原発ゼロは可能なのか--シンポジウム「エネルギー政策・新政権への提言」報告・その2

2012年12月12日 09:00

gepr-icon GEPR編集部

アゴラ研究所はエネルギー情報を集めたバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)を運営している。12月に行われる総選挙を前に、NHNJapanの運営する言論サイトBLOGOS http://blogos.com/ 、またニコニコ生放送を運営するドワンゴ社と協力して、シンポジウム「エネルギー政策・新政権への提言」を11月26、27日の2日に渡って行った。27日に行われた第二部「原発ゼロは可能なのか」を報告する。

第二部では長期的に原発ゼロは可能なのかというテーマを取り上げた。放射性廃棄物処理、核燃料サイクルをどうするのか、民主党の「原発ゼロ政策」は実現可能なのかを取り上げた。

出席者は植田和弘(京都大学教授)、鈴木達治郎(原子力委員長代理)、山名元(京大原子炉実験所教授)、澤昭裕(国際環境経済研究所所長)の環境・エネルギーの専門家各氏。司会は池田信夫アゴラ研究所所長が務めた。(出席者経歴一覧

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写真1 シンポジウム「エネルギー政策・新政権への提言・第二部 原発ゼロは可能なのか」


高レベル放射性廃棄物処理、原子力委員会の見解

シンポジウムの行われた27日には原子力をめぐる大きなニュースが2つあった。原子力委員会は同日、「今後の高レベル放射性廃棄物の地層処分に係る取組について(見解案)」を公開した。(毎日新聞11月28日解説記事「原子力委:高レベル放射性廃棄物処分、暫定保管へ転換提言」)原子力委員会の求めに応じて、政府へ科学的見解を提言する日本学術会議が「回答 高レベル放射性廃棄物の処分にについて」という文章を今年9月に公表したことに答え、この問題の見解をまとめた。

また同日には、小沢一郎前衆議院議員が代表を務める「国民の生活が第一」などが「卒原発」を掲げる嘉田由紀子滋賀県知事を代表とする「日本未来の党」に合流することが決まった。12月に行われる総選挙で、原発の是非が争点になることが改めて示された。

原子力委員会の取組案は、その政策の再構築を行うべきと、提言している。そして一時的に地上で保管場をつくる「暫定保管」も検討。ただ学術会議の打ち出した廃棄物の保管で量を定めた上で原発の稼動を考えるべきという「総量管理」の提言については、採用するとはしていない。

使用済み核燃料は、その無害化は今の技術では困難だ。世界のどの国でも「捨て方」の決定は難航しており、「原発はトイレなきマンション」と批判されている。日本では特殊容器に密閉してそのまま埋める「地層処分」、また使用済核燃料を処理して再び原発の燃料として使う「核燃料サイクル」の2つの考えがある。国は後者の政策を進めてきたが、再処理しても廃棄物は発生してしまう。その最終処分の場所が国内で決まっていない。

I31A6252そこで出席者の鈴木氏が案について原子力委員会の考えを解説した。同委員会は国の原子力政策を立案する組織だ。「今の原子力政策の最大の問題は国民の信頼失墜。政府にいる立場として深い反省をしており、対話を重ねることで信頼を作りたい」と願いを述べた。また総量管理については、「貯蔵方法についてはさまざまな手段があり、検討が必要」と消極的姿勢を示した。写真2 鈴木達治郎 原子力委員会委員長代理

また「現世代で取り組みの方向を決める責務があることを訴えた。同時に一見矛盾するようだが、次世代の人が選べる仕組みも作っておくべきということも述べた」。その結果、地層処分をするものの、そこにはアクセスできる形を残し、完全に埋めるには、時間を置こうとする形だ。また再処理についても放棄ではなく、再検討という。

核燃料サイクル、核兵器5000発分のプルトニウムをどうするか

植田京大教授は、学術会議と委員会の提言について積極的な取り組みと評価できるとした。「これまでは廃棄物処分について『どれが安全か』という専門家の議論と、処理の形をつくろうとする政府の動きが主導した。しかしそれだけで問題は解決しないことは明らかだ。国民的合意が前提になくてはならない」。また廃棄による原子力利用の制約の考えも、処分場が決まらない現状を考えると、検討しなければならないと指摘した。

一方で経産省の元行政官だった澤氏は「国民の合意は必要だが、いつまでも合意を待つと、何も進まないことになる」と述べた。

I31A6293写真3 植田和弘京大教授

議論は、核燃料サイクルに移った。現在、核燃料サイクルの施設が日本原燃六ヶ所工場で建設中だ。さらにそのサイクルで使用済核燃料から分離されたプルトニウムを使う日本原子力研究開発機構の高速増殖炉もんじゅが、事故を繰り返して稼動ができずに止まっている。

山名京大教授はその維持は必要という考えだ。使用済み核燃料は現在日本には2万5000トンがある。核燃料サイクルを進めるとその量が減る。容積は7分の1になり、スペースの問題では直接処分より有利だ。

またコストの問題も取り上げた。民主党政権の内閣府・国家戦略室が運営したエネルギー・環境会議では、1キロワット当たりのコストは再処理をすれば1.98円、直接処分で1円、両方の併用で1.39円とした。原発の発電コストは6.8円だ。「この価格なら再処理と直接処分のコストは大きな差はない。フランスは核燃料サイクルを行っている。技術の成熟性と経済性はまだ途上にあるが、止める必要はないのではないか」指摘した。また高速増殖炉も「研究を続けるべきで、その芽を積む必要はない」と述べた。

