もはや恒例となった「日本人の有給取得率がぶっちぎりで低いですよ」ニュースが今年も報じられた。こういうニュースに際して、よく「有休の取得をみなで推進しよう」という人がいる。まったくその通りだと思う。日本人はもっと遊んで会社以外の軸足を作った方がいいというのが筆者の持論だ。
ただ、それをお上が命じて企業に強制したり、まして景気対策の一環として云々するのはやや違和感がある。というのも、そのためのコストはタダではないからだ。
金払って休ませる分、別の誰かに働いてもらわないといけないわけで、その分のコストを誰かが負担しないといけない。価格転嫁は現在の日本では難しい。もちろん、会社はお金を振り分けるだけの装置でしかないから、会社が負担しろというのもナンセンスだ。
そこで結局は従業員自身の人件費に跳ね返ってくるだろう。年20日ほどタダ働きならぬ有給休暇取らせる分だけ、ボーナスや昇給が抑えられるというわけだ。
というわけで、筆者は「なんとかして有休取得率を引き上げさせろ」という論調には正直言ってあんまり同意はできない。ちなみに筆者がこういう冷めた見方をするのは別に性格がひねくれているからというわけではなく、たとえば女性の雇用機会を保証するような法改正があるたびに女性の採用がガンガン削られ、60歳、65歳と
高齢者の雇用義務が強化されるたびに若手の昇給が抑制されるのを仕事柄いろいろ目にしてきたからだ。
「労働者のために〇〇させるべし!」という看板は聞こえはいいが、たいていそのコストを負担するのは当の労働者と思っていた方がいい。(賃金見直しは難しいからその中でも若手がメインだろう)
では「コストをかけずに有給休暇をエンジョイする方法は無いのか?」というと、一つだけありえる。
当たり前の話だが、各人が一生懸命頑張って工夫して生産性をあげることだ。具体的に言うと、無駄な作業を極力減らす、タバコやジュースを飲みに行く回数を抑える、会議は事前に要点とお尻を決めておく、等。地味で自己啓発本的な内容だが、これを部署内の半分くらいの人間が実行して積極的に有給休暇を申請し、会社もそれを奨励することが、おそらくもっとも確実かつ財布に優しい有給消化促進作戦だろう。
ただ、休みは増えるかもしれないが、この作戦が上手く行ったら行ったで発生すると思われる問題が一つある。というのも、各自で努力して生産性を上げるには、あらかじめ各自の業務範囲を明確化し、自身でスケジュール可能な裁量を持たせないといけない。
「担当範囲がわからず、早く終わればその分、仕事が降ってくる」なんて状況下で無駄を削ったり効率化を考えようなんて思うわけがないから当然だ。
「どうせ早くやったって部署全体で終わるの21時くらいでしょ?だったら昼間はタラタラ流しとけばいいじゃん」という人の方が現状では多いだろう。(というか筆者も昔はそうだった時期がある)
というわけで業務を明確にし、その範囲で裁量と責任を負わせると何が起こるか。現状の職能給ベースの賃金制度とぜんぜんリンクしてないことが白日のもとにさらされることになるのだ。しかも下手をすると残業代が減って給料ダウンという恐るべき事態も起こりえる。
実は、上記のような「自分で範囲を区切ってちゃっちゃっと終わらせられる達人」というのは、どこの会社にも一人くらいは既にいると思う。筆者もそういう素晴らしい人は何人も見てきた。
だが、そういう人はすべて、その後にちゃっちゃっと転職してしまっている。恐らくは作業自体を効率化する能力があるにも関わらず、それが(年功賃金下では)大して賃金に反映されない、かといってダラダラ型に回帰するのもバカバカしいわけで、より効率的な職場を志向するのだろう。
と、ここまで書きながら、この新たな問題をどうすべきかいろいろ考えていたが、優秀者が生産性挙げて転職するのも、それはそれで一つの解決策かもしれないという気がしてきた。というわけで、がっついたビジネスパーソンはちゃっちゃっと仕事をして、転職でも遊びでもすぱっと踏み出していただきたいと思う。「自分ももっと休みたい!」という人が周囲でも増えれば、労働市場も流動化するに違いない。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2012年12月5日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。