キュレーション、サマリー、レコメンド、さらにその先へ

青木 勇気

少し前、2013年の7月をもってGoogle Readerのサービスが終了するというニュースが流れた。普段からよく使っている方にとっては不便になり、受け入れがたいことだろうと思う。

ほどなく、Google Readerに代わるRSSリーダーとして、UI、動作性が良く、サービス終了後シームレスに移行できる利点を持つ「Feedly」「feedbin」などが注目を浴び、一定の安堵感がもたらされた。しかし一方で、必然的にひとつの疑問が生じる。「ではなぜ、代用品のニーズがあるのにもかかわらず、Google Readerはなくなるのか」と。 


その理由を、「キュレーション型の情報配信が主流になりつつあるからだ。RSSフィードはもう古い」と説明する人がいる。確かに、ユーザーは日々蓄積される情報の海の中から貝殻を探し出すことに疲れているし、そもそもその貝殻に価値があるかどうかを判断するのが難しくなっている。

つまり、メディアが配信する多種多様なコンテンツや、ソーシャルメディア上に流れてくる偶有性の高い情報の中から「選ぶ」のではなく、一人ひとりの趣味、志向にあわせたコンテンツを「受け取り」たいと考えるようになるのは当然である。

このような状況を裏付けるかのように、Googleは「Wavii」を、yahoo!は「Summly」を買収している。「Wavii」は、ネット上に散在するニュースや情報を要約して、ニュースフィード形式で伝えるWebキュレーションサービスで、「Summly」は同じく「遺伝的アルゴリズム」という技術によってニュースを要約し、クオリティの高いサマリーを生成するモバイルリーダーアプリだ。

言うまでもなく、Googleやyahoo!はただ単に「RSSリーダーの進化版」を買ったわけではない。どちらも、キュレーション、サマリー、レコメンドといった切り口で、新しいアルゴリズムを基にした情報伝達のあり方を模索するための投資だろう。

そんな中で、改めて注目を浴びているサービスがある。Twitter、Facebook、はてなアカウントからその人の興味、関心を分析し、それにあったニュース・記事を推薦するパーソナルマガジン「Gunosy(グノシー)」だ。

ギリシャ語で“知識”という意味の「Gnosis」に「u(you)」をはさみ、あなたに知恵を届ける、という意味で名付けたとのことだが、いかにも次世代のキュレーションサービスらしいネーミングである。先日リリースされたiOS Ver2.0では、UIデザインをリニューアルするなど確実にサービスレベルを上げ、現在利用者は10万人を超えている。

Gunosyを使ってみた筆者の感想は、「とにかくサンプルを増やして、学習機能を高める必要がある」だ。毎日25件おすすめの記事が届けられるのだが、現状では佐々木俊尚さんの「朝キュレ」を全部読んだときに得られる満足感と大きな差はない。

また、実際にアルゴリズムの未成熟さに対し批判的な意見が多かったが、確かにある程度情報感度が高い人であれば見つけられる(見かける)ものがほとんどで、潜在的なニーズを可視化するといったレベルには達していない。日ごとに遡って読み返すことができるのは便利だが、そこまでして読むだろうかという部分は否めず、好みを絞り込んだTwitterのTLを眺めている方がいいという人が多いのではないだろうか。

このように書くと批判ばかりしているようだが、Google Readerの代用品となるのではなく、独自のアルゴリズムで新しい情報伝達の形を生み出そうとしているGunosyには大いに期待している。なぜなら、個人にフォーカスして情報を届けるということは、現在主流となっている検索ボックスにキーワードを入力し知りたい情報にリーチする「能動的な」あり方から、ユーザー一人ひとりのデモグラデータ、趣味志向、行動履歴等を分析し最適化された情報を提案される「受動的な」あり方へと、情報収集の体験を大きく変えうるからだ。

もちろん、前者から後者へ一気に移行することはないだろうし、そもそも「あなたが欲しているのは、これらの情報ではありませんか?」「あなたに今必要な情報はこれです」と推薦する際の精度を高めることは簡単ではない。

いわゆる「ビッグデータ」をどのように扱うかという話にも通ずるが、キュレーション、サマリー、レコメンドといった切り口で新しいサービスを生み出すには、データ分析やテキストマイニングを通してユーザーをクラスタリングしたり、導き出される傾向をサマライズするだけでは、新しい体験は生まれてこない。

必要なのは、「発見」である。言い換えれば、一人ひとりの潜在ニーズや無意識を可視化し、それをフィードバックし、気づきを与えることだ。キーワード検索やソーシャルメディア上でのアクションなど、インターネットを使えば使うほど情報が積み重なっていき、プロフィールが豊かになり、それぞれの人生やストーリーを補完してくれる何かを抽出、提案することができるようになる。そういうロジックで新しいサービスを作り上げていくことが求められるのではないだろうか。

もちろん、Googleやyahoo!が指をくわえて見ているわけはなく、先述した「Wavii」や「Summly」のようなサービスを従来の検索エンジンと融合させ、ユーザーに新しい体験を届けるべくアルゴリズムを構築しているはずだ。冒頭で取り上げたGoogle Readerの廃止はあくまではじめの一歩であり、もしかするとGoogle自身がお馴染みのトップページや検索ボックスを破壊するかもしれない。

パラダイムシフトが起こるか、それとも筆者の妄想のまま終わるか。いずれにしても、そう遠くない未来に明らかになるだろう。

青木 勇気
@totti81