小池都知事の学歴問題の最終解決策

長谷川 良

外国で大学に学び、博士号を修得する人が増えてきた。そして錦を飾って帰国し就職探しとなる。外国の大学で修得したアカデミックなタイトルは基本的には日本でも通用する。例えば、米国と日本両国は、相手国で修得したアカデミックな資格は国内でも同じように認められることで合意しているから、米国の大学卒業の資格は日本でも基本的には通用する。

カイロ時代の小池都知事(「小池ゆりこオフシャルWebsite」から)

ただし、最近の例を挙げて考えてみると、問題が全くないわけではない。小池百合子東京都知事は「カイロ大学を卒業した」旨を選挙公報に記入しているが、小池氏の学生時代を見てきた仲間や知人が、「小池さんはカイロ大学に入学したが、卒業したとは聞かない。カイロ大学卒は嘘だ」と指摘し、小池氏の学歴詐欺を追及する特集記事が文藝春秋などのメディアでも出てきた。

小池氏は都知事再選出馬表明の時、カイロ大学を卒業した証拠として、カイロ大学学長の声明文(6月8日)を提示し、学歴問題に終止符を打ったが、問題は収まっていない。カイロ大学学長、直々の声明文が果たして信頼できるか、という新たな問題が出てきたからだ。

エジプトは軍閥政権であり、日本や米国のような民主国家とは違う。軍閥政治の最高指導者が「小池氏はカイロ大学を卒業したことにしておけ」と言えば、それを受けカイロ大学が小池氏の学生時代の成績関連の書類を即製することなどは朝飯前だ(ムバーラク政権時代、エジプトはアラブ諸国の中で最も情報機関が活発だった)。

別の例を考えてみよう。当方が突然、「北朝鮮の平壌外国語大学を卒業した」といえば、誰が当方を信用するだろうか。メディア関係者は、「当方氏は平壌外国語大学を卒業していない」と批判し、関係者からコメントを集める。そこで当方は素早く中国の北朝鮮大使館を通じて、平壌外国語大学を卒業したことを証明する書類を発表してほしいと要請。

北側は当方の要望に応じ、カイロ大学学長のような書類を発表してくれる。そして「当方氏の卒業証明に関する書類の内容を疑う者はわが国の名誉を傷つけることになる」と脅迫する。日本のメディア関係者は北朝鮮から脅迫を受けたくはないから、当方の平壌外国語大学卒業の真偽に関する追跡報道をストップする。

小池氏が同じようにしてカイロ大学文学部社会学科卒業(1976年10月)という称号を勝ち得たかは不明だが、十分考えられるシナリオだ。それではどうしたらそのようなシナリオを防止できるかだ。

簡単にいえば、軍閥政権や独裁国でのアカデミックな資格は民主主義国では明確な証拠を提示しない限り、通用しないことにすればいいだけだ。例えば、カイロ大学を卒業した外国人が民主主義国でその認知を要求する場合、同大学での卒業論文を公表しなければならない。卒業証明書ではない。卒業論文だ。そしてその内容を解説する説明文などを追加すれば、民主主義国での学歴と同様のアカデミックな資格は受理される、とすればいいだけだ。

ただし、超法規的な名誉学位が存在する。そのような場合、名誉博士、名誉修士と呼ぶべきであり、通常の博士、修士とは区別しなければならないことは言うまでもない。

当方の場合、カイロ大学学長のように、金与正さん(金正恩労働党委員長の実妹)が、「当方氏は北朝鮮の平壌外国語大学を優秀な成績で卒業したことを認証する」と発表しても民主主義国では直ぐには信用されないだろうが、当方が卒業論文を提示し、その概要をメディア向けに説明すれば、メディア関係者も信じてくれるかもしれない。

少し、目を欧州に向けてみよう。欧州連合(EU)のヨハンネス・ハーン欧州委員(予算担当)は通常「ドクター・ハーン」と呼ばれてきたが、ブリュッセルに派遣される前、オーストリア・メディアから「ハーン氏は博士号を取得していない」と報じられ、メディアからさんざん叩かれた。

そこでハーン氏は自身の博士論文のコピーをメディアに流して証明したことがあった。その結果、ハーン氏の博士号問題は一応峠を越えた。幸い、ハーン委員は今も「ドクター・ハーン」と呼ばれている。

もちろん、ハーン委員の成功談だけではない。博士号称号問題でハーン委員のように証明できず、政治生命を失った政治家もいる。例えば、ドイツのカール・テオドル・グッテンベルク国防相(当時)は2011年3月、博士論文の盗用問題で閣僚ポストを引責辞任している。「キリスト教社会同盟」(CSU)の若手のホープと期待され、将来の連邦首相候補と見られていた政治家だ。同氏は政界から足を洗い、家族と共に米国に移住した。

ドイツではまた、政治家の博士論文の剽窃問題が起きている。アネッテ・シャヴァーン文相(当時)が学生時代に提出した博士論文「人間と良心」が「引用先を記載していない」として盗作と判断され、論文提出先のデュッセルドルフ大学が博士号の剥奪を決定したことがある(「揺れる『博士号』の重み」2013年2月7日参考)。

小池知事の例に戻る。小池氏はハーン委員のようにオープンに対応すればいいのだ。カイロ大学学長のインスタント卒業証明書より、自身がまとめた卒論を提示し、その内容を流ちょうなアラブ語で説明すれば、煩いメディアは口を閉じるだろう。小池氏はいわれなき疑い(外国のスパイ容疑)を受けることなく済む。さもなければ、最悪の場合、小池氏は日本初の女性総理大臣になる前に、刑務所生活が待っている。自身のカイロ大卒業資格をエジプトの軍閥政権の手に委ねることは最悪の選択だ。

小池氏のカイロ大卒問題は本来、短時間で解決できるテーマだったはずだ。「今日」できることを「明日」まで伸ばすことは、解決を一層難しくすることになる。残念ながら、小池氏は恣意的かどうかは別として、明確な解決を伸ばし続けてきた、といわざるを得ない。

5日、東京都知事選の投開票が実施され、小池氏が再選を確実にした。小池氏には再任期開始直後、自身のカイロ大卒業問題を決着されることを期待している。東京都は日本の首都として多くの課題を抱えている。東京夏季五輪開催から新型コロナ対策など、都知事は超多忙だろう。自身の過去の大学卒業問題云々で貴重な時間と神経を費やしている場合ではない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年7月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。