ゲーム化する就職活動 - 『就活エリートの迷走』

池田 信夫

就活エリートの迷走 (ちくま新書)就活エリートの迷走 (ちくま新書)
著者:豊田 義博
筑摩書房(2010-12-08)
販売元:Amazon.co.jp
★★★☆☆


大学3年生は、もう就活の季節である。学生生活の半分近くを会社回りに費やすのは、学生にとっても企業にとっても膨大なエネルギーの浪費だが、おさまる気配がない。就職協定で規制しようとしてもだめだったし、それをやめて自由化してもだめだった。その根本的な原因は、大学生が多すぎることだ。高等教育を受ける能力も意欲もない学生が増えた一方、かつて大卒ホワイトカラーの仕事だった事務職がコンピュータの導入によって減ってミスマッチが大きくなっている。

大企業は一般事務は高卒や非正社員で処理し、大卒は幹部社員に限定するので、一部の銘柄大学以外は採用する気がない。それなのに「エントリーシート」やら「キャリアデザイン」やら、もっともらしい書類を書かせるものだから、学生は幻想を抱いて必死に文書作成の技術を学び、面接もゲーム化する。この結果、作文や面接のうまい「就活エリート」が、入社してから目的を失い、仕事に適応できない。

本書も指摘するように、こういう学生を批判するのはお門違いである。その原因は、いまだに労働者の専門能力を問わないで「大卒総合職」といった漠然とした職種で採用する企業にあるからだ。しかしこれも、正社員を採用したら一生「雇用責任」を負って4億円以上の投資になることを考えると、真っ白な新卒を採用して汎用サラリーマンとして使い回そうとするのはやむをえない面がある。

この20年、日本経済は大きな試練を受けているのに、労働市場は驚くほど変化していない。長期にわたる不況の中で企業も学生も内向きになり、日本的雇用という「悪い均衡」から動けないのだろう。そしてこのような非効率的な採用が企業を劣化させ、さらに労働需給を悪化させる悪循環に入っている。こういう均衡を壊す力は労働市場の規制改革しかないが、この点は民主党政権が続くかぎり絶望的である。労働市場が変わらないかぎり、日本経済の長期低迷は続くだろう。

コメント

  1. 今の日本国内だけでの成長が難しくなり、海外へ成長の可能性を求めている企業の実態という点と、ITの発達によって今までルーティンワークをこなす人材が必要なくなってより高度な、クリエイティブな仕事を要求するようになってきているという点で、それに答える学生が少ないということがあると想います。だから企業側も優秀な留学生を採用したいと考えるようになっていると思います。学生側がその実態を理解していないという側面も就活がゲーム化している原因の一つではないでしょうか。

  2. 仰る通りだと思うのですが、現在の経団連など財界団体の主張を聞く限りでは、うっかり雇用規制をゆるめたら、ただでさえ機能していない労働基準監督署が何かできるはずもなく、解雇をちらつかせて労働環境をさらに悪化させかねません。企業が本格的に通年採用を行って積極的に中途採用をとり、それができなければ過大であっても売り上げに対する税金を上納すると念書でも入れない限り、何をするかわかりません。私は、それほど今現在の経営者世代は全く信用ならないと思っています。さらには企業の国外逃亡の禁止と国益に反する行動を取ったら懲罰的な税金を法人にも経営者個人にも課すべきだとすら考えています。
    ゼニのためなら国をも滅ぼす。それが今の財界の本音でしょう。
    まあどっちにしても民主党が政権を握っている間はどうにもならないわけですが。

  3. 指数年齢というのはどうでしょう。例えば人間の年齢を2の0乗(1)を0歳、2の1乗(2)までを1歳、2の2乗(4)までを2歳、2の3乗(8)までを3歳、2の4乗(16)までを4歳、2の5乗(32)までを5歳、2の6乗(64)までを6歳、2の7乗(128)を7歳とするのです。で、指数年齢4歳の内に義務教育を終え指数年齢5歳の内に就職すると。同じ指数年齢の人は全て“新卒”扱いするのです。もっと年齢区分を大雑把にしてしまえば、年代間の不平等が均されると思います。

  4. sonderweg より:

    主に文系の話ですが、新卒を逃して既卒になるというのは強烈な負のシグナリングになるので、就活生にとって新卒は、ワン・ラスト・チャンスであり、人生の総決算なわけです。したがって、茶番とはわかっていても学業そっちのけで就職活動に全力を投じざるを得ません。専門性を身に着けることなど不可能です。そのような状況が逆に大学で勉強することに対して無力感を生んでいるようにすら思います。
    また、欧米ではインターンシップは長期(半年から一年)のものが一般的なようです。対して日本では1週間とかその程度です。インターンシップによって職業人としての適正を見極めることが出来ますが、大学入学から二年半もすれば就活が始まってしまう現状ではそのような事は不可能です。悠長にそんなことをしていては、既卒になって人生を棒に振ってしまいかねません。
    したがって学生はあまりに無知な状態で就職活動に挑まねばなりません。とりあえず名の通った大企業に応募しておこうと言う安易な傾向も、このような状況から生まれてくるものと思います。
    そのような、判で押したような学生を選別しなければならない企業が、さらに選考を早期化、長期化させているという悪循環に陥っているのが現状だと思います。