麻雀「黒川杯」を文春に売った産経関係者はオズワルドか?

2020年05月28日 06:00

黒川氏(東京高検HP、現在は削除)、産経新聞ロゴより

黒川弘務・東京高検前検事長と産経新聞記者、朝日新聞社員との「3密」麻雀は、ここにきてネット上では「黒川杯」という俗称が付けられているようだ。ネット民の絶妙なネーミングに笑い転げる暇もなく、きのう(27日)はまたも産経が雑誌メディアに砲撃された。第2弾を放ったのは文春砲ではなく、プレジデント砲だ。

産経に重大疑惑…まさかの開き直り!賭け麻雀記事の執筆者に当事者記者の名前(プレジデントオンライン)

この記事によると、産経が賭け麻雀疑惑を報じた記事を、なんと当事者の記者が書いていたというのだ。にわかに信じがたいが、プレジデントは「物証」を入手しているようだ。これには私も驚愕した。

プレジデント編集部は産経新聞社の記事管理システム上で当該記事を確認した。たしかに執筆者名はA記者だった。産経関係者によると、システム上に記載されている執筆者が基本的に原稿を書いているそうで、誰かが加筆や修正をした場合は更新者が別に表示される。

筆者が10年前まで在籍した隣の新聞社のシステムでも個別の記事に執筆者名のログはあった。別の記者が加筆した場合にはその人にアップデートされるという仕組みではなかったが、このシステムを物証として押さえている重みを実感する。関係者の証言だけではなく、この物証があるからこそプレジデントは報道に踏み切れたのだろう。

ただ、司法記者クラブのように複数人が出入りする取材部署だと、取材した記者が下書きし、デスクやキャップなどの上長に送ってその手を経てから送っているという可能性はありうる。しかし、この記事ではA記者はキャップではない。キャップは一緒に麻雀をしていた記事中のB記者だ。仮に別の誰かがA記者のPCに下書きを送っていたとしても、結局は彼が目を通していることに変わりはなく、プレジデントの報道が事実なら道義的責任を免れるわけではない。

告発者や情報流出を招いている飯塚体制

産経サイドはニュースサイトでもコーポレートサイトでも本件への言及はない(27日深夜時点)。今後、反論や抗議をするのか注目されるが、筆者知己の読売OB、あるいは産経に近い保守系論客の経済評論家などは、このシステムが外部に漏洩したことのほうを問題視している。

もちろん、コンプライアンス上、極めて問題があるのは事実だが、そこだけに目を向けるようなことは一連の問題を矮小化するように思える。そもそも報じる側の立場になれば、この程度の物証入手くらいは驚くことではない。特にメディア企業は、報じられる側の当事者になると、実は情報秘匿が非常に脆弱だ。日頃からリークや告発に慣れていることが、こういうときに他業種の企業以上に大きく作用するからだ。

ちなみに、この日の産経朝刊では前日の取締役会で決まった役員人事を掲載しており、このタイミングを何か狙いすましたかのような報道であることも含むものがある。

役員人事の記事では、飯塚浩彦社長以下の名前が掲載されたが、プレジデントの記事にもあるように社内では幹部たちの「引責の雰囲気は全く感じない」といい、私のところにも、OBや現役社員たちから飯塚社長の求心力のなさ、無責任体制に憤る意見が届いている。

結局、本質的な問題は、こうした告発者が出てきてしまうほど、産経新聞のガバナンスやジャーナリズム感覚に疑義が生じて組織が根幹から揺らぎ始めていることなのではないか。検察とジャーナリズム(記者クラブメディア)の関係性が最大の論点であるべきだが、本稿では産経新聞のガバナンス観点からもう少し言及してみたい。

文春の「できすぎた」記事の謎

「黒川杯」の文春記事に話を戻すと、報道直後にメディア関係者の中で違和感が広がったのが、文春が情報源を明示している点だ。文春の記事では、「黒川杯」麻雀の開催日時などのタレコミが産経関係者であると明言しているが、本件では、社会部系の記者など当事者に近い情報源を危険にさらす可能性が大いにあり、文春がこうした書き方をしたこと自体が異例だった。

筆者の周りでも、ライバル週刊誌記者や大手ビジネス誌編集長、フリーの有名な政治ジャーナリストなどからも同様の違和感が寄せられ、昨日は元朝日新聞記者の井上久男氏も現代ビジネスで「一般的に、こうした記事では情報源の特定につながるような表現は避けるはずだが、この点も不自然だ」と指摘していた。

実は筆者もそれこそ産経社内から、犯人探しですぐに“被疑者”が特定されたという情報を仄聞した。これが真相なのかは分からないが、“被疑者”の人格についてあれこれ言う話も一緒について回っており、「事実は小説よりも奇なり」という説も聞かされたが、天邪鬼な私はにわかには信じがたい。情報源をさらす文春の記事といい、「できすぎている」からだ。

もちろん、秘事のはずの麻雀の開催日時を詳細に文春側に売っている以上、この「産経関係者」のリークがあってこそ、文春の記事が成立している。しかし、VIPが失脚するスキャンダルを分析するときには「VIPの失脚(今回は黒川氏)で誰がもっとも得をするのか」という基本的な視点に立ち返るものだ。

Wikipedia

検察の恐るべき暗闘の歴史を忘れてまいか?

冷静に考えれば、黒川氏の失脚でもっとも得をするのは、黒川氏の検事総長就任に反対する検察内部の勢力だろう。

2月には、全国の検察幹部を集めた会合で、静岡地検の検事正が森法相、黒川氏の前で定年延長を公然と批判。さらに5月には、検事総長経験者を含む大物検察OBも公然と政治的中立性を求める意見書を提出するなど、公の場だけでも異例中の異例ともいえる事態が続いており、水面下で激しい駆け引きがあったことは容易に推測される。

「官邸なにするものぞ」という検察内部の高揚した士気が、河井克行、案里夫妻の選挙違反事件の捜査の原動力にもなっているとされるが、そもそも検察の組織内外での暗闘ぶりが凄いことが伝統なのは言わずもがなだ。

古くは1999年、今回の黒川氏と同じく、現職の東京高検検事長が雑誌に「愛人ホステスを公費出張に同伴した」などと報じられて失脚する一大スキャンダルが勃発。2004年には、大阪高検の公安部長(当時)が検察の裏金問題を告発したものの、マスコミの取材を受ける予定の当日に逮捕される騒動もあった。

記憶に新しいところでは、2018年3月、森友学園問題を巡り、朝日新聞が「森友文書、書き換えの疑い」を特ダネに報じた際に、文書の原本を持っている大阪地検特捜部のリークや政治的思惑が取り沙汰されたこともあった。

「黒川杯」麻雀の文春へのリークに検察の影がちらついているとまでは言えないが、情報源が「産経関係者」であると断定的に論じてしまうのは、数々の権力闘争を繰り広げてきた検察からすれば、子どもじみた論議にしか見えないのではないか。

いたずらに陰謀論を振りかざすつもりはないが、ひょっとしたら文春側にも影を感じさせないほど黒川氏失脚の謀略が全くなかったと言い切れるだろうか。JFK暗殺を論じる際、オズワルド1人の犯行だと早々に断定してしまうと全体像もコトの本質も見えなくなるのと同じことだ。

悩ましいのは真相が永遠に不明になりそうな点でもJFK暗殺と闇の深さが似ていることだが…。

【おしらせ】今回のテーマも含めてアゴラジオで話しました。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長

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