民主党マニフェストより非現実的な石破ビジョン

2018年09月19日 11:30

石破茂氏の公約集らしい「日本創生戦略 − 石破ビジョン~時代の”ピントをチャンスに果敢に挑む~」を読んで、そこに描かれている夢のような世界に魅せられた。将来像として、そんなことが可能ならうれしいことである。

石破氏総裁選特設サイトより:編集部

「日本創生、すなわち、すべての人が幸せを実感できる国づくりに邁進し、国民の多様な価値観やライフスタイルを支持する。そして、生産性の底上げや経済を一新するイノベーションの実現を図り、地方創生を通じて、国民1人当たりGDP や幸福度の最大化を目指す」というから、みんな勝手に希望をいってそれがかなえられ、経済は隆々として発展し、地方を大都市を犠牲にするかどうか分からないが栄えさせ、福祉も充実して財政も健全、結構なことでなくしてなにであろうか。

しかも、それを、「政治・行政の信頼回復100日プラン」として具体的な期限を設け、実現してくれるというのだから素晴らしい。世界史上でも類例をみない奇跡が起こりそうである。

しかし、これは、実際に政策を実現する期限ではなさそうだ。たとえば、年内に防災省をつくるという案をつくって、 通常国会に法案を提案し、党内も納得し、強引に通したりせずに野党の理解も求め、それが通ったら、準備に一年くらいかかるだろうから、早くても再来年あたりに防災省ができて、どんな具体策を立てるかを検討して、また、国民の広い支持があれば、立派な政策がいつのことかしらないが、実行に移せるかもしれない。それが、南海トラフ地震などに間に合うことを祈る。

これをあの民主党マニフェストと比べると、民主党マニフェストは、具体策にしっかり踏み込んでいた。ただ、財源がなかったり、高速道路無料化のように、ドイツのように最初からそういうように制度設計をしてけばそれもよいが、すでに有料前提の高速道路網があるものを、無料化しようというので、実行上の問題が多すぎて、だいぶトーンダウンしたが、それでも、料金の値下げなど民主党は実行に移せた。

それに比べて、石破ビジョンは目標と具体性のない政策テーマをぐだぐだ並べただけだから、それを具体的な政策として法案を通すだけで総裁任期や衆議院議員の任期は終わりそうだ。

こんないい加減な総裁選公約は見たことない。

ここでは、そのうち、地方創生ビジョンについて、少し検討してみよう。

まず、根本的な問題は、石破茂氏が安倍首相から地方創生を託されて、やりたい施策を実現できる立場にかつてあったということだ。そのころは、いまよりさらに、支持率が高い安倍首相の援護があるからたいていのことはできたのである。そのとき、なぜ、提案しなかったのか、まずは弁解が必要だが、それも、とりあえず、横に置く。また、石破氏が30年以上も代議士をやって鳥取のために実践してきたのか教えて欲しい。鳥取の惨状は石破父子の責任なのだが。

掲げられている政策は以下の通りだ。

①東京一極集中の是正(国の機関の一部移転、本社機能の移転など)

②脱炭素化・再生可能エネルギーを原動力に地方創生を実現

③地域の個性を活かした小水力発電など再生可能エネルギーの最大限活用(=「エネルギーの地産地消」)

④地方の個性や自主性、経営力向上を担保する財源の充実や補助金・交付金制度の見直し

⑤地方の財源拡充による地方の自主性の醸成

⑥地方創生を担う人材や政策機能の確保(地方公共団体のガバナンスやシティマネージャー制度等による機能強化、霞が関や企業からの人材移転、ローカル・ビジネススクール等)

⑦地方創生深化のための規制緩和・制度改革の推進

⑧地方創生のための法人税改革(本社や人材の地方移転支援等)

⑨サービス基本法の制定と生産性向上国民運動の展開(=地方経済・農林水産業の高付加価値化)(業務プロセス改革、サービスの「質」の見える化と適正対価、過剰サービスの見直し、持続可能(SGDs)な消費行動(無断キャンセルガイドライン、食品廃棄ロス解消等)等)

