできません。大事なのは、長期的に続けられる態勢をとることです。今は緊急事態でも非常事態でもありません。インフルエンザと同じように、新型コロナは今後もずっと日本人が付き合うしかないのです。

しかし新型コロナは指定感染症として感染を封じ込める建て前になっているので、ゆるやかに感染を増やすことは許されていません。これほど多くの陽性者をぜんぶ入院させると、病院のスタッフもベッドも足りなくなり、必要な手術が延期されています。これで手遅れになって亡くなった患者の数は、コロナより多いかもしれない。

コロナで亡くなる人もガンで亡くなる人も、命の価値は同じです。コロナだけに大騒ぎするのはやめ、指定感染症(2類相当)の指定を解除してインフルと同じ5類の扱いにし、集団免疫戦略に舵を切るときだと思います。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長(学術博士)

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