『事業を再定義する』ということ

古川 賢太郎

Product-Lifecycle-Managementと同じく事業のライフサイクルを管理していくことは重要だ。
事業ライフサイクル


市場が縮小して事業が衰退していくときに、既存事業をどうやって縮小し、余ったりソースをどんな事業に振り向けるかは難しい。先日、Kodakの決算が大幅な赤字になると株価が急落したが、カメラ・フィルム業界は、企業が事業を再定義するときの対照社会実験としては非常に興味深い。カメラ・フィルムメーカーは20年前と今ではプレイヤーが大幅に変わっている。日本ではコニカがミノルタと合併し、その後ソニーにカメラ事業が売却された。フジフィルムはフィルムから軸足を移し、化学工業に力を入れている。

富士フィルムが製薬メーカーを買収したり、化粧品事業に進出したときに、「畑違いに多角化して失敗するのではないか?」と思ったものだが、富士フィルムの選択は決して無謀なものではなかった。富士フィルムは自分達のリソースを十分に精査して、フィルム以外でも通用する技術として、高品質フィルムを製造するために分子を均一に配置する制御技術に目をつけた。薬品や化粧品には分子を均一化する技術が通用すると考えての進出で、既存リソースを転用する目の付け所としては良く考えられたものだと思う。

一方で、コダックは写真フィルムやアナログカメラ事業の転換が思う様にいかなかった。コダックがアナログカメラやフィルムに固執して事業転換を疎かにしていたわけではない。デジタルカメラを世界ではじめて開発したのはコダックなのだ。しかし、デジタルカメラが登場した時にカメラは映像エンタテイメントの主役から一デバイスに転落してしまった。コダックはあくまでもカメラに拘ったため、苦境に陥ってしまった。

逆に富士フィルムは既存事業の中で他業界でも通用する要素技術を取り出して新規事業を開拓した。この「他社に負けない要素技術」は何か?ということを認識出来るかどうかがこの二社を分けた。しかし、この様に「他社に負けない要素技術」をちゃんと認識している企業はどれくらいあるだろうか?

事業を再定義する際に、この要素技術を抑えずにやると、既存顧客に縛られて思い切った新規事業開発が出来なかったり、逆に既存製品を他の市場に売り込もうとして失敗したりすることになる。確かに顧客ニーズは大事だが、そのニーズの何に他に負けないソリューションを提供できるのかを検討できている企業は少ない様に思う。TPP参加など今後企業は既存事業から事業転換や多角化を迫られるケースは多くなってくるだろう。その苦境にあたって、既存事業をちゃんと評価することが一番大事なのではないかと思う。

古川賢太郎
ブログ:賢太郎の物書き修行