ドンキホーテ前社長によるインサイダー取引疑惑-義理人情の世界への司法関与

2020年12月12日 17:00

すでに報じられているとおり、ドンキホーテホールディングス(現パンパシフィック・インターナショナルホールディングス社)の前社長さんが、金融商品取引法167条の2、第1項(会社関係者による公表前の重要事実に関する情報伝達・取引推奨行為の禁止)違反の容疑で逮捕されました。

(ドンキホーテHPから:編集部)

(ドンキホーテHPから:編集部)

ご承知のとおり、金商法の平成25年改正(公募増資インサイダー取引事案等を踏まえた対応)に基づく法律に違反したものとして立件されたものです。当ブログでも過去に詳述しておりましたが、平成22年から23年頃に公募増資上の問題案件が頻発しまして(たとえば国際石油開発帝石事件、日本板硝子事件、みずほフィナンシャルグループ事件、東京電力事件、エルピーダメモリ事件等)株式売買の当事者による取引行為だけでなく、(取引の端緒となる)情報漏えい行為自体についても規制を強化する必要性が高まり、25年の法改正に至りました。

上記金商法167条の2(1項)では、重要事実を知りうる会社関係者による「特定の者」に利益を得させる等の目的を持った行為は、①重要事実の公表前の有利な取引を引き起こす点で「証券市場に対する一般投資家の信頼を損なう恐れのある行為」であると評価できること、②そうした一般投資家の信頼を損ねかねない状況を当該会社関係者自らが作り出していること等から、「自らインサイダー取引を行うことに準ずる行為」として金商法上の違法行為と評価されています。

なお、取引を推奨した相手方が実際にインサイダー取引を行わずとも、取引推奨者には違法行為が認められますが、刑事罰の条件(処罰条件)として実際に取引伝達を受けた者が推奨行為「によって」取引を行ったことが必要です。したがって金商法167条の2に基づく違法な行為を行ったとしても、刑事罰が科されないケースも生じます。

そして立件上の法的な問題は(すでにニュースでも報じられているとおり)、目的要件の該当性です。たとえば取引推奨規制の場合「他人に対し、重要事実の公表前に売買等をさせることにより当該他人に利益を得させ、または当該他人の損失の発生を回避させる目的があること」が犯罪成立の要件とされています。これまで新聞等で報じられているところからしますと、ドンキホーテ前社長さんはラインで何度も同社株式の購入を勧めており、とりわけ(ユニー・ファミマがTOBを公表する)10月11日までに株式を購入するように勧めていたそうです(12月5日朝日新聞朝刊記事より)。ちなみに、平成25年9月12日付金融庁「情報伝達・取引推奨規制に関するQ&A」問6等を読むと、こういったケースは目的要件を満たすものとされております。

しかし、未だ報道からはよくわからないのが「ドンキホーテ前社長と取引推奨を受けた相手方」との関係です。たとえば167条の2に定められた「情報伝達行為」についても、重要事実を知っている会社関係者が自分の家族に伝えたとしても犯罪行為にはならないわけでして(平成24・25年インサイダー取引規制関係改正資料-別冊商事法務 No. 384 148頁参照)、しかるべき「特定の相手方」への情報伝達行為でなければ実行行為性が認められません。

これは「取引推奨行為」についても同様です。上記のとおり法改正の原因となった公募増資インサイダーの事例は、どれも証券会社の営業マンと顧客の関係が前提です。たとえ重要情報の漏えいがなくても「ともかく買っといて損はないですよ」と営業マンから勧められれば、顧客も「これはいい話がある」と推測できます。このような関係が、ドンキホーテ前社長と相手方との間でも認められるのかどうか、そこは新聞を読んでもわかりません。

たとえドンキホーテ前社長から「10月11日までに購入するように」と言われたとしても「ともかくうちの会社の株を買っておけ」と言われた相手方は「ひょっとして相場操縦の片棒を担ぐことが期待されているのではないか」「株価をどうしても上げる目的のために利用されているのではないか」と(相手方が)疑うような関係であれば犯罪は成立しないのではないでしょうか。重要情報の伝達がなくても「ドンキの社長さんが『買っておけ』と勧めるということは、まちがいなく得する」と相手方が理解できるような両者の関係がなければ金商法167条の2違反行為の実行行為とは評価できないのではないかと。

ところでドンキホーテ前社長の方は「私には相手を儲けさせる動機がない」と抗弁されていますが、これも「目的要件」を満たさないことの理由として述べられているものと推測されます。ただ、私は「動機なく相手に儲けさせるからこそ、この方は社長にまで上り詰めるほどの実績を残したのではないか」と思います。明確な「見返り」などなくても、まずは相手に贈与する(利益を付与する)。その贈与は何が何でも拒否させない。そのことによって「義理人情の世界」では立派な「貸し」を作ったことになります。関西電力の有力幹部と元助役との「金品受領問題」も、よく似た関係が成り立っていたのではないでしょうか。

目的要件を立証するために、客観的な証拠から「動機」を解明する必要がありますが、そもそも義理人情の世界で「貸し」を作るための贈与であれば、客観的な証拠などは存在しないように思います。むしろ先に述べたように、時間軸の中で、この前社長さんと取引を推奨された相手方との人間関係を解明していくことが最も重要な立件のポイントだと考えます。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年12月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。

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