⑩「モノからコトへ」(産業構造の転換)、「コトづくり」等を通じた観光・文化・スポーツ・ゲーム等の地域のサービス産業の生産性向上(ワクワクする日本、ナイトタイムエコノミー)

⑪世界一の観光立国(訪日外国人旅行者数目標2030年8000万人)-「地方の宝の山」(世界有数の長寿国・日本が誇るおいしい食べ物とお酒、世界遺産・国宝・日本遺産をフル活用した交流人口の拡大)の最大限の活用、地域観光ポイント制度の創設、アジア30億人の新中間層をターゲット

⑫地方における最先端の基盤技術を活かしたスマートシティの展開(無人コミュニティバス、IoTによるインフラ管理、スマート農業等の「世界の実験場」)インバウンド戦略の強化と日本の各都市がアジアのスマートシティーと共鳴、共同で地方を世界に開く「架け橋プロジェクト」の推進(2020オリパラのホストタウン招致プロジェクト、スマートシティ国際共同事業、海外市場の成長の取り込み等)

⑬地域の個性を活かした成長インフラの整備推進

①の首都機能移転は結構なことだが、まず、東京都は反対するだろうが、それを押し切れるのか石破派の大番頭で東京都連会長である鴨下氏は当然、納得して責任を持って反対を抑え込む決意を当然されているののだろうが、それを、鴨下氏が決意表明していただきたい。

②③は再生可能エネルギーが災害に弱いことも露呈し、電力買い取り価格を下げねばならないときに、「地方再生の原動力となるほどに推進」するというのは相当に難しいし財源もかなりにのぼりそうだ。

④⑤は、それをするなら、国の施策はかなり削減しなくてはならないが、できるのか。

⑥⑦は、維新あたりがさんざん地方のボス、首長、議員、労働組合と対立しながら取り組んで、それでも、なかなか成果をあげるのに苦労しているテーマだが、対話と合意重視の石破哲学のもとではますます難しい。とくに自治を強化したら、そんなもの実現できないわけで、④⑤と矛盾している。

⑧は地域によって法人税率を変えるのだろうか。かなりの冒険だし、どこにどのような税率を適用するか、合意形成をどうするのか。こんなのは、積み上げ式を主張する石破流では無理で、安倍首相を上回りプーチン以上の大独裁者が出現しないと無理だ。

⑨⑩のサービス産業化やその合理化は大都市集中を進めると思う。

⑪は安倍内閣のもとで大成果がでているし、これからも出るだろう。何を付け加えるのか。

⑫けっこうなことだし、いまも進んでいるが、どうしてそれが大都市に対する地方創生なのか不明。

⑬誰も反対しない。ただし、経済合理性の高いインフラ整備は、地方住民の要望にはあわないので、要望が強いインフラ整備を切ることと同義だが、分かっているのか。

以上が寸評だが、はっきりいって、学級委員選挙の選挙の公約なみ。大人の文章になっていない。

防衛政策については、石破氏は、いずれは、第9条第2項も削除だが、とりあえず、急がず、鳥取と島根が参議院で一議席ずつ確保できる憲法改正のほうが大事だから優先する。そして、集団的自衛権には第九条の制約が及ばないので、日米安保条約に基づき、アメリカと一緒に地球の裏側までいって戦争に加わる。そうすることで、日米地位協定の見直しにアメリカに同意してもらって、そのことで、沖縄の人々は満足するだろうから、辺野古移転もできるはずというのが、石破防衛政策と理解している。

これが、100日プランのなかで成立して、アメリカも、野党も、沖縄の人も納得してくれ、法案や条約の改定もできるなら、結構なこととしかいいようがない。

それから、石破氏の総裁選挙特設ページには、短編小説「やわらかい日本」がついている。ネットで最初にみたときは、石破氏のなりすましかと思ったら、総裁選挙用の特設ページの目玉のようである。

これについて、ある人が、「女子大生の父親は、単身赴任(東京)母親はネールサロン経営。シングルマザーの女子大生の子供は保育園や近所のお年寄り等がみてくれている。親の女子大生や単身赴任の爺さん、ネイル婆さんは孫に関わらない」と皮肉っていた。たしかに、息苦しくはなさそうだ。

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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