医療関係者、メディアこぞって、「Go To・・・」の一時停止を求めているにもかかわらず、国のトップはGo Toにこだわる説明もなく、都道府県に責任を丸投げしている。都知事も「国の責任だ」と言い続けている。どうしたのだ、この国は。経済を回すことと感染予防が問題なく両立すると考えているなら、その理由と覚悟を自ら国民に説明できないものなのか?自衛隊に応援を求めなければ成り立たなくなっている医療供給体制を一顧だもしない考えは理解不能だ。
常識的に考えて、年末年始には、医療供給体制は需要を満たせなくなる。多くの人がそれを憂慮しており、現に、大阪市長は「年末年始も通常診療をしてほしい」と呼び掛けていた。しかし、現実問題として、若手の医師たちは、自分が勤務している病院でお正月に勤務するよりも、アルバイト先で勤務する方が、かなり実入りがいい。通常であれば、世間並みに休むのか、あるいは、生活のために他医療機関でアルバイトをするのかといった選択になる。それにしても、リスクにさらされて医療に従事して、看護をしても、ボーナスが減るというのはどうなのか。そして、このままでは離職者が増え、ますます、医療現場は逼迫する。
この国難ともいうべき緊急事態で、医療の供給体制を維持するために、日本医師会、都道府県医師会は懸命の調整を続けている。それには、最大限の敬意を払いたい。しかし、「Go To・・・・・・」を続ける一方で、医療機関には休みなく働いてほしいという、政治・行政とはいかなるものなのか?「政治家の覚悟」には、国民の命を守るための覚悟は含まれないのか、と思ってしまうのは私だけなのか?
コロナ感染者の対策に目を奪われている間に、がんの発見は遅れ、慢性疾患は悪化し、足腰が弱って要介護となる高齢者は急増する。医療機関の経営も青色吐息であり、医療機関の倒産も現実味を帯びてきている。どこかで破綻すれば、隣接する医療機関に過度の負担がかかり、そこも破綻しかねない。国のトップ周辺には、これらの医療の課題を「俯瞰的に総合的に」進言する人はいないのか!
経済が止まると、被雇用者が増え、自殺者が増え(すでにその傾向が顕著だ)、命を守れなくなるのも事実だ。しかし、人を動かさずに、直接、観光業者に十分な支援金を支給する方法もあるはずだ。観光や飲食店に行くことだけが、観光・飲食店を支援する方法ではないはずだ。短長期的に見て、医療機関・医療従事者の努力と過度の負担だけに頼る方法は間違っている。
国の専門家の分科会の提言が通らない国の姿は、独裁国家と同じだ。かつて、暴君を諫めるために、家老が腹を切って覚悟を示したことがあった。腹を切る覚悟のない専門家と耳を貸さない国のトップ、年末年始の医療の混乱が正夢でないことを願っている。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年12月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。