愚劣さが暴走する米国選挙、そして世界

2020年10月01日 19:00

ネット社会はウソが力を持つ

米大統領選の第一回テレビ討論会が行われ、「史上最悪のテレビ討論」「史上最悪の大統領」「政策論議なしの泥仕合」「米国の愚劣さの恥さらし」と、酷評されています。

9月30日 トランプ大統領(Donald J. Trump @realDonaldTrump) Twitterから

これが民主主義の最大の国、しかもその国の最大の政治イベントの姿なのでしょうか。国を左右する大統領選だからこうなるのでしょうか。草の根の選挙では、民主政治が健在なのでしょうか。

トランプ氏は「好戦的、得意の泥試合に引き込む作戦」、バイデン氏は「挑発に乗らず、失言回避に終始」だったという。何が国家、国民のための正義かは二の次で、有権者を動かすウソが力を持つ時代になりました。

有権者の反応は、世論調査(NBCニュースなど)によると、「討論会の内容を重視する」29%、「あまり重視しない」27%、「全く重視しない」44%と冷静です。冷静というより、民主党か共和党か、誰を支持するかは決めているので、「重視しない」が70%と、高くなるのでしょう。

問題の無党派層(40%程度)は、様子をみて決める「内容重視」派でしょうから、「重視しない」が多数でも安心できない。分断された米国社会の行方を無党派層が握っているとすれば、ウソの力は怖い。何度もウソをついていると、事実だと信じられてしまう時代です。

トランプ氏は大富豪なのに所得税をほとんど払っていないとの新聞報道があり、立証できればこれだけでアウトになる。節税ではなく脱税の疑いがあるとの指摘もある。否定したいなら納税申告書を公開すればいい。

バイデン氏は討論会前に納税申告書を公表しました。これで「勝負あった」になるはずが泥試合になる。ネット化が進んだ情報化社会では、「何度も虚をふりまいていれば、それが真実になりかねない」のです。

バイデン氏が公開した納税証明書:編集部

大統領選は、米国の「愚劣さの暴走」を象徴している。「愚劣さの暴走」という問題なら、何も米国だけに限りません。米中対立、米ロ対立、日韓対立なども「愚劣さの暴走」が背景にあります。

中露は米国とは逆に、情報統制社会です。自由な言論活動を封殺して情報統制し、「ウソ」「虚」を繰り返し、「非」を既成事実化する。愚劣です。韓国も頑として「非」を認めない。国際紛争の多くは、少なくとも片方が「虚」を吹聴している「愚劣さの暴走」です。

そのような中で、日本は賢明な国なのか。今朝の新聞では「菅首相が衆院の年内解散を見送りか。コロナ対策、経済再生に全力」(読売)という記事が一面のトップでした。世論調査でも「任期満了まで解散不要」60%ですから、菅政権は冷静に判断しているのかとも思いました。

それがどうでしょう。二面には「概算要求105兆円超」「金額未定とする事項要求も多い」とあります。年末に決まる来年度当初予算案は、3年連続で100兆円を超えること確実です。

写真AC:編集部

主要国で最悪の財政状態の国が、財政膨張にブレーキをかけようとしない。むしろ財政膨張を選挙対策に使おうとしている。そう考えると、日本でも、財政面での「愚劣さの暴走」は続きます。

では、世界は「愚劣さの暴走」の結果、破滅に向かうのかというと、そうでもない。歓迎すべき事実はいくつもあります。

たとえば「極度の貧困(1日1・9㌦未満で生活する人)」はこの25年間で、12億5千万人減ったそうです。悲惨なテロの報道が絶えない一方で、全面戦争が減り、人類史を通じて暴力も確実に減少しているそうです。いずれも進化心理学の第一人者、ピンカー教授(ハーバード大)の主張です。

さらに、「近代医療によって、過去2世紀の間に、小児死亡率は33%から5%に低下した。1850年以降、人類が近代医療の恩恵を被るようになった」(歴史学者ノア・ハラリ/サピエンス全史)といいます。

長期的な流れを見れば、「愚劣さの暴走」ばかりではないでしょう。愚劣な大統領選のように派手に報道されないから、識者が指摘するまで気がつかないのです。

「ウソが力を持つ時代」では、何を報道するかしないか、メディアの質も試されているということでしょうか。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年10月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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