「ドクターX」が予想外にウケちゃったワケは? --- 新田 哲史

2012年12月13日 07:00

●さすがは米倉涼子
白衣の下から長い美脚をのぞかせながら、白い巨塔を颯爽と歩く女……なーんて描写をしなくても、皆さんご存知の「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)。米倉涼子ちゃんが凄腕のフリーランス外科医を演じ、第1回からの平均視聴率(ビデオリサーチ、関東地区)は18%と今秋の民放ドラマの中では特に好調。先週の第7回は初めて20%に達し、いよいよ今夜が最終回だ。


テレ朝の内山聖子・プロデューサーが「ヒットの要因は実はわからない」と語るように(11月21日、毎日新聞デジタル)、制作者側はここまでのヒットは意外だったようだ。夕刊紙や週刊誌などは色々とヒット要因を探っていて、ここ数日だとこの夕刊フジの記事に象徴されるように、米倉ちゃんの魅力を挙げる声が多い。ま、それは当然か。大門未知子の美貌に負けない強烈なキャラも目を引く。どんな難手術も「私、失敗しません!」、医師免許が不要な事務仕事などは「致しません!」――決め台詞がハマっている。岸部一徳さんや伊東四朗さんのような存在感あふれる配役、毎回スリリングな脚本もいい。

●ドラマは「社会の鏡」
さてさて、20%クラスの支持を得るからには、何か潮流があるはずだ。もう6年前だけど、新聞記者として、あの伝説の刑事ドラマ「太陽にほえろ!」の初期の制作に携わった方々を取材する機会があった。その時、「テレビドラマは社会の鏡」と言われたのが印象に残っている。「太陽」は、新人刑事の成長を描く手法が当時としては斬新で、刑事ドラマの形を借りた青春ドラマだった。萩原健一さんが演じた初代新人刑事、マカロニはどこかナイーブな奴だったけど、学生運動に敗れた団塊世代の若者たちの挫折した姿を投影したというのだ。

「太陽」を知らない若い人のために(あぁ昭和は遠くなりにけり……泣)、最近のドラマでもちょっと検証しよう。例えば昨年大ヒットした「家政婦のミタ」(日本テレビ系)。同じクールで放映されていたキムタク主演のTBS系「南極大陸」が大作と期待された割に平均で20%を割った一方、「ミタ」は最終回で40%という驚異的な数字を残した。キシリトールの伝道師として知られる藤田康人氏(インテグレートCEO)がマーケティング視点で面白い分析をしており紹介する。

「混迷を極める今の日本においては、夢と希望を熱く語るドラマである『南極大陸』よりも……(中略)……不倫、自殺、いじめなどある意味“どぎつい”テーマに正面から取り組み、ターミネーターのようにクールな松嶋が演じる『家政婦のミタ』のキワモノ感が、この時代にはフィットしている」(11年11月28日、ダイヤモンドオンライン「マーケットが見える!人のココロをつかむセオリー」)。この記事は記録的なアクセス数を叩きだしたそうで、世相とドラマの相関関係を改めて認識させてくれる。

●ドクターXが示唆する「FA社会」
「ドクターX」は、勤務環境の過酷さで医師が多数辞めた大学病院に主人公が補充要員として医師紹介所から「ハケン」される設定だ。そもそも、派遣やフリーランスの医師がいるのか疑問に思っていたが、内山プロデューサーは、フリーランスの外科医を扱った特集を雑誌で見かけたのが役柄設定のきっかけだったという。医師の紹介事業を手掛けるDプラス代表取締役の勝又健一氏が日経メディカルオンラインに寄稿した記事によると、年間3,000万円を稼ぐことも不可能ではなく、そこまででなくても子育て中で労働時間が限られる女医さんには合った働き方のようだ(逆に稼げなくなるリスクもあるようだが……)。

ただ、医師のフリーランス化の実態は世間一般では知られていない。それでもドラマが受けたのは、今の社会に漂う「何か」があるからに違いない。「ドクターX」は毎回、冒頭で主人公を紹介するナレーションがある。「プロジェクトX」でお馴染みの俳優・田口トモロヲさんが「群を嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、専門医のライセンスとたたき上げのスキルだけが彼女の武器だ」と朗々と読み上げる。組織の論理に縛られず、自分のスキルだけで自分の世界だけを持つ生き方。篠原涼子さんがスーパー派遣社員を演じた「ハケンの品格」を思わせるが、5年前と違うのは「ノマド」ブームの勃興だ。

肩書がフリーランスという“謎の女”、安藤美冬ちゃんが「情熱大陸」(TBS系)で取り上げられちゃうご時世。10年前に「フリーエージェント社会の到来」という米国の本があったが、ポスト工業化社会では働き方が旧来の会社組織と違う形で多様化する。組織にとらわれない働き方を、人々が従来より身近に意識するようになってきたのだろう。しかし社会学者の古市憲寿氏が指摘するように、「会社にとらわれず、自由に働くことは相応のリスクが伴う」(12年9月2日・日経新聞『ノマドという生き方』)。

もしかしたら「ドクターX」が支持されるのは、己の腕一本で社会を渡り歩くワークスタイルへの憧憬で、大門未知子をそのシンボルに見立てているからなのかもしれない。

新田 哲史(にった てつじ)
メディアストラテジスト

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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