「世界の中の日本」を考える若者達を育てたい

2010年10月18日 09:58

日本の各産業分野で国際競争力の低下が懸念されて久しくなりますが、その主たる原因は、韓国、台湾、中国、それに東南アジア諸国の追い上げだと思います。

以前は、欧米諸国に対し、発展途上の日本の競争力がどんどん高まっていく状況だったので、日本人は過信と言っていいほど自信を持っていました。韓国や台湾については、「安い労賃を利用できるかもしれない」という程度の認識しかなく、競争相手としては全く眼中にはありませんでした。中国に至っては、国交もなく、今の北朝鮮とあまり変わらない感じでした。


それが、今では、彼等との競争は、「対等の真剣勝負」であり、時には「彼等にはとても勝てない」と感じる時さえあります。にもかかわらず、「それでは日本人はどこで負けているのか」という事を本気で分析し、対抗策を考えようとしている人は、あまりいないように思うのです。

かつて、欧米人は、日本人に次第に市場を取られていく状況に直面し、「MITIという悪い奴がいて、国ぐるみでやっているのだから勝てない」とか、「労働者が休みも取らず、低賃金に耐えて、ウサギ小屋のような家に住んでいる国とはとても競争できない」とかの捨てゼリフを吐き、これに対し、我々日本人は、「分かってないなあ。要は『考え方』『やり方』の違いで我々は勝っているのだよ」と、心の中で嘯いていました。それが今では、かつての欧米人さながらの捨てゼリフを吐いている日本人を、しばしば見かけるのです。

必要な事は唯一つ。真実の姿を凝視して、それを因数分解(要因毎に分析)し、個々の要因について必要な対策を講じる事です。

この場合、隣国である韓国との対比は特に有益と思われます。文化的にも近く、置かれた立場も類似しているのに、問題に対するアプローチはかなり違うように思えるからです。勿論、一番気になるのは、「韓国は最近かなり元気なのに、日本は何となく元気がない」という事です。

日本と韓国の比較は、色々な面で極めて興味があります。日本民族は、古くから日本に住んで縄文式文化を作り上げてきた人達と、長期間にわたって色々な形で韓半島から移り住み弥生式文化をつくりあげた人達との混合と思われるので、日本人と韓国人は元々血の繋がった兄弟のようなものです。しかし、地理的環境の違いから、物事に対する対処の仕方では、現在相当違った特徴を示すに至っていると思います。

日本は、文明発祥の地である中国から遠かったので、古代においては「未開地」でしたが、気候温暖で水資源に恵まれた豊かな土地でした。海に守られていた為、異民族の襲来が殆どなく、戦争は数多くあっても、同じ民族間での「勢力争い」のレベルの戦争だったので、庶民の生活はさして大きな影響を受けず、文化的な激変もありませんでした。従って、人々は、じっくりと腰を落ち着けて、「細部へのこだわり」に集中できたのです。「何事にも誠意を持って対処し、我慢していれば道は開ける」という考えも定着しました。

これに対し、韓半島では常に中国との関係を考えておらねばならず、中国の王朝が強い時には臣従するしか道はありませんでした。中国だけではなく、北方の騎馬民族との関係も常に緊張の要因になりました。これはどういう事かと言えば、よく言えば「洗練された外交感覚」、悪く言えば「権謀術策」がなければ生き残れなかったという事です。両方に共通なのは「したたかさ」でしょうか。

異民族の支配を受けることがなかった分だけ、日本人のエネルギーは安心して中に向い、「質の向上」や「約束の遵守」に高い価値を感じるに至ったものと思われます。これに対し、韓国人は、「常に四囲の一番強い勢力から圧迫を受ける」という極めて困難な環境の中で、「うまく身を処していく才覚」を身につけたと言えるかもしれません。

日本人も韓国人も、近代工業社会の中で競争力を持つ為に必要な遺伝子を共有しています。「頭の良さ」、「勤勉さ」、「集中力」等です。それに加えるに、日本人には「肌目細かさ」や「品質や約束事に対する誠実さ」があり、韓国人には、「ダイナミックな国際感覚」や「商業感覚」があると言えるでしょう。「国際感覚」や「商業感覚」は、「スピード」、「分かり易さ」、「柔軟性」、「したたかさ」、更には「戦略性」に通じます。

この様に考えると、「かなりうまく物事が回り始めているかのように見える韓国」を横目に見ながら、「国際競争力の維持」に不安を感じ始めた日本が、今何よりも重視すべきは、「国際感覚」と「商業感覚」を身につけることではないかと思えます。日本は常に「too late, too little」という批判を受けており、万事が「分かり難い」と思われています。折角「技術力」とりわけ「生産技術」の面では卓抜した力を持っているのに、活躍の場が縮小気味なのは、ひとえにその為でしょう。

