ギリシャと日本の「違い」って、何?!   ―前田拓生

2010年05月24日 22:29

以前アゴラに「ギリシャ危機は対岸の火事か?!」及び「財政危機でも『円安になればOK』は正しい?!」を投稿しましたが、「そもそもギリシャと日本の政府債務の問題は“基本的なメカニズム”が異なる」と考えている方がいるようです。今回はこの点に関して考えてみたいと思います。


細かな点は他にもあるかもしれませんが、一般的な論点としては、以下の3つに集約できるでしょう。

1.ギリシャの政府債務は対外債務が多い(→日本は国内でファイナンスしている)
2.ギリシャではすでに税金が高いから増税等が難しい(→日本の消費税は5%であり、所得税も含めて、増税余地がある)
3.ギリシャ政府には通貨発行権がない(→日本には国内に通貨発行権を持つ日銀がある)

まず「1.」のように対外債務が多い場合、それを返済するには「外貨」が必要になるので、政府の「外貨準備」が「どれほどあるのか」がポイントになります。しかしここで、外貨準備が必要額を下回っている場合には、返済が滞る可能性が懸念されるため、サドンデスも含めた危機的な状態に陥ることがあります。これがギリシャ問題といえます。

他方、日本は現在、日本国内でファイナンスが出来ているので、その意味で「ギリシャとは違う」ことになります。

とはいえ、現在、日本国内でファイナンスが問題なく行われているのは、家計の貯蓄残高の内、55%が預貯金で、30%弱が年金保険になっていることから、金融機関を通じて、日本の国債を購入されているからです。ところが、このような流れが、今後も続くかどうかはわかりません。もし、家計が海外に資金を流すようになれば、または、金融機関が国債の運用を減らせば、“今”の安定した国債消化は難しくなるかもしれません。

「これは非現実だ!」と一蹴できるのでしょうか?

日本の人口動態によれば、少子高齢化は今後さらに深刻化するわけですから、移民等を受け入れない限り、家計貯蓄残高は今後も減少し続ける可能性が高いことが指摘されています。また、フローでみた家計貯蓄が減少してきていることから、家計サイドからの資金が潤沢に金融機関に流れるような状態は“過去のもの”になっていく可能性も否めません。そうなれば、今後、マクロでみた本源的預金は減少するので、金融機関の国債への運用も減少させる可能性があり、国内での国債消化という点について、暗雲がたちこめる状態になることも十分に考えられます。

このような事態になってしまった場合、海外からのファイナンスが必要になりますが、そもそも世界的にみて日本の政府債務残高は非常に高いわけですから、「国内ではダメだから海外から」ということは簡単ではないでしょう。つまり、日本において国内ファイナンスは「将来も可能である」とは必ずしもいえず、しかも、国内ファイナンスが出来なくなった途端に海外からもファイナンスが困難になるはずだから、“日本のギリシャ化”が現実化する可能性があるといえます。

まぁ、サドンデスのような破たんが日本で起こる可能性は少ないかもしれませんが、将来の日本においては、ギリシャと同様の問題が起こる可能性はあることになります。

この場合に問題になるのが「2.」の「増税の現実可能性」ですが、日本の場合、世界的にみて「消費税5%」と税率は非常に低いので、十分に税金の引き上げは可能だと考えることができます。また実際にも、税率の引き上げに対して“世界の投資家”たちは「国会を通す必要はあるが、当然、大丈夫だろう」と思っているので、日本の財政問題に対しては楽観しているといえます。これがアンカーとなっているので、日本国債の利回りが低金利を維持できているのだろうと推測されます。

ただ、この点に関しても「増税に対しては根強い反対がある」のは日本でも同じであり、増税議論の中でギリシャの大規模なストのような事件が「日本では起こらない」とはいえません。もし万が一にも、ギリシャのようなことがあれば、深刻な事態に発展することはあり得るということになります。

その意味で現時点では「2.」の違いはあるものの、将来については“日本のギリシャ化”の可能性を否定することはできないことになります。

ところが・・・

「1.」や「2.」はそれほどの大きな問題ではなく、ギリシャと日本の根本的な違いは「通貨の発行権の有無なのだ」と主張する人も多くいるようです。つまり、「3.」の違いがあるのだから「日本はギリシャ化しない」というわけです。本当でしょうか?

例えば、ギリシャのように対外負債が多く、通貨発行権がない国の場合、政府債務残高が多いとサドンデスも含めた破たんの可能性が高いものの、もしギリシャに通貨発行権があれば、現在のような事態に「発展しなかった」といえるのでしょうか。

そのようなことはないでしょう。ギリシャのように対外債務が多く、サドンデスの可能性があるような場合、自国通貨は極端に他の通貨に対して下落しているでしょうから、通貨をいくら刷ったとしても返済原資とはならないので、増税や公務員の削減等が出来ない以上、破たんは避けられなかったはずであり、このような事態になれば、現在同様に、他国からつなぎ融資を受けるか、IMFなどに救済を求めることになっていたでしょう。

翻って、日本でも通貨を発行することができるのは中央銀行たる日銀であり、政府ではありません。なので、通貨発行権が「ある/ない」というのは、そもそも何の関係もないことになります。

とはいえ、もし仮に日本銀行が政府の言いなりになって、日銀が「通貨発行権を濫用して、事を納める」となった場合には、おそらく「日銀が政府国債を購入して、日銀の資産とする」ということになるのでしょう。ここでは「政府と日銀」を一体として考えているので、資産と負債が相殺されることから、政府債務が巨額であるという点についての問題はかなり少なくなるはずです。でも、そのようなことをすれば、それと引き換えに「通貨=円」が、大量に市場にばら撒かれるわけですから、(対外負債は少ないので、サドンデスの可能性は少ないでしょうが)当然、円安が加速することになると思われます。

しかしここでも「日本には大量の対外純資産があるので、円安にはならない」という話があるようです。本当でしょうか?

日本の対外純資産は、今までの経済行動によって民間主体が積み上げてきたものですが、それが多いからといっても、政府債務の引き受けによって日銀から大量に円が発行されれば、市場メカニズムによって円は急速に売られるのは当然です。つまり、「対外純資産が多い」が「円が安くならない」とイコールではないのです。そもそも対外純資産の多い国は「当該国通貨の為替変動リスクが低い」というだけであり、それが直接に為替レートを決定するわけではありません(投資家心理には影響を与えますが)。

このように「3.」における「違い」を強調する人々は、通貨当局が「通貨発行権を濫用して、事を納めることができる」と考えているのでしょうが、それは自国通貨を暴落させるだけであり、何の解決にもならないのです。

これが「問題ではない」と考える人は、何故、今、ユーロ圏が「ユーロ安」を大きな問題と捉えているのかを考えてみては如何でしょうか。

以上のように、現在時点の日本とギリシャの状況は「違う」のは確かですが、それは将来時点においても担保されているわけではなく、むしろ、想定される将来の日本経済を考慮すれば、“日本のギリシャ化”が現実になる可能性があるということを認識すべきだと、私は思っています。特に「通貨発行権」が何かの免罪符になると考えるのは誤りであり、注意すべき点だと思っています。

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