米国の保険会社は、7〜9月期決算でハリケーン“ハービー”をはじめ“イルマ”、“マリア”の自然災害損失により大幅減益を計上しました。調査会社ファクトセットによれば、11月17日時点でこそS&P500構成企業の1株利益伸び率は6.2%増だったものの、10月27日時点では保険会社が押し下げ4.7%増と1年ぶりの低い伸びにとどまっていたものです。
さらに10月8日にはカリフォルニア州で大規模な山火事が発生したため、一部の保険会社は2期連続の業績不振を余儀なくされかねません。保険会社の業績より心配なのは、その被害状況と今後の影響です。
カリフォルニア州はナパ群やソノマ郡などを抱え、世界第4位のワインの産地として有名ですよね。ワイン関連の就労者数は32.5万人で、経済規模は観光関連の72億ドルを含め570億ドルとされています。ワイナリーを訪れる観光客は年間でおよそ240万人と、大阪市の人口をやや下回る規模に相当するんですね。
今回の山火事ではワインの産地を含む5つの郡を直撃しただけでなく、2,800件の住宅と22万エーカーの土地を焼き尽くしました。死者は40人を超え、間違いなくカリフォルニア州史上で最悪の山火事となっています。
ナパ群やソノマ群などカリフォルニア経済を支えるワイン市場にとって不幸中の幸いだったのが、気候でした。今年は猛暑に見舞われたため、カリフォルニア州のワイン向けブドウ生産の7割を占めるセントラル・バレーや10%ずつを担うナパ郡やソノマ郡でも例年より早く収穫できたといいます。未収穫のぶどうは全体の25%にとどまり、通常より格段に少なかったんですね。しかも未収穫の品種は、煙害に強いとされていカベルネ・ソーヴィニヨンに多かった。山火事被害にあったナパ郡とソノマ郡のワイナリーも、1,900件中で15件程度です。
ただし煙害によるブドウの味への影響をはじめ山火事による熱、焦土による被害は、少なくとも来年の春まで予想できないといいます。ブドウの木に被害が及んだ場合は少なくとも5年間にわたってワインの生産を見送る必要が生じるため、生産量の減少に伴う値上げが予想されます。
今年は、欧州もワイン不足に拍車を掛けつつあります。欧州委員会によれば春頃の霜や夏場の干ばつなどの悪天候により、ワイン市場の約半分のシェアを有するフランス、イタリア、スペインでの生産量は今年、1982年以来で最低にとどまる見通しです。
(出所:欧州委員会)
一部では、ワイン1本当たり最大で10%の値上がりを確認しているとの報道もあります。米国でのワイン消費量は2016年に1世帯当たり2.94ガロン(約11リットル)と2年連続で過去最高を更新しているだけに、ワイン市場に異変が生じてもおかしくないでしょう。
(カバー写真:The National Guard/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年11月19日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。