安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領の日露首脳会談が来月中旬、山口県で開催される。同首脳会談では、両国間の難問、北方領土の返還問題について協議されるという。ロシア側から北方領土返還で日本側に譲歩する提案が出るのではないか、といった憶測が日本側の一部では流れているという。
日本側は「四島一括返還」を要求しているが、プーチン大統領は1956年の日ソ共同宣言に明記された「二島引き渡し」以上の譲歩はしないだろうという声が支配的だ。
日露首脳会談を控え、ロシアから2つの暗いニュースが流れてきた。1つは、日本側が提案した8項目の経済協力プランの担当閣僚だったウリュカエフ前経済発展相がロシア捜査当局に収賄の疑いで刑事訴追されたというのだ。2つ目は、日本のメディア報道によれば、ロシアは22日、地対艦ミサイルの北方領土配備を公表したばかりだ。
現実問題、ロシアで北方領土の返還に応じることができる指導者はいないはずだ。強い政治力を誇るプーチン大統領も例外ではないだろう。
ロシア領となった領土を相手国の要求に応じて返還じた場合、その政治家、指導者は政治生命が危なくなるはずだ。ロシア国内の民族主義者の総攻撃を受けることは必至で、生命の危機すら十分予想される。ロシア側が取れる最大の譲歩は「二島返還」までだ。ロシア側には、「領土と経済は別」という認識が根強い。
当方は1989年11月、ソ連最後の国防相となったドミトリー・ヤゾフ国防相に北方領土問題で質問したことがある。ヤゾフ国防相はオーストリアを公式訪問をした後、ウィーン国際空港貴賓室で国際記者会見を開いた。その時、当方は日ソ両国間の最大懸案である北方領土の返還問題について質問したことがある。同相は「その問題(北方領土)は既に解決済みだから、話しあう必要はない」と一蹴。「極東ソ連軍が強化され、最新鋭戦闘機のMIG31やSU27が配置されたという情報があるが、事実か」と聞くと、「他国がわが国の防衛戦略に干渉することはおかしい。どの機種をどこに配置しようが、それはソ連の問題だ」と強く反発した。
ヤゾフ国防相の発言は「両国政府が作業部会を設置して、そこで討議を進める」という当時のソ連外務省とは明らかに異なっていた。ヤゾフ国防相はソ連軍最高指導者らしい貫禄と強さを感じさせた。ただし、会見後、同相は笑顔を見せながら当方のところに近づき、握手を求めてきたのには驚かされた覚えがある。
ソ連は解体し、ロシアが誕生したが、北方領土問題では大きな違いはないだろう。日本側が懸命な交渉を展開させたとしても、ロシア指導者が獲得した領土の返還に応じることはない。自身の首をくくるようなことだからだ。残念なことだが、当方はロシアとの領土返還交渉では悲観的だ。
なお、ヤゾフ国防相は、最後のソ連大統領だったゴルバチョフ大統領夫妻(当時)を拘束した1991月8月のクーデター事件に関与した国家非常事態委員会メンバーの1人だったが、今月92歳の誕生日を迎え、健在だと聞いた。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年11月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。