eスポーツ、取り残された日本の挑戦

デジタルメディア協会AMDシンポ「世界を席巻するe-Sports:取り残された日本の挑戦」。
襟川恵子AMD理事長、総務省吉田眞人総括審議官、夏野剛さん。ファミ通浜村弘一さん、JeSPA筧誠一郎さん、ソニー松本義紀さん、Sun-Gence梅崎伸幸さん、twitch中村鮎葉と登壇しました。

ぼくのプレゼン。
「eスポーツ大国への道」と題しました。
概要、メモしておきます。

世界市場は800億円で年32%成長。
観客数は4億人で年15%成長。
17年4月には、2022年のアジア競技大会の正式種目に採択されました。
2024年のパリ・オリンピックの正式種目に採用されることも期待されています。
産業として、そしてスポーツとして、海外では既に認知されています。

しかし日本は後進国。
市場規模は世界の1/15。プレーヤー数は世界の1/20。賞金獲得額は29位。
ゲーム大国と自称するにしては、低い。
Dota2世界大会は賞金総額27億円。日本では大きくて500万円規模という状況です。

英仏独ではプロのサッカーチームが参戦し、米NBAもプロリーグを運営しています。
日本でも昨年、日本eスポーツリーグが立ち上がり、東京ヴェルディなど6チームが参戦するようになりましたが、まだこれからです。

米ユタ大学はeスポーツ奨学金制度を導入、リーグ・オブ・レジェンド参加チームに学費を全額免除しています。
他にもそのような動きが多数みられます。
社会全体の認知度や厚みが違います。

韓国では国やソウル市が支援する施設でCJメディア社が専用スタジアムを運営しています。
毎日、ケーブルやネットで中継しています。
プロ8チームが結成され、KT、サムソンなど通信、IT、メーカーがスポンサーになっています。
日本の通信業界もここにおカネを出してほしいものです。

この市場はネット産業である点がポイント。
eスポーツ最大の配信会社twitch は1日の視聴者が1000万人。
ESPNなどがテレビchを作っているものの、ネットで広がった文化です。
ネット・モバイル環境の整った日本にもポテンシャルがあると考えます。
課題は3つ。

1)規制。
景表法で、ゲームソフト販促とみなされると賞金が上限10万円に絞られます。
プレイヤーからおカネを集めて賞金を出すと刑法の賭博罪にも引っかかります。
海外から一級プレイヤーを呼べませんし、日本のプレイヤーも海外流出しています。

消費者庁はじめ政府と相談して、道を拡げるべく関係者が汗をかいている最中です。
大きな賞金を出せる大会を設計・実施してグレーな規制領域をホワイトにしていく努力を続けつつ、法改正を求めることになるでしょう。

2)プロ化。
いま存在する日本eスポーツ協会 JeSPAなど3団体を一本化して、JOCに加盟、オリンピックなどに選手を送り込めるようにする。
これも関係者が力を合わせて対応したいテーマです。

(なお、本件については、シンポ開催からほどない9月19日、ゲーム関連5団体が「eスポーツ団体の統合・新設」に向けた取り組みを開始することを発表しました。eスポーツ3団体と、CESA・JOGAによる新団体設立に向けた統一行動です。課題解決に向け、大きく前進しました。)

3)認知。
最重要課題は、社会的な認知を上げること。
eスポーツがカッコいい、もうかる、大事だ、という認識を拡げる。
藤井蒼汰くんのようなスターを生むことが大事です。

これら3点は自分のテーマでもあるのですが、加えて、ゲーム業界、IT業界のかたがたにそれぞれお願いがある。

ゲーム業界には、eスポーツ向けゲームの開発をお願いしたい。
バーチャファイター、スマブラ、モンスト のようにeスポーツに使われているものもありますが、ゲーム大国として、この開発で世界をリードしてほしい。

IT業界に、場の整備をお願いしたい。
スマートスタジアムの整備など、新しいスポーツ鑑賞機会を拡げてほしい。
2020に向けて全国100ヶ所に4K8Kのパブリックビューイング会場を整備する政府の計画もあるので、そこにも乗っていきたい。
自治体にも誘致を働きかけたい。

場作りでは、規制緩和を特区で導入して突破する手もあります。
2020年、竹芝にデジタル特区を作る構想を進めており、規制緩和の実験場にする予定です。
そこもホールなど作るので、eスポーツ拠点にできないかと考えています。
eスポーツ大国に向け、こうしたさまざまな機運を盛り上げましょう。

パネルでは、なぜ日本は遅れたのか、規制をどう突破するのか等の議論がなされました。
ぼくの回答です。
日本はTVゲームの成功体験が強くネットに乗り遅れたこと、音楽業界はじめコンテンツがライブビジネスにシフトしていること、そこでeスポーツに注目したところ規制が立ちはだかった状況です。
景表法の規制はグレーで、それがグレーのまま残っている日本的な状態。
そこに挑戦して白黒ハッキリさせるアメリカ的プレイヤーが登場することも期待しますが、正攻法で徐々にクリアしていってホワイト領域を拡げる手法をとります。
業界と政府との連携・調整が重要です。

ソニー、任天堂、マイクロソフト、そしてPCやスマホ。オリンピックでどの機材を使うのか。
どういうゲームタイトルが採択されるのか。
といった議論もありました。
大きなビジネスチャンスを展望させる一方、大きな調整テーマにもなります。

他にもいくつも刺激的な議論がありました。

筧さん:大学野球が盛んになったころ、新渡戸稲造や乃木希典が「野球なんかにうつつを抜かすヤツはろくなやつじゃない」という新聞キャンペーンを張ったが、人気は盛り上がり、逆に新聞が後援・主催するようになった。Eスポーツはそのメディアが乗り出す前の状況。

夏野さん:下手なプログラミング教育するぐらいならマイクラやらせたほうがいい。教育の中にeスポーツを組み込むのがいい。

筧さん:ノルウェー、スウェーデンの公立高校ではもう正規の授業に入れている。中国はeスポーツ科を大学に作っている。

ところで、同じく登壇したtwichの中村鮎葉はぼくの息子でして、偶然のブッキングなのですが、初の親子共演となりましたすみませんw

聖徳太子「和を以て貴しとなす」のとおり戦いを避ける日本にeスポーツが根付くのかという会場からの質問。
日本型のeスポーツを産もうという当たり障りのないぼくの回答に対し、鮎葉氏は「和を以て貴しとなすは論語のパクリであり輸入概念にすぎぬ」と回答、笑ってしまいました。

シンポの模様は4Gamer.netに報じられていました。
「世界的なe-Sportsの台頭に乗り遅れた日本が今やるべきこととは。」

世界的なe-Sportsの台頭に乗り遅れた日本が今やるべきこととは。デジタルメディア協会主催「AMDシンポジウム2017」聴講レポート
 デジタルメディア協会は2017年9月7日,「AMDシンポジウム2017 世界を席巻するe-Sports 〜取り残された日本の挑戦〜」を開催した。世界的な盛り上がりに出遅れた感がある日本のe-Sportsについて,識者が意見を交わした模様をレポートしよう。

GAME Watchにも。
「「AMDシンポジウム2017」レポート。e-Sportsから取り残された日本に未来はあるのか?」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/1079759.html

こちらはファミ通.com。
「eスポーツにおいて、世界から取り残されてしまった日本がすべきことは? AMDシンポジウム2017リポート」
https://www.famitsu.com/news/201709/08141367.html

規制緩和、団体統一、場の整備などに取り組んでまいります。
eスポーツ大国への道、目指しましょう。

あ、超人スポーツもよろしく。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年10月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。