知財戦略:アーカイブと音楽をめぐる議論 --- 中村 伊知哉

アゴラ

知財計画2014の策定に向け、今年も知財本部での議論が熱を帯びました。

とりまとめられた計画は周知され、実行に移されますが、途中の議論もまた重要なメッセージを含んでいるので、報告しておきます。

今回は2つの特命タスクフォースが組まれました。アーカイブと音楽です。その模様は既に2回に分けてメモしました。

<世界一のアーカイブ大国になりませんか?/A>

音楽タスクフォースとJAPAN NIGHT

 


それらを受けて、知財本部で議論が行われました。

まずはアーカイブ。対外的に、五輪を控えクールジャパンを発信することが政府にとって重要課題であること。対内的には、本年度から教育情報化 が本格化し、教材コンテンツのインフラが求められていること。いずれも2020年をターゲットとして政策需要が拡大します。

同時に、特に欧米が急速に対応を進めています。欧州はネット時代のヘゲモニーは文化資産の発信にあるとみて公的関与を強めています。これに対し、GoogleをはじめとするアメリカIT企業がグローバルなコンテンツ管理を敷いています。

いくつか議論を挙げてみましょう。

・写真著作権協会瀬尾さん:今回、アーカイブがストックとしてではなく、ネットワークインフラとしてとらえられたのが大きい。
 →分散する多種のアーカイブをどう連携させ、ネット利用できるようにするかが肝ですね。

・東大喜連川さん:自然科学系にとってもアーカイブは重要。予算プロジェクトが終わるとデータをどうするかが問題となる。
 →ビッグデータをどう維持管理し、連携させるか。同様の問題です。

・グーグル野口さん:孤児著作物問題が最重要。補償金の取組を。そしてデジタル教育への貢献。これも著作権がネックになる。
 →御意。

・KADOKAWA角川さん:4Kでの配信が重要になる。アーカイブのフォーマットをどうする。
 →規準・標準化は悩ましいテーマになりますね。

・ドワンゴ川上さん:ネット上のコンテンツが消えていく。アーカイブできないコンテンツをどう扱うか。
 →そこまで話が至っていませんが、ぼくもそっちが気になります。
 (なお、この議論時には、KADOKAWAとDOWANGOが一緒になるとは夢にも思っておりませんでした。)

・ニッポン放送重村さん:演劇、舞台など記録されていないものをどう記録するか。
v→リアルをデジタルにして蓄積する。ライブを記録する。ライブの重要性が上がる中、そのデジタル化は新たな課題に。

・久夛良木さん:ゲームはボーンデジタルであり、みんなに声をかけてまとめてサーバに上げてしまえばよい。
 →この話、大変興味があります。何かできないでしょうか!

 
次に、音楽タスクフォースの議論がありました。

音楽は他のコンテンツ分野に比べ早期にデジタル対応を求められてきました。産業構造も急激に変わり、グローバル化も著しい。業界としても海外展開が重要課題となっています。音楽に集中した知財戦略はこれまでなかったのですが、その政策パッケージができれば、他の分野のモデルとなるでしょう。

・ドワンゴ川上さん:ガラケーからスマホに移行して音楽配信がもうからなくなった。プラットフォームがアメリカに移りマーケットが減ったことを明確にすべき。
 →その構造分析は不足していますね。

・川上さん:海外のプラットフォームを使って海外に発信できるメリットもある。海外で人気のあるアーティストは海外メディアを使っている。
 →ピンチをチャンスに変えること。確かに。

・ビクター斉藤さん:レコチョクなど国産サービスも出てきていて端境期にある。国内市場が大きく出かけなくて済んだが、状況が変わり、進出が必然になっている。
 →今回のTFはこれに伴うものですね。

・ニッポン放送重村さん:アニソンがアジアで強いが、アニマックス・アジアはシンガポールの会社。アジアは日本の情報を欲しがっているので、プロモーションとして放送を使うべき。
 →海外メディアを押さえよとの議論が高まってきました。

・松竹迫本さん:官民切り分けが重要。マーケットメカニズムが働く部分は民で。国は基盤整備に徹すべし。
 →御意。

これら論議を経て、知財計画の策定が始まることとなりました。

ところで。知財本部担当の山本一太大臣はいつも会議に出席され、熱心に議論に臨まれます。その大臣、記者会見にて「中村伊知哉議長は・・京都大学時代にヴァンパイアという伝説のバンドのベースを弾いていまして、あの少年ナイフをデビューさせた大変な人物なんで、今度、御飯に誘いたいと思います」と発言したそうで、あれこれ問い合わせが来ましたw

大臣とはメシ食いつつ、提言の実行をお願いする次第。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年8月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。