憲法改正「言論の空しさ」 --- 井本 省吾

2015年01月08日 11:17

米国務省のサキ報道官は1月5日の記者会見で、安倍晋三首相が今年発表する戦後70年の首相談話に関し注文をつけた。

安倍首相は年頭の記者会見で、同談話について第2次世界大戦についての「反省」を盛り込み、 村山談話を基本的に継承する考えを表明した。

サキ氏は首相が村山談話などの内容をどこまで 継承するか、オバマ政権内に懸念があることを示唆したと言える。


つまり「本当に村山談話を継承するのだろうな。しっかり継承することを求める」とダメ押ししているのだ。

2013年12月に安倍首相が突然、靖国神社に参拝し、中韓との関係が悪化したことから、安倍氏の言動に疑惑を抱き、牽制しているとも言える。

オバマ政権は過激派「イスラム国」への対応やウクライナ問題に勢力をとられており余裕がない。で、東アジアでも緊張が高まるのを恐れているわけだ。

同時に、「70年前の日本はとにかく悪者だった」という米国の歴史観(いわゆる東京裁判史観)を壊すような「右翼的言動」に神経を尖らせているとも見られる。安倍首相は「戦後レジームからの脱却」「日本を取り戻す」をキャッチフレーズに憲法改正を唱えているからだ。

米国は東京裁判史観を中韓と共有しており、この点を安倍政権が否定すると、日本との関係にヒビが入ることになると、暗に圧力をかけてもいるのだろう。

それにしても日本は独立国である。それも世界第3位の経済力を持つ民主主義国家だ。その国の総理大臣が出す談話について、いちいち細かく干渉されるのはなぜなのか。

日本は米国の属国だからだ。と、相変わらずの結論が出てきてしまう。それに疑問を抱いても、「今が平和で豊かなのだから、属国でもいいではないか」というのが日本人の多数派だろう。

福田恆存氏に言わせれば「当用憲法」のはずだった憲法が70年間も温存され、恒久的な「常用憲法」になった事実が、そうした日本人の気持ちを物語っている(昨年12月27日付の本ブログ参照)。

福田氏が「当用憲法論」を著した目的は「(日本の一般大衆が)平和憲法の美名の陰に利己心、怠惰の温床を作り、そこに眠りこけようとするのを防がなければならない」という点にあった。
 
本来、自国の防衛、安全保障は自ら担わなければならないのに、国民はそれを米国に依存するのみならず、憲法で軍隊放棄をうたっていながら、自衛隊の存在を認めている。これは欺瞞であり、怠惰な精神だと言っているのだ。

日本人の憲法意識を健全なものにするには憲法を改正するしかない。これが福田氏の「当用憲法論」の骨子だった。

福田氏は30年前に書いた別の論考「言論の空しさ」(「諸君」昭和55年6月号)で次のように書いている。

<或る友人が自衛隊……について、最高裁がはつきり合憲の線を出すべきだと言つたのに対して、私は反対だと言つたことがある。なぜなら、吾々の憲法には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とある。第9条だけなら、色々抜け道もあり、法網を潜ることもできようが、この前文の一句は如何なる遁辞も許さぬ重みを持っている>

平和を愛する諸国民とは要するに米国のことであり、だから日米安保条約ができた。「米国を信頼して日本の安全と生存を保持しようと決意した」と憲法の前文に書いているくらいなのだから、「首相談話の書き方も米国の要請に従え」と暗に米国は安倍政権に働きかけているのである。

だから、多くの日本人は不満を感じながらも、それを米国にぶつけることはしないだろう。せいぜい、飲み屋で「あそこまで言われたくないよな」などと愚痴をいう程度に終わってしまう。

<私が何より惧れるのは、さういふ根性から自信と責任感と誇りとを持ち、国民に信頼された国軍が生れる筈が無いといふ事である>

この論文が書かれた30年前に比べ、国民の自衛隊への信頼は高まっていると思う。だが、憲法で積極的に承認され、期待されない軍隊はつねにどこか腰が定まらないのではないか。

福田氏はずっとそう唱えてきたが、自分の言論通りに憲法改正は進まない。だから「言論の空しさ」と書いたのだ。

空しい状況は今も続いている。だが、「空しい」とつぶやいているだけでは事は進まない。憲法改正の必要を説き続けることは今も必要なのである。


編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年1月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