ゲーム化する就職活動 - 『就活エリートの迷走』

2010年12月19日 17:20

就活エリートの迷走 (ちくま新書)就活エリートの迷走 (ちくま新書)
著者:豊田 義博
筑摩書房(2010-12-08)
販売元:Amazon.co.jp
★★★☆☆


大学3年生は、もう就活の季節である。学生生活の半分近くを会社回りに費やすのは、学生にとっても企業にとっても膨大なエネルギーの浪費だが、おさまる気配がない。就職協定で規制しようとしてもだめだったし、それをやめて自由化してもだめだった。その根本的な原因は、大学生が多すぎることだ。高等教育を受ける能力も意欲もない学生が増えた一方、かつて大卒ホワイトカラーの仕事だった事務職がコンピュータの導入によって減ってミスマッチが大きくなっている。

大企業は一般事務は高卒や非正社員で処理し、大卒は幹部社員に限定するので、一部の銘柄大学以外は採用する気がない。それなのに「エントリーシート」やら「キャリアデザイン」やら、もっともらしい書類を書かせるものだから、学生は幻想を抱いて必死に文書作成の技術を学び、面接もゲーム化する。この結果、作文や面接のうまい「就活エリート」が、入社してから目的を失い、仕事に適応できない。

本書も指摘するように、こういう学生を批判するのはお門違いである。その原因は、いまだに労働者の専門能力を問わないで「大卒総合職」といった漠然とした職種で採用する企業にあるからだ。しかしこれも、正社員を採用したら一生「雇用責任」を負って4億円以上の投資になることを考えると、真っ白な新卒を採用して汎用サラリーマンとして使い回そうとするのはやむをえない面がある。

この20年、日本経済は大きな試練を受けているのに、労働市場は驚くほど変化していない。長期にわたる不況の中で企業も学生も内向きになり、日本的雇用という「悪い均衡」から動けないのだろう。そしてこのような非効率的な採用が企業を劣化させ、さらに労働需給を悪化させる悪循環に入っている。こういう均衡を壊す力は労働市場の規制改革しかないが、この点は民主党政権が続くかぎり絶望的である。労働市場が変わらないかぎり、日本経済の長期低迷は続くだろう。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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