I31A6275写真4 山名元 京大教授

これについては鈴木氏から疑問が出た。「高速増殖炉ができないと核燃料サイクルの利点は「それほど大きくないと評価できる」と認識を述べた。また廃棄物処理は2030年まで兆円単位の費用になると見込まれ、巨額ゆえに可能な限りコストは下げた方が良く、その点で直接処分のメリットはあると指摘した。

また別の論点もある。日本はプルトニウム44トンを保有する。これは5000発分の核兵器の材料になる。澤氏は指摘した。「日米安保、核不拡散の観点から、いきなり核燃料サイクルを止めると問題が起こる。民主党の原発ゼロ政策が急に止まったのも、米国からの懸念が伝えられたためのようだ」という。

池田氏は「人のいない場所に核物質を隔離するという発想ではいけないのか。深海への海洋投棄、また人口が少なく地震や地下水のない場所は、外国にはあり、世界の核物質を集めて、集中管理することはできるのではないか」と述べた。山名氏によれば、原子力工学では発想の中で「核物質を隔離する」と必ず考えるが、新しい視点からの検証もするべきという。ただしその場合でも「リスクの検証が必要で、その評価には長い時間がかかりそうだ」と述べた。

原発ゼロ、実現は可能か

次に民主党政権が掲げた「2030年代までに原発ゼロを目指す」という政策目標についての議論が行われた。

鈴木氏は「脱原発社会を目指すという方向に国は舵を切った。これに基づき行政は動いているが、その作り替えのための移行期間が必要」と述べた。植田氏は「福島の原発事故を見て損害の程度が算定できないほど、リスクが巨大であることが社会のすべての人に認識された。リスクを避けようというのは当然」と指摘した。

ただしCO2を出さないことから、温暖化対策の切札とされてきた原発が使えなくなることの問題もある。「脱原発、CO2削減は両方大事だ。困難なことは間違いないが、省エネなどの政策を積み重ねていくしかない」という。

一方で、澤氏は「論点がありすぎて難しいが、いずれの問題でも、一言でまとめると国、つまり政治家の姿勢がぶれている。原発はいろいろな制度、しがらみが絡み合っていて、制度を動かすには時間がかかることは認めなければならない」とした。

山名氏は、原子力は当面必要という立場を述べた。原子力は、既存のものを使う限りは、コストは安い。燃料費の発電コストが5%。一方で火力発電はほとんど燃料費ですから、海外にかなりのお金を払う。原発が停止したことによって、追加の燃料費は年に3兆円から4兆円かかる。「エネルギー体系を変えることは必要だが、全電力の中で2-3割原発による電力を残していくことは、技術の維持、コストなどさまざまなメリットがある」と述べた。

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写真5 澤昭裕 国際環境経済研究所所長

エネルギー政策、新政権への提言

最後に、出席者は新政権への提言を述べた。澤氏は「選挙のキャンペーンを見ると原子力が単純な政治スローガンになっている。それを止めて、中身のある議論、全体を見た議論をしてほしい」と述べた。山名氏も「まったく同じ考え。原子力、火力、再生可能エネルギー省エネのそれぞれのメリット、デメリットの分析、経済や社会への影響の分析が不足している」という。

鈴木氏も「議論の広がりと深まりを行政の立場で、できる限り進めたい。そして、脱原発に舵を切っても、いきなりは無理で、移行期間が必要だ」と強調した。植田氏は「今までのエネルギー政策は閉ざされた場で決まる傾向があった。今は情報があふれすぎて、国民が利用できない状態。共通の基盤をつくり、議論を重ねることが必要だ」と述べた。

2日間のシンポジウムでは、エネルギー、そして原子力をめぐる課題が浮き彫りになった。
そしてエネルギー政策が、政治主導の名の下に混乱していることも示され、専門家は揃って、新政権に「正常化」と議論の深化を期待していた。

シンポジウムの累計視聴者は5万人を超え、原発の賛否双方の立場から、「こういう話し合いの場を増やしてほしい」という感想が寄せられた。

司会を務めたアゴラ研究所の池田信夫所長は、「エネルギー、原子力問題は原発事故以来、時には憎悪とか敵味方の二分論を含む感情的な議論が行われている。そうしたことは今度の選挙で最後にして、冷静な議論を始めるべきではないか」と、シンポジウムの最後に述べた。

I31A6235写真6 池田信夫アゴラ研究所所長

シンポジウムの紹介

シンポジウム第二部については、ビデオがBLOGOSによって公開されている。また要約の文字起こし原稿「原子力の専門家が集結!新政権への提言 原発ゼロは可能なのか」がBLOGOS編集部によってまとめられている。

また第一部の報告「原発はいつ動くのか ― シンポジウム「エネルギー政策・新政権への提言」報告・その1」(GEPR版)(アゴラ版)、ビデオhttp://www.youtube.com/watch?v=hmAWPuiLh9g&feature=player_embedded、BLOGOS編集部による要約の文字起こし原稿「田原総一朗氏が吼えた! 新政権への提言 ~原発はいつ動くのか!?」が公開されている。

なお今回の参加者の方に、エネルギーのバーチャルシンクタンクのGEPRに寄稿いただいている。

鈴木達治郎 原子力委員会委員長代理
原子力に依存しない社会」にむけて:
「移行期間」を設けて原子力政策の構造改革を

山名元 京大原子炉実験所教授
核燃料サイクルと原子力政策(上)― 現実解は再処理の維持による核物質の増加抑制

核燃料サイクルと原子力政策(下)―重要国日本の脱落は国際混乱をもたらす

澤昭裕 国際環境経済研究所所長
核燃料サイクル対策へのアプローチ

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