自民党の「情報戦略」の裏側に迫る –小口日出彦氏インタビュー

2016年11月24日 10:24

選挙ドットコムでは、いろいろな視点から政治や選挙に関心を持つきっかけを持ってもらおうと、様々な分野において第一線で活躍されている方に「選挙」についてインタビューを行っています。

今回は、参院選後に発売され話題となった『情報参謀』(講談社新書)の著者である小口日出彦さんにインタビューを行いました。
聞き手は選挙ドットコムCCOの松田馨が務めます。

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-松田
本日はお時間をいただき、ありがとうございます。
今年は18歳選挙権の解禁や参議院選挙があり、選挙や政治に関わる本が何冊も発売されました。私も6月に『残念な政治家を選ばない技術~選挙リテラシー入門』(光文社新書)という本を上梓しましたが、選挙・政治関係者の中で一番話題になった本は『情報参謀』でした。

『情報参謀』は2009年に下野した自民党が政権を奪還するまでの間、自民党の情報戦略を支え続けた小口さんによる政治ドキュメンタリーですね。私も本を書く際、「どこまで政治のリアルを伝えるか」に頭を悩ませたのですが、「情報参謀」ではかなりオープンに書かれていて驚きました。自民党の広報戦略や政治家たちとの会話まで細かく書いてあり、「こんなことまで書いて大丈夫なのか?」と(笑)

-小口
実は本の企画は1年以上前からあったんです。その時点で自民党で一緒に仕事をしてきた政調会長の茂木敏充さんや、広報本部本部長代理でIT戦略特命委員会委員長の平井卓也さん、現経済産業大臣の世耕弘成さんたちに「書きますがかまいませんか」と確認していました。 ただし、書きぶりや内容については、本の早刷りがでるまで一切相談していませんでした。お三方には真っ先に早刷りを持参しましたが、幸いにして異口同音に「面白い」と言っていただけたのでほっとしました。

-松田
政治は未だにブラックボックスのイメージが強いですよね。特に自民党はそのイメージが強く、広報戦略なども密室で決められて表に出てこないと思っている人は多いと思います。それだけに、驚きました。

-小口
これはなかなか信じてもらえないのですが、自民党議員の多くは、「情報は隠しておくものではない」「公開できるものは公開しよう」と考えているんです

-松田
なるほど。実際は自民党の内部に情報公開を進めようと思っている政治家が増えたからこそ、ここまで詳細に書くことができたんですね。

-小口
今の政治って、実はもう、隠せることはあまりないんですよ。お金の使い方を少し違えるだけで過度だと思えるほどに叩かれてしまい、すぐに辞職せざるを得ません。なので、もうそんなに隠していることもないですし、昔と違って透明になりつつあります。

時代が変わってきていますね。民間で物づくりをしている企業は、その商品を使う人のことを考えて商品を作ります。これは当たり前のことです。
なのに、政治だけが有権者からどう見られるか、世論がどっちを向いているのかを考えなくていい訳はありません。

-松田
その意味ではわれわれ有権者も、政治家の活動をしっかりと評価しなければなりませんね。例えば政治家のスキャンダルが出れば、そこばかりに注目してしまう人も大勢います。

-小口
そうなんです。有権者があっての政治ですから、有権者がまともに政治に向き合ってくれないと、政治家も困るわけです。

私が2009年に自民党の情報分析のお手伝いをはじめてから、自民党内の人たちも「密室で決めているのだろう」といった不信感を持たれていることに危機感を強く持つようになり、だったら党内の様子をしっかり公開していこうと考える人が増えてきたように思えます。現実はイメージと異なってスマートに、ちゃんと考えてやっているということをこの本で伝えたいと思い、私も赤裸々に書いたわけです

情報が可視化されると「永田町の論理」が解消されていく

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-松田
『情報参謀』は2009年の民主党への政権交代のところから始まっていますね。どんなきっかけで自民党の情報分析をお手伝いする流れになったんですか?

