「反日」は韓国の国益にあらず

韓国で文在寅大統領政権が発足して以来、「積弊清算」を標語に反日活動がこれでもか、これでもか、というように激しく進められてきた。韓国済州島で10月開催された国際観覧式で日本の海上自衛隊の自衛艦旗(旭日旗)の掲揚自粛要求、旧日本軍の「慰安婦」問題の和解・癒し財団の解散、そして元朝鮮半島出身戦時労働者(いわゆる「徴用工」)の賠償請求容認判決まで、次から次と飛び出す反日活動に日本側もさすがに疲れを覚え、安倍晋三首相の口からオバマ前米大統領が対北政策で使った「戦略的忍耐」という表現に倣って、「戦略的放置」という言葉が飛び出すほどになってきた。日韓両国関係は既に危険水域に入っていることは誰の目にも明らかだ。

▲反日活動を加速させる韓国の文在寅大統領(韓国大統領府公式サイトから、アルゼンチンのG20カ国首脳会談で)

▲反日活動を加速させる韓国の文在寅大統領(韓国大統領府公式サイトから、アルゼンチンのG20カ国首脳会談で)

ところが「このままいけば危険だ」という声が日本からではなく、事の発信地・韓国から出てきたのだ。韓国最大手新聞の朝鮮日報(日本語電子版)で鄭権鉉論説委員は「反日の代償は高い」(5日付)というコラムの中で、「日本の世論は、もはやこれ以上悪化しようがないというほど悪化している。徴用被害者判決に続き、「慰安婦」問題解決のために発足した『和解・癒やし財団』まで解散となり、最悪の韓日関係は奈落の底に沈んでいる。日本側では『韓国は国家としての体をなしていない』というは極端な発言が飛び出し、韓国と顔を合わせるのが嫌だと言って韓日議員連盟を脱退した議員もいる」と日本の現状を冷静に伝える一方、「国際舞台でこれまで韓国支持の立場をとってきた日本が態度を変えた時、韓国に本来の外交力がどれだけあるのか、すぐに明らかになるだろう」と警告を発している。

同論説委員は国際条約や約束を無視する強引な反日政策は日本側の制裁を受ける結果となるというのだ。この指摘は重要だ。そこで今回、「反日は韓国の国益か」というテーマについて少し考えてみた。国の為政者は国益を重視し、外交は国益を守ることを最優先とする。トランプ米大統領の“米国ファースト”もその表現は余りにも直接的で大国・米国の威信と名誉を傷つけている点はあるが、政策自体は極めて正統だ。

それでは「積弊清算」をモットーに過去の日本の統治政策を批判し続けることが韓国の国益に適うことか。日本は1965年、「日韓請求権協定」を韓国と締結し、当時としては巨額の協力金を渡した。その資金をもとに韓国の国民経済は急速に発展することが出来たことは歴史的事実だ。それを前提に代表的な問題を少し振り返る。

①日韓両国の岸田文雄外相と尹炳世外相は2015年12月28日、ソウルの外務省で会談し、「慰安婦問題について不可逆的に解決することを確認する」とともに、互いに非難することを控えることで一致し、生存している「慰安婦」救済の「和解・癒し財団」を創設することで合意した。しかし、文政権は今年11月21日、「慰安婦の痛みは日韓合意では癒されていない」として、日本側が10億円で拠出して創設した財団を解散した。

②韓国大法院(最高裁に相当)は10月30日、4人の元「徴用工」の新日鉄住金に対する賠償請求を認める判決を下した。11月29日には2人の元「徴用工」の三菱重工業への同様の請求を認めた。大法院の判決を聞いて、河野太郎外相は、「戦後の日韓関係を根底から覆す判決だ」と激怒した。

元「徴用工」や「慰安婦」への賠償は本来、日本から得た資金と基金で韓国政府が実行すべきだったが、それを怠ってきた。その責任を日本に転嫁しているわけだ。

その結果はどうか。韓国の反日活動がこれ以上高まると、韓国に進出した日本企業は韓国から撤退する動きが出てくるだろう。それだけではない。「国際合意を簡単に破る韓国」というイメージが世界に流れることで、韓国は国家の「信用」という掛け替えのない財産を失うことになる。長期的にみて、韓国の国益に巨額の損害を与えることになる。

例えば、韓国は外交官の活動を保障するウィーン条約を無視してソウルの日本大使館前に少女像を設置し続け、世界に少女像を輸出する運動を進めている。文政権は26人の慰安婦(2018年12月現在)のために国際間の合意を一方的に破棄した。韓国の国益に適う対応だろうか。旧日本軍の慰安婦問題を強調することで、これまで隠蔽してきた韓国軍兵士のベトナム女性への性犯罪が再び脚光を浴びる結果ともなっている。

「戦略的放置」の安倍政権だが、韓国の出方次第で制裁に乗り出す可能的はもはや皆無ではないだろう。具体的には、在日韓国人に対する税務査察強化、留学生研修支援中止、ビザ免除措置廃止などの制裁が考えられる。

制裁は強国が弱い国に実施する場合に効果が出てくる。逆ではない。経済的に強国の立場の日本が韓国に対して本格的な制裁に乗り出せば、韓国側は厳しくなることは目に見えている。すなわち、文政権が「積弊清算」にうつつを抜かしていると、大切な国益を失う危険性が現実化するのだ。

文大統領は日本からの警告を無視し、「未来志向でいこう」と平気な顔で白を切るが、韓国紙の警告は賢明な韓国国民の声だ。確信犯の文大統領に何を言っても無駄かもしれないが、「反日」は長期的には「韓国の国益」に反するのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年12月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。