アナログな新聞社に「ID記者」は育てられるか

2013年08月10日 07:00

マー君がプロ野球新記録の開幕16連勝を達成。楽天は貯金を20の大台に乗せ、球界参入9シーズン目にして初のリーグ優勝が現実味を帯びてきた。その楽天で基盤づくりをしたのが、野村克也元監督。データを駆使したID野球で知られたが、ビッグデータの時代到来でジャーナリズムの世界でも“ID報道”が要求されている。最近報道関係者が注目しているデータジャーナリズムってヤツですね。それで昨日、たまたまBROGOSで、私も取材を受けたことのある在英ジャーナリストの小林恭子さんがデータジャーナリズムの記事を書かれていたので拝読。“ID報道”に必要なスキルや人材育成についても触れていたので、欧米よりもまだまだアナログ文化が幅を利かせる日本の新聞社がどうこの問題に向き合うか、ちょっと考えてみた。


欧米の先例については、小林さんの記事や、ID取材の先達を自負している赤倉優蔵氏の記事、講演資料を一読ください。僕はアゴラの執筆陣の中でも断トツで低い英語力なので(号泣)、海外事情に情けないほど疎いのだが、海外では、エコノミストやガーディアンなどがID取材を展開。中には、ピュリツァー賞を獲得する事例も出てきているそうだ。

130810毎日新聞

●日本でもデータジャーナリズムの萌芽
日本も遅ればせながら、ID取材の萌芽は出てきている。契機となったのは参院選から解禁されたネット選挙だった。筆者が印象に残ったのは毎日新聞。立命館大の西田亮介・特別招聘准教授と共同研究プロジェクトを始め、ツイート数と得票数との相関と言った分析記事を精力的に発表してきた。新聞社に負けず劣らず、アナログ文化の永田町がウェブの大海に漕ぎ出す決意をした以上、毎日のように“デジタル対応”する動きは加速すると思われる。※写真は毎日新聞東京本社~wikipediaより

気掛かりなのは、日本の新聞社がデータジャーナリズムに対応した人材をどう育成するのか。参考までに毎日のプロジェクトを担当していた2人の顔ぶれを見ると、一人はツイッター初心者という政治部の平田崇浩記者。もう一人は、大阪社会部の石戸諭記者だ。実は石戸記者はツイッターの世界ではちょっとした有名人。数年前から会社非公認でつぶやきまくってきた。組織的には、「危なっかしくて見ていられない」(東京社会部のある記者)のだろうが、新たな歴史は跳ねっ返りが開拓するもの。彼が抜擢されたのは、そういう“実績”を踏まえてのことに疑いはない。いいぞ、石戸。バンバンつぶやけ。わはははは。

しかし毎日新聞、あるいは他社も同様のプロジェクトを継続するにも課題はある。石戸記者の「個人芸」に現在は頼っており、欧米にキャッチアップするには、ITスキルの面でも全体的に底上げしていく必要がある。先述した小林さんの記事を読むと、表計算(エクセルなど)、データベース(アクセスなど)、マッピング・位置情報検知(ArcMapなど)、統計分析、ソーシャルメディア分析(NodeXLなど)等の各ツールも駆使できるレベルが要求されそうだ。

翻って、日本の新聞社の記者キャリアパスは一般的に地方支局を振り出しに5年以上、長い場合は10年近く地方で過ごす。警察や地方自治体、はては高校野球といったところで場数を積むうち、記者としての基礎的な取材力、筆力、企画力等を身に付けるのだが、半面、新しいものへの受容力が高く、感性がみずみずしい20代の全てをアナログな世界にどっぷり浸かることになる。その気になればエクセルを一度も使わずに記者生活を送ることも不可能ではない(最近は若い記者でも使う人は増えているが)。恥ずかしながら筆者自身、エクセルやパワーポイントを普通に使えるようになったのは、記者から転職した後にOJTで修得してからだった。※写真はデータジャーナリズム入門の手引書

130810データジャーナリズム

●“ID記者”の育成制度案たたき台
そこで提案だが、入社して3年~5年程の若手記者から適性や志望に応じて、組織的に育成してみてはどうだろう。支局で3年も仕事をすれば、捜査員に食い込んで特ダネをバンバン書きまくる体育会ノリの「右脳型」記者なのか、粘り強い長期取材や綿密な解説記事を書く方が得意な「左脳型」記者なのか傾向や評価は定まってくる。そこでデータジャーナリストに向きそうな「左脳型」記者を抜擢して半年ほど東京の本社に預けて特訓する。地方紙の場合は共同通信が音頭を取って加盟社の若手を集めればいい。

東京では、前述のツールのノウハウを3カ月ほど受講。ただツールを使えるだけでは自動車の仮免みたいなもの。いっそIT企業などに3カ月ほど職場体験的に「路上教習」を行い、データリサーチ、分析の見習いをやらせる。新聞記者は特殊な職業なので「カタギ」のビジネスパーソンを疑似体験できる貴重な機会にもなるはず。

米プロパブリカのようにNPOが調査報道などで台頭する欧米と違い、日本では既存の新聞社や出版社が向こう10年は報道の主流だろう。確かに某新聞社が、新人記者のツイッター、Facebook使用をご法度にしているという噂が立つほど、業界的にはアナログな体質ではある。しかし、それでも日本でデータジャーナリズムを普及するには全国紙、有力地方紙の基盤は活用するのが現実的と考える。個人的にはヤフーが毎日新聞を買収するとメディアイノベーションが進むと期待するんだが、孫さんや川邉さんたちの英断を、首を長くして待っているうちに疲れた(苦笑)

高校野球以外は新し物好きの朝日新聞さん、いかがですか?ちゃおー(^-^ゞ

新田 哲史
Q branch
広報コンサルタント/コラムニスト
個人ブログ

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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