メディアのコンテンツ課金 新たなブレークスルーの出現 --- 藤村 厚夫

2013年01月21日 12:12

大小、さまざまなメディアが“課金”への取り組みを模索している。多様化する課金ニーズに対応する柔軟なシステムが、メディアのこれからの生き方を広げるはずだ。

2012年末に、ある“事件”が米国メディア業界の注目を集めました。

人気政治ブログで知られる Andrew Sullivan 氏率いるブログメディア The Dish が、Newsweek を買収したことで知られるデジタルメディア大手 The Daily Beast 傘下から独立すると公表したのです。

ブログメディアとはいえ、知名度・影響力ある Dish の移管が注目されるのは当然です。しかし、筆者が“事件”と書いたのは、その移管(独立)にともなって、同メディアが、Daily Beast 時代のビジネスモデルである広告を捨て、購読制の道を選択したというのが理由です。

さらに興味深いのは、同メディアが選択した“年間購読制”は、約20ドルととりあえず購読料を定めてはいるものの、それはあくまでメドで、支払額は読者の判断に委ねられるユニークなものだという点です(参照 → こちら)。

正直にいって、どのくらいの価格にセットすればいいかわからなかった。選択のための前例がない。しかし、19.99ドルは真剣な事業的アプローチからする最低限の価格ではあると思う。われわれは、納得感のある範囲で収入を最大化したいと願っているのだ。

こう Sullivan 氏は述べるとともに、このアプローチの結果、サイト独立公表から丸1日で12000人近くの購読者が集まり、30万ドルを超える購読料を集めたことも公表しています(参照 → こちら)。

要するに、平均約25ドルの支払いを購読者らは選択したというわけです。むろん、熱烈な“Sullivan 信者”が、初速値に大きく寄与しているのに間違いはありません。Sullivan 氏は驚きとともに、今後はサイト独立を知らなかったような人々からの購読料金が逓増する期待を述べています。

さて、本稿では中小のメディアサイトが課金制へと移行する手法について、新たな動向を伝えようと思います。

すでに、米国では New York Times をはじめとする数多くの新聞社系、雑誌系サイトで、“ペイウォール”(課金の壁)を設けることは認知されたトレンドへと発展してきています(米国新聞協会加入新聞では、すでに156媒体が導入している → 参照)。むろん、わが国でも同様に、日経新聞および朝日新聞などの電子版がそのトレンドをなぞっていることは周知の通りです。

筆者が Blog on Digital Media で述べてきたように(参照 → こちら)、厳格な課金制は Web メディアにはなじみづらく、一般的な解として、一定の記事閲覧数以上を課金するようなメーター制、あるいは、無償閲覧記事の中に課金記事を盛り込むようなフリーミアム型モデルが当面主流となっていくでしょう。サイトへの読者アクセスを極力減らさずに課金収入を追加するアプローチが、これらだからです。

しかし、述べてきたような複雑なペイウォール事例は、体力のある大手メディア運営者が時間をかけて企画し、かつ大規模なシステム再構築という“伸るか反るか”の投資をともなうものというのが暗黙の前提でした。

ところが、本稿で取り上げた Dish では、大手新聞・雑誌社が大がかりに実施するようなプロプラエタリ(専用)なシステム投資は行っていません。代わって用いたのが、TinyPass という課金ソリューションです。

同社サイトに掲載された短い動画で、個々の記事を課金コンテンツとして公開するプロセスを確認することができます。

簡単に筆者が理解する TinyPass を説明しましょう。

TinyPass は、WordPress をはじめとするいくつかの一般的なCMSのプラグインとして提供されます。各記事を通常のように編集し、公開時に記事への課金を選択し、価格やダイアログに表示するメッセージなどを設定します。

設定を終えて公開すると、記事のタイトルやリード部分などの下に購買を促すアイコンが表示され、逆に記事の多くの部分が非表示となるのです。

一般的な CMS へのプラグインと書きましたが、API も提供されているため、簡単なコーディングでプロプラエタリな CMS からでも TinyPass の課金メカニズムを呼び出すことができます。

さまざまな課金モデルを選択できることも、特徴です。The Dish のケースのように、“寄付金”のような固定額ではない課金もサポートします。たとえば、以下のようにです。

  • 個別コンテンツへの課金
  • 月額/年額などの定期購読
  • 寄付金型課金(金額任意)
  • メーター制課金(サイト全体で無料閲覧記事数を定め、それ以上に課金)
  • 期間(時間)限定課金(あるいは非課金)
  • ファイルダウンロード課金
  • (たとえば筆者とメディアの間で)課金のシェア

TinyPass への支払いは、開発費用等は不要であり、各課金取引で生じる額の一定額を TinyPass 側が取得するというシンプルで透明なものです。

このように、あらかじめ適合範囲が広く柔軟性を備えた TinyPass は、特色ある課金モデルを実装したいものの、開発スタッフや開発投資予算を持ち合わせないというような中小サイト運営者には重宝しそうです。

冒頭で例に挙げた、Sullivan 氏の“寄付金型年間購読”モデルの実装も、この TinyPass を用いて実現しているのです(参照 → こちら)。

実は、コンテンツ課金を汎用的にサポートするソリューションは TinyPass に止まりません。同様のアプローチに Press+があります。こちらについても紹介しておきます。

同製品「For Publishers」ページを見ると、提供されている機能は TinyPass に遜色なく、著名 CMS プラグインがサポートされておらず、Press+ API 向けにコードを数行追加するのが前提になっていることぐらいが、実装上の差異と見えます。

Press+が、TinyPass に比べてメディア運営者に魅力的な選択に映るのは、むしろ、機能的な差異ではなく提供されるサービスのほうかもしれません。

「Analyze and adjust your meter to reach the optimal settings」(「貴社メディアのメーター制が適切な設定となるよう分析し調整する」)と訴えている箇所です。

たとえば、コンテンツ購読価格をいくらにセットすべきか? 購読有効期間をどのくらいにすべきか? メーター制で無料記事を何本閲覧可能にするか? など、コンテンツ課金制では考えるべき点、試行錯誤しなければならない点がいくつも残されています。

Press+が訴えるのは、同社の課金ソリューション利用サイトを横断的に分析し、上記のチューニングすべきポイントやベストプラクティス(それぞれの成果を集約した成功モデル)を、Press+ 利用メディア運営者に対して指南するとしているところです。

アプリ幻滅期を超えて モバイルアプリ開発、3つのブレークスルー」で、メディアがモバイルアプリを開発する際、個別に内製開発する手法がコスト上の重荷や経験不足が足かせとなり限界に突き当たっている状況に触れました。

そこで、およそモバイルアプリ型メディアで必要とされる機能などをあらかじめ備えた開発基盤を提供するサードパーティが現われ、アプリ開発コストや期間を圧縮するアプローチが潮流となっていることも解説しました。

コンテンツ課金についても、同様の状況が到来しているといえそうです。

先行する重量級のメディアビジネスが個別に内製開発してきた手法を、中小のメディア運営者も利用できるような汎用ソリューションとすることが必要になってきているというべきかもしれません。

マイクロメディアのビジネス化は可能か? Publickey のメディア戦略、全公開」で触れたような専門性の高い、マイクロメディアでこそ特色のある課金制が機能する可能性があります。広告予算が潤沢に見込めないような領域において、2013年は課金モデルに進展があるでしょう。
(藤村)

編集部より:この記事は「BLOG ON DIGITAL MEDIA」2013年1月19日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった藤村厚夫氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はBLOG ON DIGITAL MEDIAをご覧ください。

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