中国の苦境

岡本 裕明

日本電産の永守重信会長が「尋常ではない変化が起きた。46年経営を行ってきたが、月単位で受注がこんなに落ち込んだのは初めて」(日経)と語っています。日本を代表するカリスマ経営者の一人、そして発言にあまりぶれがない永守会長からこのような言葉が出てくることは驚愕であります。いったい、何が起きたのでしょうか?

日本電産はモーターの会社で、あらゆるモーター分野を手掛けますが、その中でも自動車向けモーターが落ち込み、特に中国向けは11月に前年同期比3割減になったというのです。また、中国向け省エネ家電のモーターも11-12月にやはり3割落ち込んだと記者会見で述べています。

その頃は確かに米中の通商、貿易戦争がはじまり、心理的な圧迫感がありましたが、中国経済の転機はもっとはるか前から起きていた中でアメリカがさらに背中を押したと考える方がすんなりとしています。

中国のGDPを見ると発表ベースでは2007年の14%成長がピークで2018年成長率は6.5-6.6%程度と見られています。ただし、これらの数字は昔からの指摘されている通り相当「盛られている」とされ、1か月ぐらい前に中国の専門家から実態の成長率は1%台と報じられ、その後すぐにその報道が削除されています。

なぜ、中国は停滞期に入ったのでしょうか?5つや6つぐらいすぐに理由は上がるでしょう。その一つに共産党主導型経済運営の破綻が見えてきた点を今日は指摘したいと思います。中国の人口14億人のうち共産党員は9000万人程度いるとされます。共産党員は国家に背くことなく、臣僕である点において中国国家における保守派と言えます。そこで政府、ないしその影響下にある会社が何かを購買する場合を考えてみましょう。A社とB社という選択肢があり、A社は共産党員の会社でB社は非共産党員であればA社で買おう、ということを国家主導で行うのであります。

例えばアリババの創業者、ジャック マー氏が実は共産党員だったということが12月頃に驚きをもって報じられていましたが、国家の成り立ちと同社の成長ぶりからすれば当然であったと言えます。これがもたらす弊害とは自由競争が阻害され、14億の人口に基づく潜在能力を実質1億足らずの公平感を欠いた経済に頼ることに他なりません。つまり、残り13億人を格差し、その持てる能力は埋もれ、将来も確約されたものではない、ともいえるのです。

これは習近平国家主席が主導する権力型国家運営が機能しないことがいよいよ表面化してきたことを物語っているかもしれません。2007年頃までは北京五輪、上海万博で中国が絶頂期にあり、都市部で人が不足し、地方労働者が出稼ぎに来るスタイルはごく当たり前でした。私も当時それを実際に目にしました。

今は作りすぎた製品や住宅にもかかわらず、沿岸部では欧米の価格を凌駕するような物価水準をつけるのはどう考えてもつじつまが合わないものでした。その上、見せかけの雇用確保を通じて安定政権運営をするため、従業員の首は切れない(正確には切りにくい)制度を強化し、否が応でも製造を進め、在庫の山を築くのです。

その在庫に日本電産のモーターも採用されていた、ということであります。その在庫の山をトランプ大統領が揺すり、崩れたことが永守会長の「尋常ではない変化」という発言につながるのでしょう。

中国が陥っている罠とはかつてソ連が破たんした原因の一つである計画経済において世の需要と供給を無視した政府主導のコントロールと同様としても過言ではありません。ここでは説明は省きますが、計画経済は経済がインキュベーション(孵化)状態のときには機能します。また極度な不況の時にも機能します。(それ故、ソ連は1930年代の大不況を計画経済で上手く乗り切った唯一の主要国です。)

勿論、ソ連の計画経済と今の中国経済とは根本が違いますが、結果として同様の道のりを歩んでいるように見えます。その共通点とは経済を国家運営の手段としていることであり、市場の需給を放置している点でしょう。

中国の苦境はそう簡単に脱せないように見えます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年1月21日の記事より転載させていただきました。