「暴力主義的破壊活動」とは?続・スリーパーセル議論

2018年02月20日 06:00

二つの論点

「工作員妄想」との記事をyahoo上で発表した古谷経衡氏が、ネット上で自身の記事に対して〈懐疑を投げかける意見も散見〉されたとし〈誠実に答える義務を有するのが、社会通念上適当であると判断して〉回答を公開された(加熱する「スリーパーセル」論争~「スリ―パーセル」は実在するのかしないのか?~)。

ネット上の指摘に対して誠実に返答する姿勢は見習われてしかるべきだろう。筆者の古谷氏に敬意を表したい。

そのうえで、私も同記事に懐疑を投げかけたうちの一人として補足しておきたい。ツイッターなどの指摘ではなく言論サイトの場をお借りして問題点を指摘し、多くの方にお読みいただいた立場から、再度見解を記すものだ。だが基本的には回答記事を読んだ読者諸氏の判断に委ねたい。また、本論は本来の議論から若干外れ、一部文章読解(?)の範疇になってしまった面があることをご了承いただきたい。

論点は次の二つ。

論点1「潜伏工作員」の存在を指摘する『警察白書』を参照していない理由。

論点2 公安調査庁と警察公安部門を混同しているのではないかという点。

以上、2点について、古谷氏はこう述べている。

論点1について

〈(三浦氏の発言において)社会通念上の常識から考えて、この「スリーパーセル」なるものは、大都市における破壊活動を主目的にする特殊工作員、武装工作員であって、単に諜報や連絡に携わる工作員よりも、より上級の存在であり、本邦社会に対し破壊的な活動を行う特殊工作員であると解釈するのが妥当である。
よって、警察白書の「潜伏する工作員」の記述を以て、「スリーパーセル」の存在を導き出すのは無理筋と言わねばならない〉

三浦瑠麗氏の番組中のコメントから「スリーパーセル」の定義から「情報提供」だけでなく「諜報活動」をも排除し、かなり狭い範囲に限定している。確かに、後の三浦氏自身のブログ等による説明を見ても、こちらを意識しているようではある。

が、一方で古谷氏は同じ記事の中の、『警察白書』ではなく、あえて公安調査庁資料(『回顧と展望』)を引いた理由を述べる段で、こうも説明している。

〈(公安調査庁の設置根拠である)破防法は「暴力主義的破壊活動」を防止するために立法・成立されたものであり、ここでいう「暴力主義的破壊活動」とは、「内乱・陰謀・外患誘致・放火・強盗・往来妨害・汽車転覆・殺人等および予備」などを主に指すものである。現代風に言えばこれは、テロ活動と言えるだろう。これは、(中略)三浦氏の想定する「スリーパーセル」のテロ活動の姿と驚くほど合致するといわねばならない

破防法第四条にはこうある。

〈第四条 この法律で「暴力主義的破壊活動」とは、左に掲げる行為をいう。(中略)
ロ 刑法第七十七条(内乱)、第八十一条(外患誘致)又は第八十二条(外患援助)に規定する行為を実行させる目的をもって、その行為のせん動をなすこと
ニ 刑法第七十七条、第八十一条又は第八十二条に規定する行為を実行させる目的をもって、その実行の正当性又は必要性を主張した文書又は図画を印刷し、頒布し、又は公然掲示すること

ホ  刑法第七十七条,第八十一条又は第八十二条に規定する行為を実行させる目的をもつて,無線通信又は有線放送により,その実行の正当性又は必要性を主張する通信をなすこと。〉

となると、いわゆる「暴力的破壊活動」の範疇は、必ずしも特殊・武装工作員などが行う「事実上のテロ」に限られるものではない。テロの準備はもちろん、外患援助などのための煽動、無線通信や有線放送、もしくはその手の印刷物を作成して頒布しただけでもアウトだ。※ただしこの辺り私は門外漢もいいところなので、ぜひ専門家の指摘を待ちたい。

そしてここからは若干、些末といえば些末で文章読解の域に入ってくるのだが、今回の古谷氏の主張にある「三浦氏が想定している『スリーパーセル』は特殊・武装工作員だから、『警察白書』の記載をもってその存在を認めることはできない」との主張と、「あえて公安調査庁の資料を使った」理由を両方とも成り立たせるのは無理があるように思う。

なぜなら、(これは私もままあることなので自戒を込めて指摘するし、この一文にそういう部分があればぜひ指摘していただきたいのだが)一つの文章の中で、A「スリーパーセルの存在を認めない理由」を述べる時とB「公安調査庁の資料を引いた理由」を述べる時とで、古谷氏が定義する「(三浦氏の想定している)スリーパーセル」の意味するところが微妙に変わってしまっているからだ。

簡単に書くとこうなる。

A 『警察白書』の記載をもってその存在を認めることはできない→なぜなら(三浦氏の想定している)スリーパーセル=潜伏する(情報)工作員などではなく、特殊・武装工作員だから

B あえて公安調査庁の資料を引いた→なぜなら(三浦氏の想定している)スリーパーセル=(破防法の定義と驚くほど合致する)工作員だから

専門家でも「スリーパー(セル)」の存在や定義については見解が分かれているので無理もないが、一つの文章中で定義が揺らいでしまうと、読者は混乱する。
論点2について

〈公安調査庁と公安警察を一括して「公安」「公安当局」「我が公安」「公安警察」と記述す【原文ママ】のは、北朝鮮とその関係者の動向を監視する日本の治安機構全般への呼称として、社会通念上の慣習として確立しているといわねばならず、至極妥当と言わなければならない。〉

ここで古谷氏はリンク先にあるように青木理氏の書籍『日本の公安警察』からその定義を引いている。青木氏の使っている定義が社会通念上の慣習として確立しているかどうかは見解の相違があるので、この点は特に読者の判断に委ねたい(また、いわゆる工作活動については「警察白書より公安調査庁資料の方が詳細である(ために引用した)」とする点についてもこれは個人の受け取り方なので、読者の方も読み比べていただければ幸い)。ただし公安調査庁と警察公安部の区別はついていたとのことなので、この点については大変失礼いたしました。

専門家による情報発信・情報修正を待望

最後に元々の議論に戻せば、三浦瑠麗氏の発言は番組中の短いコメントであり、様々な解釈の余地の残る面があった。「スリーパーセル」なる、一般的に聞き慣れない「なにそれ!」と思わせるものであり、しかもどこまでを任務の範疇にするかなど、専門家でも定義の分かれている文言を使ったことも、炎上の理由だったと言える。それに具体的な地名を挙げたことが拍車をかけた。

確かに安全保障情報を発信する人々の中には危機を過剰に煽る論調や、「某国インテリジェンス機関から秘密裏に漏れ聞いた機密情報」などと前置きして、誰も確認の取れない情報を以てテロの危険性や工作員の存在を吹聴する向きが、ないではない。

専門家の間でも意見は分かれるような高度に専門的な事例を含む物事については本来、(私のような)門外漢ではなく、その道の専門家が厳しく目を光らせ、誤った解釈が広がりかかった際には即座に情報の修正を行う必要があろう。自衛隊や国防に関する情報にも同様のことが言える。

そしてこのようなテロや工作員を巡る言説の検証や精査は、当然のことながら警察や公安調査庁の力を軽視するものではなく、むしろ「正しい情報を把握したうえで行われるべき官民一体のテロ・工作活動対策」のために、まず知っておかなければならない最低限の情報を確認する作業に過ぎない。警察や公安調査庁を支持するも批判するも話はそれからではないか。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