AI・IoT時代に向かう著作権ビジネス

中村 伊知哉
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AI・IoT時代の著作権のあり方はどうなる?(編集部)

音楽業界の会報誌に一文を寄せました。業界のかた向けですが、ご参考まで。

AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)で世間は騒がしい。
近未来に機械が人の仕事の半分を奪うという研究もあります。囲碁は人よりAIのほうが強くなりました。プロ顔負けの作曲をするAIも現れました。私が座長を務める政府・知財本部の委員会でも、AIが作る音楽などの作品に権利を与えるかどうか、熱く論議されています。

私が文化審議会の録音録画補償金を巡る議論に参加していたのはもう12年前になります。それから制度は動いていません。
だが、事態は一変しました。

当時、PC・ハードディスクとCD・DVDを念頭に置いていた世界のコンテンツ消費は、スマホ+クラウド+ソーシャルからなる「スマート」へと軸を移しました。ビジネスの体重はサブスクリプションやライブへとかかります。日本の業界にも波は来ます。
そしてAIやIoTなど、メディアは早くもスマートの次のステージに移るというのです。

だからといって必ずしも危機というわけではありません。

例えば、音楽。
若い世代は、スマート化で大量の音楽に接し、楽しむ機会を増やしています。私の世代よりカジュアルで自然に音楽をまとっているように見えます。タダで消費されたりするから商売にとって具合は悪いけど、「音楽」にとってはチャンスなのではないでしょうか。

西海岸のあるミュージシャンが話していました。欧米なら3コードで済ます曲をJ-POPは何十個もコードを使う。そんな豊かな音楽に憧れる、と。そう、日本の音楽は土壌が豊かで、競争力はあります。技術を使ってこれを世界に展開していきたい。

そこで著作権をどう考えるか。

制度を巡る議論は今も盛んです。TPPの妥結で保護期間延長などの措置がとられます。政官ではフェアユースに関する議論も進められています。しかし、どういう結論に至ろうと、さしたることはありますまい。先人の知恵と努力で練り上げられた著作権の制度に多少手が入ったところで、もはや抜本的に環境が変わるという事態は考えにくい。

それよりも、グーグルやアップルやアマゾンがどういう戦略を取るのか。映像配信サービスはテレビの牙城にどう攻めこむのか。スマート化やAIは若い世代の視聴行動にどう影響するのか。これらは一国の制度などおかまいなしに、著作権ビジネスを根底から塗り替えます。

私はもともと制度屋ですが、今は制度の議論にばかり時間を費やしてはいられません。それよりも、今ある枠組みでいいから、それを使って、スマート時代、AI時代の著作権の世界をどう広げるかにエネルギーを注ぎたい。

このところ政府もコンテンツ支援に熱心で、海外展開向けの大型ファンドを作ったり、aRmaの設置を進めたり、海賊版対策に力を入れたりと、アクションに重きを置いています。昨年のクールジャパン戦略推進会議では、コンテンツ分野は音楽に焦点を当てた施策が論じられました。いい方向だと思います。

東京オリンピックを迎える2020年に向けて、東京・竹芝の国家戦略特区にデジタルやコンテンツの産業集積地を作る構想「CiP」が進められています。関係業界が中心となり、政府とも連携して、そこに音楽のデータベースやアーカイブを作るプランも動いています。民間としてもこのような機運を活かして、ビジネス実験、異業種連携、インフラ整備などをできるだけ進めておきたい。

スマートからAI/IoTへと舞台は動きます。対応次第でチャンスにもなれば、ピンチにもなります。制度を考えている間に、ビジネスは終わってしまいます。先を見通して手を打っておくべき時期でしょう。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年12月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。