-小口
最初は株式会社ホットリンクの内山社長から、ネットの口コミ分析を使って選挙の予測ができそうだが、なにかに使えないか」 と持ちかけられたことがきっかけでした。どこまで実効性があるかはわからなかったのですが、(自分が取締役を勤める)株式会社エム・データとホットリンクの両者の事業のショウケースとして2009年8月の総選挙の分析をやってみようという話になりました。スポンサーもいませんでしたし、お金にはならなかったのですが、ダイヤモンド社のオンラインメディアで毎日得票予測を更新して発表していました。

従来からの世論調査に基づく選挙結果予想と最も異なった点は、「誰にも、何も、尋ねなかった」ことです。世論調査は、電話や対面でヒアリングするものでしたので、やはり誰かに聞かれるとなると、少し身構えてしまう人もいます。これに対してネットの口コミ分析やテレビの報道量分析はひっそりとデータを集めて計算しているだけですから、そういったバイアスは生じません

選挙が終わってみると、私たちの予想は8割以上的中しました選挙期間中のテレビ報道のメインは、芸能人の覚醒剤スキャンダルばかりでした。言ってみれば「ノイズ」だらけだったわけです。にもかかわらず、テレビ露出量やネット口コミと選挙結果の間にこれだけ高い相関関係が見られたは興味深いことでした。
そして、ノイズだらけの中で、自民党と民主党が放送していたCMの内容を比較してみたところ、内容もメッセージも大きく異なっており、うまく政党をPRできていたのは民主党でした。

選挙や政治の専門家から見れば違う仮説になるのかもしれませんが、メディアの専門家としてはこのような分析を行いました。

-松田
それがきっかけだったんですね。
そしてその後、2009年から2013年まで各党の動きや報道量と支持率を分析されていましたが、「実は有権者はしっかりと政治を見ている」という側面も明らかになっていましたね。

例えば、野党が内閣不信任案を提出すると実は野党側の支持率が下がっています。野党側からすると、与党を否定するために内閣不信任案を出すのですが、その逆の結果が生まれています。内閣不信任案が提出されると、それまで進んでいた政策の議論が止まってしまいますので、「そんなパフォーマンスはいいから政策を進めて欲しい」というのが有権者の感覚で、実際に支持率が下がっているということが『情報参謀』の中で書かれていて、個人的にはとても勇気づけられました。

-小口
実際にそうなんです。内閣不信任案は、通常国会や臨時国会のお約束になっていて、どうしても毎回野党は出します。これはある意味、風習のようなもので、ほぼ毎回出されていましたが、今回分析をしていく中で有権者から見て好ましくないと思われていることが明らかになりました。

-松田
永田町では、永田町独特の論理が強すぎますよね。「昔からこうだから…」というのが支配的で、有権者にどう映っているのかを気にしていない人も多いという印象です。そうしたものが情報分析で明らかになり、永田町の論理が少しずつ変わっていくと良いですね。

ただ最近は有権者に「どう見られているか」を考えている政治家ももちろんいます。
僕が驚いたのは2014年の衆議院議員選挙の際の橋下徹さんです。選挙期間中の予測では維新の党は選挙区であまり議席を取れないと予想されていました。そうした状況で選挙戦最終日に、橋下徹さんが「敗北宣言」をしました。街頭演説の中で「世論調査で出ている。負けました。」というニュアンスの発言をしたとニュースになり、非常に驚きました。通常であれば、まだ候補者ががんばっているわけですから、選挙が終わるまでは「絶対勝てる」と鼓舞する政治家が多いですし、ほとんどの場合は「無党派層はまだ投票先を決めていないのだからマスコミの世論調査は当てにならない」と言って調査結果を否定します。そんな中、橋下徹さんが調査結果を否定せず、敗北宣言をしたのは驚きでしたし、何よりもこの発言の結果、同情票をうまく集めて結果的に維新は大阪の選挙区では自民党に競り勝って議席を獲得しました。

-小口
橋下徹さんは、「有権者からどう見えているか」を上手く考え、また振る舞えるという点で突出した存在ですね。

加えて大阪は、データ分析だけでは分からない特異な選挙区でもあります。
実際に現場に行って、政治家の演説を聞いている有権者の反応を見た方が予測の精度が上がります。実際に見に行っても予測は難しいかもしれませんが…。大阪に住んでいる人からしても、選挙結果の予測は難しいのではないでしょうか。
大阪や沖縄は選挙的な観点からは独特な地域です。周辺府県や全国の傾向と異なることが多々あります。

画一化される日本。その中で独自性を保つ大阪

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-松田
大阪・沖縄は選挙業界の中では確かに特殊ですね。政党支持率は全国では自民党が1位ですが、大阪では維新が第一党になることもあります。今年の参院選でも、大阪府の当選者4名の内、2名がおおさか維新の候補でした。

