コンビニ業界がもがき苦しんでいる。基本的に低価格競争に参入しないコンビニは、価格を基準に商品を買い分けている消費者からはますます遠い存在になっていくはずだ。
【25年目で限界を迎えたビジネスモデル】
1970年代中頃に日本に移植されたコンビニは、本家アメリカとは大きく異なる形で発展してきた。30坪の狭い店内に3000アイテムにおよぶ食料品・日用雑貨を配し、宅配便受け付け、荷物のピックアップ、公共料金や保険金の収納代行、各種チケット販売、コピー・ファックス、ATM、電子マネー、クレジットカード決済等々さまざまなサービス機能を積み重ねてきた。
しかしながら、コンパクト化、ハイテク化、効率化が存分に施される日本のコンビニは、ワールドワイドの視点からみれば、ケータイ電話同様、ガラパゴス化しているかもしれない。たとえばアメリカのコンビニはガソリンスタンドに併設されているものが多い。コンビニに歩いて行くということもなければ、深夜にそのために出歩くのも危険である。
香港ではコンビニ(便利店)への機能の一極集中は見られず、携帯電話料金の支払いはドラッグストアでやっているし、小食店(串焼きや揚げ物を売る露天)が日本のコンビニの肉まん、唐揚げ、おでん等の部分を補っている。日本の田舎にいると、夜になればコンビニ以外に選択肢がないのに対して、香港でのコンビニは数あるチョイスのうちの1つでしかないという気がする。
日本のコンビニ産業が成長の限界を迎えたのがちょうど2000年。この年を境に、既存店1店舗あたりの売り上げが下落し始めたのだ。
どんなに素晴らしいビジネスモデルでも30年経てば限界を晒すものだと言われてきたが、日本のコンビニは25年目で大きな曲がり角を迎えてしまい、その後も既存店1店舗あたりの売り上げはタスポ効果の年を除き、毎年平均5%のペースで下落を続けてきた。こうした下降曲線はかつての百貨店や総合スーパーと軌を一にしている。
だが、わたしとは異なるイメージを抱く人も多いだろう。百貨店や総合スーパー全体の年間売上高が明らかに落ちているのに対して、コンビニ全体のそれはわずかながらも上昇しているからで、それが目を曇らせる原因となっている。
忘れてならないのは、百貨店や総合スーパーが直営方式であるのに対して、コンビニは基本的にフランチャイズチェーン(FC)・ビジネスであることだ。フランチャイザー(コンビニ本部)はフランチャイジー(加盟店)からロイヤリティーを上納させることで利益を得る。つまり、加盟店を増やせば増やすほど儲かるシステムになっている。
コンビニが日本に導入された当時、大手コンビニ本部は「共存共栄」関係を訴えて、加盟店網を急速に拡大してきた。ここ数年表面化してきた特殊かつ不可解な会計方式、消費期限が近い商品の値下げへの圧力、劣悪な労働環境などに対する不満は当初からあったのだろうが、加盟店が順調に売り上げを増やしていた時代には、それらは「共存共栄」という美名の下に封じ込められてきた。
【眉唾だった加盟店との共存共栄】
しかし、市場が臨界点に達すると、加盟店が抱える不満のマグマが噴出してきた。
これは明らかにコンビニ本部側に非がある。2000年に成長が限界を迎え、1店舗当たりの売り上げが下落に転じていったにもかかわらず、コンビニ本部は加盟店との契約関係を改善せず、しかも多店舗化戦略を変更しようとはしなかった。それどころか自らの利益を確保するために多店舗化に拍車をかける始末であった。
ここに加盟店に示してきた「共存共栄」の関係が眉唾であったことを露呈してしまったわけである。
現在の総店舗数は4万6千店超。毎年3千店舗以上が出店するが、閉店する店舗も50%を超える。チェーンストア協会の資料によれば、1平方米当たりの年間売上高は1997年以降10年で約4割も減少。それをカバーしたのが多店舗化であった。
これはFCビジネスはオーナーのなり手さえ確保できれば旨味が大きいことを証明したようなものではないか。コンビニ本部だけが肥り、加盟店を細らせるのみの過剰出店は、既存の加盟店の売り上げを減らし続け、廃業に追い込む結果を招くものでしかない。
だが、こうしたエゴ剥き出しのやりかたはやがてコンビニ本部をも蝕み、コンビニ業界全体を死に至らしめるはずである。えげつないなと思うのは、最近、大手コンビニを傘下にもつ小売業が、小型スーパーの出店攻勢をかけていることだ。見にいくと、系列コンビニとかなりの商品が重複しており、完全に競合状態にある。
価格決定権をFC本部に握られているコンビニ加盟店と低価格を売り物にする小型スーパーが隣接していたら、結果は明白だ。せっかく加盟店が生鮮を扱ったり、申し訳程度ではあるものの店内調理を始めたりして、懸命に生き残りを図るのを嘲笑うかのような蛮行と言わざるを得ない。
コンビニを傘下に置く小売業は加盟店をそこまで苦しめてどうするのか。すでにコンビニ消滅へのカウントダウンが始まっているのかもしれない。
ノンフィクション作家 加藤鉱