ドイツの野党第1党「社会民主党」(SPD)は今、大きな山場を迎えている。SPDは今月7日、与党の「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)との大連立交渉で合意した。それを受けて今月20日から3月2日まで、合意内容(全177頁)について46万3723人の全党員に是非を問う郵送投票を実施中だ。メルケル首相が率いるCDU/CSUとの大連立政権が発足するかの最終決定は3月上旬の予定だ。
SPD党員投票の結果、ゴー・サインが出た場合、CDU/CSUとの大連立政権は正式に発足する。もし、党員が反対した場合、大連立政権発足はその瞬間、消滅する。文字通り、党員が党だけではなく、ドイツ政界の行方を左右することになる。
大連立交渉で合意した直後、党首を辞任し、外相に就任する予定だったシュルツ前党首は9日、大連立合意の是非を問う党員選挙に悪い影響を及ぼすことを避けるため、自主的に外相ポストに就任しない意向を表明した。シュルツ前党首はもともと「新政権下で如何なる閣僚ポストにも就任しない」と宣言していた。それだけに、外相就任は約束を反故にしたとして、党内の一部から激しい批判の声が聞かれていた。
また、シュルツ前党首の後継にアンドレア・ナーレス連邦議会(下院) 党会派代表(47)が今月14日、党首代行に選出されたが(正式の任命は4月22日に開催される党大会で実施)、党内の一部から「党本部の一方的な人事」として批判的な声が飛び出した。党内の結束が緩み、混乱の様相を深めてきただけに、SPDの党員投票の行方が懸念されている。
特に、社民党青年部(JUSO)ではCDU/CSUとの大連立政権に強い反対の声がある。前回の連邦議会選で得票率が急落したことを深刻に受け、「党の抜本的刷新の方が急務」というわけだ。メルケル首相の第4次政権発足を助けるのではなく、野党として党の刷新を優先すべきだという声は党内で次第に支持を広げている(SPDは昨年9月の総選挙で得票率20.5%と党歴代最悪の結果)。
ところで、SPD党員が大連立を拒否した場合のドイツ政権の行方をここで少し考えておきたい。
メルケル首相は連立パートナー失うから、①少数政権を発足する、②選挙をやり直す、の2通りしかない。
①の場合、安定政権は望めなく、遅かれ早かれ選挙を実施せざるを得なくなる。その場合だ。CDU内でメルケル首相の退陣を求める声が高まる可能性がある。CDUは前回の選挙ではSPDと同様、得票率を大きく失った。「自由民主党」(FDP)と「同盟90/緑の党」とのジャマイカ連立交渉に失敗し、SPDとの大連立も破綻した場合、メルケル首相に対して党内で退陣を求める声が飛び出すのは必至だ。CDU内で新しい党首探しが舞台裏で既に始まっている。(CDU/CSUは昨年9月の総選挙で第1党の地位こそ維持したが、前回2013年の得票率を8.6%減少)。
一方、SPDは選挙直後の宣言通り、野党に下野する。複数の世論調査によれば、SPDは次期選挙で得票率20%を割ってしまうと予測されている。新党首の下で党を上昇気流に乗せることが急務となる。CDU/CSUとSPDの2大政党が停滞していると、右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が更に躍進する可能性が出てくる。
いずれにしても、ドイツの行方は約46万人のSPD党員の判断にかかっている。彼らがどのような結論を下すか、まもなく明らかになる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年2月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。