「仮想蓄電池サービス」の難解さと不公平感

2019年04月25日 06:00

電力業界では今、「卒FIT問題」が注目を集めています。FITとは太陽光発電等の再生可能エネルギーの固定価格買取制度の略称です。

2009年に導入されたFITですが、住宅用では、10年間1kWhあたり42円(導入当初)というかなり高めに設定された固定価格で買取を保証されてきましたが、その恩恵を受けていたFIT制度の適用が今年の10月から終わり始める家庭が出現するのです。これを「FIT切れ問題」あるいは「卒FIT問題」と言います。その数は2019年度だけで50万軒、大きな火力発電所4基分に該当するのでなかなかの量です。

当初、この卒FIT問題は今とは別の切り口で語られていました。それは、売り先がいなくなってどうしていいかわからなくなってしまうという、消費者保護の観点でした。去年までは、FIT切れの電気の買取を名乗り出る会社は一部のベンチャーを除いてありませんでした。

ところが、ここにきて、風向きが大きく変化しています。多くの企業がその余剰電力の買取りに積極的に名乗りを上げ始めたのです。買い手市場から売り手市場への変化です。背景に、需要離脱を防ぎたい旧一般電気事業者と言われる既存大手電力会社と新電力といわれる新規参入者との熾烈な競争があります。

特に最近目立つのが、関西電力や四国電力などの既存大手電力会社の積極姿勢です。下の図は両電力会社のサービスのプレスリリースです。偶然にも両者の名前は「ため(貯め)とくサービス」です。東京電力や中部電力も同様のサービス開始を打ち出しています。

四国電力の「仮想蓄電池サービス」

関西電力の「仮想蓄電池サービス」

このサービス、考えれば考えるほど難解です。以下その難解さを説明をします。

もし、余った電気を誰も買ってくれなかったら、あるいは安く買い叩かれたら、FITが切れた太陽光発電オーナーはどういう行動にでるでしょうか?出来るだけ、自家消費分を増やして余りが出ないようにするでしょう。ところが電気は貯められません。そこで、「蓄電池を自宅に設置して、余った時に貯めて(充電して)、足りなくなったらそこから持ち出す(放電する)」という解決策が一つあります。

実際、蓄電池の低価格化や補助金などのインセンティブ施策で、特にFIT切れ間近な住宅用太陽光発電オーナーは、こうした蓄電池を設置し始めていて大きな商機となっています。

何れにしても、FIT切れの住宅にとっては、蓄電池を自宅に設置して自家消費量を大きくするか、出来るだけ高値で売るかの2択だったわけです。

ところがここにきて、足並みを揃えて旧一般電気事業者が「仮想蓄電池サービス」を提示してきました。いわば第三の選択肢です。仮想蓄電池サービスとは、余った時には送配電網(ネットワーク)を経由して、電力会社が預かり、足りなくなったら、預けていた分をネットワークから引き出すという仕組みです。

しかし、送配電網(ネットワーク)を経由して、電気を送るためには、「託送料金」と言ってネットワークの通行料がかかります。そしてこの託送料金は、FITの急激な導入による負担金、再エネ賦課金が加わっていて、1kWhあたり10円程度と結構な値段です。しかも、ネットワークの向こう側にある電池に一旦預けて、それをまたネットワークを通じて引き出すなら、往復の託送料金を払うのが筋だと思います。

すると、往復20円に加えて、様々なコストを考えるとこのような「仮想蓄電池」サービスは事業者にとって割に合わないと私は思うのですが、いかがでしょうか?そうだとすれば、中小の家庭の電気料金を高止まりさせてその原資を元手に太陽光発電システムを所有する比較的大口の住宅への割引サービスとも受け止められ、これも不公平です。

さらに、もっと不公平なことがあります。これは私の邪推なのですが、このサービスで電力小売会社は託送料金を送電会社に払うつもりはないのではないかと思うのです。もし、しっかり払うのであれば到底割に合わないのですから。もし払わないのだとすれば、「あくまでバーチャルであって、リアルではないから」という言い訳が聞こえてきそうです。しかし、それはとても不公平です。

家に太陽光発電を設置して、10年間で原価償却をして利益を得た家庭には、さらに「再エネ賦課金の免除」「実質的な電気料金の割引」というさらなる利益供与がなされ、その再エネ賦課金を、太陽光発電システムを投資できない貧しい家庭は否応もなく支払うとすれば、公平の原則から逸脱していると言わざるを得ないのではないでしょうか。

再エネ賦課金の原因となった家庭が、「バーチャル蓄電池」でそれを免除され、一般の家庭がその分の負担を強いられるとはなんとも皮肉な話です。

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酒井 直樹
株式会社電力シェアリング代表

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