-小口
私は、大阪は特異であり続けた方が良いと思っています。

というのも、日本は「情報」の観点から言うと、画一化が進みすぎているように感じるからです。「多様性の時代」と言われるのに、実際は逆行しているのです。

例えば、日本の面積はアメリカで言えばカリフォルニア州くらいの大きさです。カリフォルニア州にはロサンゼルスとサンフランシスコという2つの大きな都市がありますが、それぞれの都市では地元の新聞紙もあり、文化が異なります。住んでいる人たちの意識も違いますし、ライフスタイルも違います。

でも日本では、地域ごとの差がなくなってきています。地方のテレビ局は東京にあるキー局の番組を流しています。地方局が流している情報は90%以上が東京の話題になっています。 地方に住んでいる人たちも、テレビでは自分の地域のことではなく、東京の情報を見ているのです。

-松田
特に今年の後半は、舛添前都知事の辞任から小池新都知事が誕生するまで、そしてその後も築地移転や五輪施設の問題で、都政が全国的な話題になっています。

私も仕事柄、全国を飛び回るのですが、どこに行っても都知事の話題を耳にします。都知事の話題って、よくよく考えれば都民以外は直接関係がない話題なんですよね。都知事選挙の際も、都民以外は投票できません。それなのに、ワイドショーで取り上げられるから、地方に住んでいる方でも皆さん知っているし、話題にしています。

-小口
そうなんです。
私の情報参謀としての仕事は、テレビやネットでの露出を可視化して、政治家に「有権者からこう見られていますよ」と伝えることです。そして、政治家が有権者を意識すると同時に、有権者の方には「政治家が何を考えているのか、どんな行動をしているのか」をしっかりと知ってほしいと思っています。

ですが、地方で流れる情報が東京の情報ばかりになってしまうと、有権者が地元の政治家のことを知る機会が減ってしまいます。最終的には、自分の住んでいる地域の政治家や政治課題をほとんど何も知らない人が増えてしまうのではないかと危惧しています。

その意味で、大阪には独自のコンテンツを作っているテレビ局もありますし、さらには大阪本社の企業もあり、大阪独自の文化があります。これからも大阪は特異な存在であって欲しいと思っています。

-松田
地方創生が日本社会の大きなテーマになる中で、政治家と有権者をつなぐメディアが発信する情報も、地域によって独自性が出るといいですね。

最近の大学生と話をしていると「自分は政治のことは分からない」し、「そもそも自分の日常は政治とは関係がない」と思っている人が一定数存在しているという印象があります。でも普通に社会生活を送っていれば、政治と無関係なはずはありません。大学という機関も政治の影響を大きく受けますし、アルバイトや就職活動、買い物をした際の消費税だって全て政治と関わっていますので「政治と関係ないというのは、勘違いだよ」と。ただ、こうした政治への無関心の根底には、政治不信があると思っています。

-小口
政治不信を解消するためには、政治家と有権者両方から歩み寄らなければなりません。その、歩み寄りの最初の一歩として、『情報参謀』を読んでもらえるといいなと思っています。 

-松田
おっしゃるとおりですね。選挙ドットコムでも、政治家と有権者をつなぐコンテンツを増やしていきたいと思っています。

今日は「情報」という観点から、政治不信の解決策や今後の課題についてもお話を伺うことができ、とても勉強になりました。またぜひ、お話を聞かせてください。ありがとうございました。

-小口
こちらこそ、ありがとうございました。 


小口日出彦(こぐち・ひでひこ)
1961年生まれ。慶應義塾大学卒業後、株式会社コスモ・エイティ、日経BP社ニューヨーク支局/シリコンバレー支局特派員、日経E-BIZ編集長、日経ベンチャー(現日経トップリーダー)編集長などを経て、2007年、株式会社パースペクティブ・メディアを設立。代表取締役となり、現在に至る。情報分析と情報表現のコンサルティングを手掛ける。ほかに株式会社エム・データ取締役など複数企業の役員を兼務。著書に『情報参謀』(講談社新書)

松田馨(まつだ・かおる)
1980年生まれ。株式会社ダイアログ代表取締役。選挙ドットコム株式会社取締役CCO(最高コミュニケーション責任者)。2006年以降、地方選挙から国政選挙まで110を超える選挙に携わる。新聞や週刊誌上において国政選挙(衆議院・参議院)の当落予想を担当するなど、選挙区分析に定評がある。ネット選挙運動の解禁や投票率向上の活動にも長年取り組んできた。著書に『残念な政治家を選ばない技術 「選挙リテラシー」入門』(光文社新書)

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