日本の大企業と韓国の大企業を比べてみると、一つのことが極めて顕著です。それは韓国企業の場合は、上に行けば行く程「国際感覚」があるのに対し、日本企業はその逆のようだという事です。そして、この違いが組織全体に大きな影響をもたらしています。この理由としては、トップ経営者の平均年齢や海外経験の違いもあるでしょうが、それ以上に社内の力関係が影響していると思います。日本では、長い間、「国際派」は「少数派」を意味し、組織の中で「力がない」ことを意味してきました。

「国際感覚」や「商業感覚」の重要性は、外国企業との競争に晒されている仕事の第一線にいれば、誰でもが嫌でも認識する筈です。認識していないのは、外国企業と競争していない伝統的な大企業(もはやこういう会社は少ないと思いますが、電力や通信を含む公益的な企業はこれに含まれます)や、現場と接触のない「年輩のお偉方」だけでしょう。しかし、問題は、国政においても、会社の経営においても、こういう人達がなおも大きな決定権を持っているという事です。

現在の状況はそう簡単には変えられませんが、少なくとも出来ることから始めることが必要です。「効果はずっと先にならないと出てこない」という事でも、何もしないよりマシでしょう。

日本に今一番必要な事は、海外で学び、或いは仕事をした経験のある若者達の数を早急に増やし、彼等が一日も早く経営幹部に育っていける方策を考えることです。いつも言っている事ですが、その為には、先ずは大企業が「採用方針」をはじめとする「人事政策」を一新し、海外志向の若者達に十分なインセンティブを与える事です。そして、その次には、「国の教育政策」を一新して、同じ効果を狙う事です。

これは一日も早く行う必要があります。大人達が変化を恐れ、十年一日のように同じ事を繰り返しているうちに、既に状況はどんどん悪くなっているからです。住み心地の良い日本に満足し、関心が「身の回りの日常」に向かっている若者達は、海外渡航や海外留学には最早あまり興味を持たず、会社に入ってからも海外勤務を忌避する傾向があると聞いています。

この様な流れを断ち切るためには、国や大企業が、「活躍の場を海外に求めても良い」と考えている若者達に、はっきりとしたインセンティブを与え、それを明確に示すことが必須です。

にもかかわらず、現実には何が起こっているでしょうか? 就職難に怯える学生達に対して強い影響力を持っている筈の大企業は、口では「海外で力を発揮できる人材を求めている」と言いながら、一向にインセンティブを明示せず、「卒業の1年半前から就職活動を始めなければならない為に、計画していた留学を諦めざるを得なかった」という学生達に、何の救いの手も差し伸べてはいません。

以下に、この面での日本と韓国との比較を示す幾つかの数字があります。

・政府の教育に対する支出は、日本の9.5%に対し韓国は15.3%(OECD平均は13.2%)。

・海外留学生の数(2009年度)を比較すると、日本は、米国へ2.9万人、中国へ1.6万人であるのに対し、韓国は、米国へ7.5万人、中国へ6.4万人。(日本の総人口が韓国の3倍に近いことを考えると、日本人の留学生の人口比が韓国並みになる為には、米国向けで現在の4倍、中国向けでは10倍以上にならなければならない事になります。)

・英語は、日本では中学1年からの必修だが、韓国では小学3年から必修。(その上、韓国では、夏休みには母親が子供を連れてフィリピンに行き、そこで子供を英会話学校に通わせるという様な事までが流行になっていると聞きました。)

・情報通信分野の技術者の育成については、韓国は特に力を入れており、1997年に設立してICU(情報通信大学)を2009年にKAIST(科学技術院)と統合。この中で、実践と国際性を重視した「短期集中教育」プログラム(学士3年、修士1.5年)も走らせている。

・韓国では、「人材開発投資控除」という税法上の優遇措置もあり、民間企業の職業訓練施設への投資額の7%は控除の対象となる。

これを見て、何も心配にならない人はいるでしょうか? 

考えるべき事は色々ありますが、ここでは、先ずは一つの事だけに焦点を絞りたいと思います。

日本人の最大の問題は、常に「日本」から発想し、そこから「海外」を見ることです。しかし、実は、「日本」は「世界」のコンポーネンツの一つに過ぎないのです。ですから、本来は、先ず「世界」をベースに発想し、その中で「日本」を見ることが必要です。この為には、一人でも多くの若者達が海外に住み、外国人の中に混じって一緒に学び、一緒に仕事をする経験をつむことが、何よりも近道です。

手遅れにならないうちに、何らかの改革をせねばなりません。

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